姫様と騎士

お先真っ暗なクロのスケ

姫様の下着

 女がどうしてTバックなんて下着を穿くか、などという質問の答えは、決まっている。


 そりゃあ、もちろん、誘ってやがるのさ。


 だから俺は、穿いてんだか何だかよくわからねぇ尻にかぶりつく。


「きゃあああああっ!?」


 歯形がつく程噛んでやったら、悲鳴をあげられた。


「ご静粛に願います、姫様」


 俺は最大限の敬意をもって、姫君に諫言を述べた。

 あまり騒がれると警備の衛兵が駆けつけるかも知れないし、なにより耳障りで仕方ない。

 せっかくの甘美な尻の味が、台無しになっちまう。

 だから騒ぐのはやめて大人しくしろと言ったのだが、このおてんばな姫様は聞く耳を持ちやがらねぇ。


「ど、どうしてお尻を噛むのですか!?」

「それが騎士の勤めだからです」

「騎士にそのような勤めはありません!」


 あれ? そうだっけ?

 つまり、姫様付きの騎士たる俺は、尻を噛めないと?

 なんだ、その不条理は。ふざけんな。

 俺が今までどんな苦労をして騎士になったと思ってやがる。

 すべてはこの時の為。この瞬間の為だけに、俺はクソ退屈な護衛の仕事を毎日毎日来る日も来る日も文句も言わずにこなしてきたんだ。

 それなのにここに来てお預けなんて、この姫様は一体何様だ?


 と、憤りつつも、彼女の身分はハッキリしている。

 姫様は姫様であり、この国の王女殿下であらせれる。

 そしてそんなやんごとなきお方が、どうしてこのような卑猥な下着をつけておられるのか、それも自明の理だ。なにせ今日は隣国からの来賓を招くパーティーが開かれているのだ。

 城の大広間で盛大に挙行されるその宴に出席するべく、ドレスを着込み、下着の線が浮かばないように、Tバックをお召しになられている。本人から聞いたので、間違いはない。


 それを知って俺は暴漢と化したわけだが、なにか間違っているだろうか?

 せっかく『パーティー』にどエロい『パンティー』でお越し下さったのだから、こちらとしても礼を尽くす必要がある。

 ところが出席している隣国のお偉方は鼻の下を伸ばすばっかりで、ちっとも剥こうとしやがらない。

 目の前に下着の線の見えない美女が立っているのに襲わないとか、こいつらは揃って不能なのか?

 これでは敬愛する姫様に失礼であり、不敬に当たると思い、人気のないところに連れ出して犯行に及んだといった次第である。


「げへへっ……観念しな、お姫様」


 キャメルクラッチを決める体勢で姫様の背に腰を下ろし、尻にむしゃぶりつく暴漢。

 我ながら酷い光景だと思う。まったく、護衛は何してんだと思ったら、俺が護衛だった。

 それに気づかないふりをして、もういくとこまでいってしまおうと思ったら。


「た、助けて! だれかこの賊をどうにかして!?」

「なんですと!? どこに賊が!?」

「あなた以外に誰がいるんですか!?」

「ああ、なんだ……俺のことか」


 そんな漫才を繰り広げつつ、賊呼ばわりされた俺は姫殿下を窘める。


「しかし、姫様。この下着はあんまりです」

「あなたの所業のほうがあんまりですよ!」

「いやいや、男なら誰だってこうなりますよ。むしろ、ならなきゃおかしい」


 こんなの、穿いてないのと一緒だ。

 でも、穿いている。その矛盾がカタルシスを生み出していた。

 そしてそれに伴って熱いリビドーが沸き上がり、騎士は考えるのをやめた。


「大人しく、床の染みでも数えててください。なに、すぐに終わりますよ」

「天井が見えていないのがそもそもおかしくないですか!?」

「失礼ながら姫様はぺちゃパイであらせられるので、仰向けになるのはどうかと……」

「言わせておけば、この男! 絶対に許しません! お父様に言いつけて縛り首の後で斬首ですからね!」


 的確に姫様の残念な部分を指摘すると、とうとうパパに言いつけるときたもんだ。

 まったく、これだから。


「だからあんたはいつまで経ってもガキなんだよ」

「こ、子供扱いしないで!」

「なら、尻を囓られたくらいでギャーギャー騒ぐな」

「うぅ……大人しくすれば、子供扱いしない?」

「ええ、もちろん。約束します」

「……わかった。好きにして」


 チョロすぎる。

 これでは王国の将来はお先真っ暗だな。

 陛下のご息女の足りない頭を憂いて、騎士たる俺は、その勤めを果たすこととする。

 

 えっ? 何をするつもりかって?

