第35話
激闘の一夜が明け、いつもと変わらぬ朝を向かえる。
目覚ましを止め、自分が昨日外出した時と同じ服装であることに気づく。
「やっべー風呂入ってねえや」
疲れきっていたのだろう。帰宅するとそのまま自室のベッドに倒れこみ眠っていたようだ。
昨日の試合中の光景が断片的に蘇り、気づくと俺はニヤけていた。
楽しかった。
夢のような時間だった。
伊織との予期せぬ再会も嬉しかったが、自分達が強いと自覚できるほど他を圧倒したことが自分にとって特別な経験になったことは言うまでもない。
それと同時に、他の4人のレベルの高さと自分もそこにたどり着きたいというたしかな向上心が生まれた。
確信めいたものを昨日抱いてしまった。
[俺は、もっと上に行ける]
判断の早さだけなら、皆に負けていないとわかった。
足りないものは山ほどある。
だからこそ、強くなれると思えた。
なんだかホントに変わったな俺……
干渉に浸っていると早朝ランニングのパートナーから催促の電話が来た。
「早くしてよー。それとも今日はサボりですかー?」
隣に住む中学2年の陸上部である斉藤弘樹はあの日から律儀に毎日ランニングに付き合ってくれている。
「ちょい待ち。直ぐ行く」
短く答え電話を切った。
ベッドから跳ね起き、玄関へ向かう。
「おっはー」
扉を開けると先輩への対応とは思えぬ挨拶が飛んでくる。
まぁ別に昔からの付き合いなので今更正すつもりもないのだが。
「おはよー。さっき起きたからちょっとストレッチ入念にやるわー」
怪我したくないしねー。
「起きたばっかのわりにはなんかスッキリしてるというかいつもとちがう気がするなー」
こいつホントに俺のことよくわかるな。母ちゃんかよ。
「まぁ昨日色々とあってね」
説明が面倒なので適当に流すと弘樹の目が輝いているのがわかった。
「女か! 女だろ!?」
「違うわ!」
まったく中学生はこれだから……
ランニング中も追及してくるので全部話すとやっと納得してくれたようだった。
帰宅し、シャワーを浴び朝食を済ませ学校へ向かう。
昨日あんなに走ったのに今日は疲れが残っていないどころか体が軽い気がした。
学校に着くと下駄箱で牛島と出くわす。
「よぉ橘! なんかスッキリした顔してんな」
こいつ、いつの間に俺のことを……
ちょっと嬉しいな。
「朝から元気な奴だな! オカズはなんだったんだよぉ?」
朝からド下ネタを大声で話す同級生に周りの女子が引いている。これ俺も引かれてない? 大丈夫?
てか、俺の感動を返せ!
まったく高校生はこれだから……
はぁ……早く大人になりたいぜ。
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