悪魔の中
古新野 ま~ち
第1話
ノジマ秀堂は、自らを秀堂と意識して呼ぶよう私に言いつける。それに従うまでだが、「ヒデは秀吉の秀であり、トウは建物の堂を書いて秀堂」と聞いた。名字は詳細にいわず、ただノジマとだけであり、私は音のみの名字に地元の秀でた建物の代表である法隆寺五重塔をイメージしつつ、宅飲みの席で好物の奈良漬けをつつき古い怪奇小説などの話を続け私が不気味がると会心の笑みを溢すため、黴の生えた五重塔を彼から感じる。
地元の名産品であるが、あまり食卓に並ぶことのなかった奈良漬けを、なぜここまで食うのか分からない。高いのによく食うな、というと亡父の好物で昔からよく食っていたらしい。鼻に残る豊潤な香りを楽しむんだと言う。
なんとも年寄り臭い気がした。
故に斉場にいた彼の母堂は60近いはずなのにアラフォーとして都市圏で男漁りをしていても不思議でなくまたそのくらいの精力に満ちていそうな魅力に圧倒された。享年29と私より一つ上のノジマに先立たれた妻という方がまだしっくりくる。あるいはノジマの陰鬱とした性格が母堂の実存にコントラストのような陰影を加えているからかもしれない。
彼は新聞に載るほど凄惨な死に様であった。死体は河に浮いていたようだ。
そして、何者かが殺害した後に首を持ち去ったそうだ。棺桶の中がどうなってるか興味が湧いたが、遺族の意向でそういうのはナシの方向らしい。
訃報を受け取ったとき(母堂が彼のツイッターに記載した)、彼の携帯に留守番電話で焼香くらいはさせて頂きたいとの旨を伝えて、数分後に電話がかかってきた。この場所と時間を淡々と伝える彼女の声は薄暗くて不気味であった。
身内以外の葬儀は初めてで、それも学生時代のことだった。喪服なんて持っていなかったため、紳士服チェーン店の二着組リクルートスーツという安さとダサさが売りのそれに、ダイソーで買ってきた黒ネクタイを締めて参列した。
座礼焼香は、「この度は」までを発音した後は先駆する人達の猿真似をしてゴニョゴニョと音を出すだけにした。動きも近くにいた人達の形態模写をした。
参列者は私と同年代くらいの男女が数十名と最も多く、後は適当な年代に散らばっている。
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