第2話
一通りの行程が終えて、下駄箱からリーガルウォーカー(私が持つ革靴で最も高い)を取り出して踵に靴べらを当てていると背後からスイマセンと新緑が風にさらされ弱々しく揺れる、されど柔軟で若々しい、そんな印象の声が聞こえてきた。
「なんでしょうか」と振り返ると予想通りの人物がいた。ノジマ母である。
憔悴した顔つきから、心労を察しつつも、彼女の喪服姿から思い付いたことがある。家に帰って「DMM 未亡人」と検索しよう。女優は、おそらく風間ゆみさんあたりを再生するであろう。
靴べらをもとの場所に立て掛けていると、秀堂とはどのような関係であったかを尋ねてきた。大学で同じサークルの先輩でしたと答えた。
「秀堂がお世話になってました」と母君がおっしゃるから、何か勘違いしている節が見受けられたが、睾丸がドックドクと疼き、それから奥歯あたりがむずついて頬がかゆい。コンビニのトイレで抜いてやろうかと思うほど気がせいた。
この度は御愁傷様でした、と今度は明瞭に発し深く前屈みに礼をして、葬儀に際して普段とは絶対に異なる女性の匂いを嗅いで特有のスメルを肺に充填させ、後で抜くときのリアルを獲得しておくことにした。しかし、その辺の女性とあまり変わらない雰囲気の匂いであり、はなはだ損した気分になった。
想定していたものは、タンスから取り出したばかりの喪服と乱れないためにガッチガチに固めたであろう整髪料の匂いであった。そこにストレス下に置かれた人間が放つであろう、脇や頭皮に滲む汗や顔を隈無く濡らす涙や鼻水、胃の不調による消化不良が原因の口臭などであった。それらが加わり不幸という現象が嗅覚に訴えられ脳裡に刻みこまれる。
もっと言えば、ここにいる母君を触り倒して弾力などを実感しておくのも、私の道理に照らせば自明であるが、無体な字の羅列である法律が許さないはずだ。ことによれば、我が日出る国はフェティシズムに耽溺することを推奨しているとおぼしきところもあり、要はバレなきゃ法律とクソリプの差が生じない面がある。
触ろうか、と思案したが彼女の背後は会場でまだ人が残っているため、順法精神の横溢する一市民であるに過ぎないため、とっととチンポコをスコンスコンとしごいてズリこくことにした。
押しドアに手をかけると、母堂が、大学時代の秀堂はどうでしたか、と愚にもつかない質問をする無神経の極みを平然と行い、私の生理に鈍感で氏の脳細胞がぶち壊れているとを推察しつつ60辺りの年寄りゆえに呆けが入っているか、最も考え辛いことではあるがたまさか生まれつきの鈍珍であるのか、と幾通りかの真っ当な懸念が過った。
「思い出、ですか。少なくともここで話せるほどのものじゃございませんよ」と陰りのある虚しさを表現した笑みをした。
なら、と彼女はうつむいて、今日の予定が無ければですけど、と留保を加えて、
「家に来ていただけないでしょうか」
以前、ノジマと飲もうとしたとき一人暮らしの親が訪ねてきたから、久々に食事をすることにしたいと断った。「一人暮らし」「熟女」「喪服」。自然と尻の穴に力を入れて股関に振動した。耐えれそうにないから仕方なく彼女の家でトイレを借りることにした。
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