 当然、調教という名の教育をするのさ。当たり前だろうが。

 この流されやすい姫様の尻に直接キツいお灸を据えることで、世の中の厳しさって奴を教えてやる。

 だいたい、どうして下着の線が浮かばないんですか?と、聞いたら、パンツ見せる女とかどうよ?

 絶対駄目だろ、そんなことしちゃ。年頃なんだから、少しは恥じらいってものを身に付けろっての。


 そりゃあ、俺は小さい頃から騎士としてこの女を守ってきたから、信頼はされていると思うよ。

 いつでも一緒で、言うなれば幼なじみとも言える関係を築いてきた。

 それでも、時が流れれば互いに成長するわけで、俺も姫様も良い感じに育っている。

 すると当然、性欲が芽生えたりするわけで、健全な青年にそれを押さえつけることは非常に難しく、大変な困難と多大な苦労を要する。


 それなのに、この女は。


『どうですか、今日の下着は? ムラムラしました? ほらほら、ちゃんと良く見なさいな』


 こともあろうにそんなことを口にして挑発してきやがった。

 たくしあげられたスカートから覗く、黒のスケスケTバック。

 もうね、そういうのは本当によろしくない。精神衛生上、完全にアウトである。

 こちとら必死に我慢してるってのに、なんなんだろうね、この女は。

 

 思い出したらムカついてきて、その乳白色の美尻に執拗に罰を与える。


「このっ! けしからん尻め! これでもか!」

「あんっ! もう、やめっ!? ひぅっ!?」

「なんで喜んでんだよ! ちゃんと怒らないと駄目だろ!?」

「よ、喜んでなんか……ああっ、もっと!」

「おい、今もっとって言ったか? 言ったよな?」

「じ、焦らすのやめなさない! この鈍感!」


 おいおい、これは驚きだ。

 こいつぁ……とんでもない淫乱だぜ。

 見ろよ、俺の手……完全にブルっちまってんよ。

 プリンみたいにくっそ柔らけぇ尻を鷲づかみにして、ブルブルってな。

 まったく、俺の幼馴染は一体いつの間にこんなど変態になっちまったんだ。

 

 くそっ! 俺がついていながら、なんつー様だ!

 この女の教育は、完全に失敗しちまった。

 どこをどう間違えたらこんなアバズレが出来上がるってんだ。

 何を間違えた? どうしてこうなった?


 己の不甲斐なさと無力感に苛まれながら、俺は尻を蹂躙する。


「くそっ! くそぉっ! どうしてこんなにエロい尻してんだよ!?」

「お、お尻ばっかりじゃなくて、そろそろ別なところも……」

「別なところってなんだよ!? 太もも、ふくらはぎ、脇の下……どこを責めて欲しいんだ!?」

「ど、どうしてそんなところばっかり! あなたはいつもそうやって肝心なところははぐらかして!」

「どーせ俺はチキンだよ! それでも思いは伝わるって信じてんだよ!」

「えっ? あ、その……きゅ、急にそんな恥ずかしいこと言わないでよ、馬鹿!」

「馬鹿でもなんでもいいからずっと傍に置いてください! お願いします!!」


 なんか説教するつもりが逆に懐柔されてしまった。

 実は、パーティーに招かれた隣国の王子様とやらがそれはそれはイケメンで、俺は少々焦っていた。もしかして、姫様がコロッと惚れちまうんじゃないかってな。

 だからつい取り乱してこのような蛮行に及んでしまったのだが……やれやれ、どうやら俺も、まだまだ修行が足りないらしい。

 これじゃあ、どっちがチョロいのかわからない。


 それでも、まあ。


「私の方こそ、お願いします……」

「姫様……」

「ずっと、傍に居て下さいまし」


 笑顔でそう言われれば、悪い気はしない。

 もっとも、姫様は今、うつぶせだから顔なんざ見えないけれど。

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