第28話
もうひとつ、試してみたいことがあった。
どうせこの試合はあと2プレイ程度で終わりだ。
終わる前に試せるか…
俺は再び中西とポジションを替えボランチとして最後の笛を待つ。
相手のシュートをうちのキーパーがパンチングで弾くとそのボールは俺のところへと舞い込んできた。
俺のシュート力じゃせめてバイタルエリアくらいまで近づかなければゴールは狙えない。
中西に手で上がるように指示を出す。中西が走り出すと空気がピリッとした。
こいつは先ほどゴールを奪った。その影響なのだろうか。
ん?…それはつまりこいつにも少なからず周りが驚異を感じている…と言うことなのか…?
だとしたらこれは使える。
中西とパスを交わしこいつに更に注目を集める。
先ほどのゴールまでの道筋をなぞるようにサイドに開く溝口君にロングパスを送る。
嫌でも意識するだろう。先ほどのゴールを。
上がりながら中西に近づき声をかける。
「次は俺にも美味しいとこくれよな。そのままファーに流れろ。俺は遅れて上がっからちゃんと引き付けろよ」
「俺にパス来たら決めちゃうけどいい?」
ずいぶんと自信ついたな。
「心配すんな。オメーには来ねえよ。ホラ行け!」
内心ではそれは大いにあり得る展開だと思っていた。
「絶対決めてやる!」
中西は不敵な笑みを浮かべる。
やっぱコイツ扱いやすいな。こうも簡単に燃え上がられると楽でいい。すぐに燃え尽きて灰になりそうだけど。
なんとかパスをもらおうと中西は声をあげて相手ゴールへと向かう。
ホントにこいつにパス出んじゃないコレ…まずくない…?
だ、大丈夫だ。パスは俺に来るはずだ。
どんなことでも、誰でも成功体験というものは忘れられないものだ。それに人間は、一度成功したことは繰り返したくなるもの。それが良いことなのか悪いことなのかはまた別の話だが…
つまり溝口君はさっきと同じコースをまず見るはず。
頃合いだ。
溝口君がサイドを順調にえぐっていく。いつもならこの辺で篠原と目が合うんだけどな…溝口君ボールばっか見てんな…あっ…
中西にクロスが上がる。うっそん…
上がったはいいが洋介にマークされていた中西はヘディングシュートを試みるが洋介に先に弾かれてしまう。
それをDFがクリアするが蹴りそこない俺の近くに転がってくる。
…こ、これを狙ってたんだよね!
ホントだよ?
転がってくるボールをトラップし少し離れたところにボールを置く。
フゥッ
短く息を吐き気持ちを落ち着ける。
コースはがら空き。
そんなに難しくない状況だ。
何度も練習した。ドリブルの流れのなかではまだ打てないけどゆっくり転がるボールなら成功したことはある。
練習の結果、2歩の踏み込みが自分のなかでしっくりきている。さっきのトラップで、ボールはそこに置いてきた。
右足から踏み込み「1、2」っとリズム良く踏み込む。「2」でボールから少し離れた場所に軸足を踏み込んだ。
体を少し開き、リズム的に言えば「3」で右足のインサイドでボールを押し込むように蹴り出す。
そのボールに回転は無く、空気抵抗により軌道は予測不可能なブレを生む。
狙うはゴール右隅。
右足一線というには些(いささ)か遅く、狙った場所よりも中央に入ってしまう。
が、キーパーの手前で外側へカクンと曲がる。曲がりすぎてゴールマウスから嫌われてしまったが、これは実戦でも使えるかも知れない。
体育の授業で思わぬ収穫だ。
今俺が放ったシュート。これはボールを蹴り込む方向に対して正面から直角に足の内側を当てること(所謂インサイドキック)で確かな反発が返ってくる。この感触がたまらない。
感触は良かったんだけどな…
インステップ(足の甲)でなくインサイド(足の内側の側面)で打つことで威力は下がるが点でなく面でボールを捉えることにより無回転になりやすいのだ。
結局、試合は2-2のドロー。
…この場合…どうすんの?
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