第29話
「えっとさ…どうする?」
授業が終わり下駄箱へ向かいながら俺は洋介に問いかけた。
「どう…しよっか?」
洋介もこのどうしようもない不完全燃焼感を抱いているのだろう。あと数分あれば…
お互いの首元に突き付けあった切っ先は収めるべき鞘を完全に見失っていた。
「ちなみに洋介は勝ってたら何をさせるつもりだったのさ?」
俺が勝てば洋介にはサッカー部に入ってもらう予定だったのだが残念だ。
「とりあえずサッカー部やめてもらって俺のそばにずっといてもらおうかと思ってた」
は!?え!?
…何この子恐すぎでしょ。どうやったらそうなんの?いじめからのボディーガード的な?
完全にパニック状態に陥る。
「冗談だよ」
真顔で付け加えたその言葉は本心なのかもはや疑わしく思えた。
「だ、だよねー焦ったー」
もうこの話やめよう!
「まぁどっちにしろ洋介をサッカー部に入れられなくて残念だなー」
これは本心だ。あの才能はまだ諦める訳にはいかない。まだ負けたわけではない。いずれまた勧誘してまた適当な勝負でも何でもやればいいのだ。
「あーそれなんだけどさ。俺、サッカーやるよ。その代わり俺を助けてくれないかな?もうこんなの嫌なんだよね」
こんなのっていじめのことだよな…
「ホントに!?あーでも助けるって言ってもいじめってそんな簡単に片付くもんなの?」
実際どうなのだろうか…いじめ問題の闇は深いと聞く。
てか具体的にどうすればいいのだろうか。
「あんまり深く考えなくてもいいよ。あくまでも俺の問題は俺が解決するから。とりあえず色々聞いてもらいたいことあるからお昼一緒に食べたいんだけどいいかな?」
意外とちゃんとしてる…
「全然いいよ!んじゃ4限終わったら教室行くわ!」
「ありがとう。助かる」
かくして、我々は最強のドリブラーをゲットした。
4限の終わりを知らせるチャイムよりも先に腹の虫が鳴いた。
今日何食おうかなぁ…
授業内容はどこへやら。いつの間にか昼食のメニューへとすりかわる。
しかし今日は懸案事項があったことを思い出した。まぁとりあえず洋介のところへ向かうか。
隣のクラスに行くと大変なことになっていた。
洋介の机に女子が群がっていた。体育の授業での活躍を見たのだろう。
これ…俺がなんにもしなくても大丈夫なんじゃないの?
洋介が俺を見つけ外へ出てきた。逃げてきたと言った方がいいか。
「いじめ、もう終わったんじゃないの?」
「こんなのは一時のことだよ。俺が変わらなきゃ意味がないんだ。だから…それを手伝って欲しい」
決意のこもった瞳に俺は息を飲んだ。少しだけ軽く考えていたようだ。
「おう!いいよ。とりあえず学食行こうぜ。もう腹へって死にそうだよ」
重たい空気を壊そうとニヤリと歯を見せる。
「ありがとう。じゃあ行こっか。…ハル」
お、初めて名前呼ばれたかもな。少し照れ臭そうに洋介は笑った。なんだ、全然心配なさそうだな。
学食へ向かう途中、すれ違う小柄な女子が呟いた。
「ハル×ヨウ、いやヨウ×ハル…これは…」
意味は分からなかったが寒気がした。彼女のニヤケた横顔がなんだか少し恐かった。
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