第11話

 練習試合当日。

 今日の練習試合はうちの学校に他校を呼び行うため、早朝からコートの白線を部員全員で用意することとなっていた。実はこうした経験は初めてだった。中学のときは自分たちの学校の校庭が狭いため、いつも相手校まで電車で行っていた。今まで遠くまで来てやったんだからと感謝の気持ちなんてこれっぽちもなかったことを全力で謝りたい。

 コートを描くのは正直かなりめんどくさかった。できれば練習試合は他校でやってもらいたいものだ。



 1試合目。こちらのメンバーはスタメンがメインだがところどころ最近調子を上げていたサブ組が入っている。もちろん1年生に出番はない。おそらく相手も同じようなものだろう。


 試合開始のホイッスルが響く。相手の力を探るようにゆっくりとゲームは動き出した。が、試合は一方的な展開となった。

 前半を0-0で折り返したのはいいが、内容では完敗だった。むしろ無失点で折り返せたことが奇跡と言っても差し支えないほどに相手は圧倒的だった。

 相手のボランチ2人は既に高校生のレベルとは思えなかった。視野の広さ・足元の技術・ボールタッチの柔らかさ・キックの制度・展開力、それら全てが今まで見てきた誰よりも上だった。そんなのが二人も同時にピッチにいる状況をあまり想像できなかった。今ピッチでプレーしている輝君たちはどんな感覚なのだろうか。

 俺はいつのまにか相手チームに注目して試合を観ていた。

 相手は4-4-2のダブルボランチでそこまで特殊なフォーメーションではなかった。基本的にはボールと逆サイドのサイドハーフがサイドラインギリギリまで外に開いた状態で待っていて密集した状態で攻めきれない場合は逆サイドに振ってそこからドリブル突破を仕掛けるといった攻撃を軸にしているようだった。それに加え、ディフェンスラインでボールをまわし、こちらの攻撃陣を自陣へとおびき出したり、こちらの広がったサイドとボランチの間のスペースに楔(前線への縦に長いパス)を入れたりと多様な攻撃を演出していた。ピッチを縦にも横にも広く使う観ていて楽しいサッカーを相手は普段どおりのクオリティーでやっているのだろう。

 対してこちらは、縦に横に揺さぶられ、おまけに中盤で枚数を増やしてパスで崩す予定だったのだが、選手間の距離が長くショートパスが上手く繋がらないことと相手のディフェンスのレベルが高くパスの出しどころがなく無理にロングパスを出すような形が多く意図したプレーは全くと言っていいほどさせてもらえていない。

 相手のFWが体格が良いわけでも決定力があるわけでもないことが無失点という奇跡を生んでいる。いくら準備が出来た状態だったとしても必ずクロスを弾けるわけではない。失点も時間の問題だろう。などと考えていると違和感を感じた。

 今まではサイドに開きサイドハーフがそのままスピードで持ち上がりクロスまたはカットインからのシュート、もしくは中へのパスだったのにせっかくフリーの逆サイドに展開したのに今までの勢いは無く、さらにハーフラインを越えて暫くたってもサイドに開いたまま孤立した状態で上がっていく。このままアーリークロスでも上げるのかと考えていると逆サイドのサイドハーフが中央に走り込んできた。こちらのボランチがマークのために逆サイドに寄り、バイタルエリアにスペースを与えてしまう。と思ったときには相手のボランチ1枚が一気に駆け上がりペナルティエリアの付近まで来ていた。余っていたCBが対応し逆サイドを警戒していたSBがCBがいた位置までカバーに入る。完璧な対応に見えたがそこには大きな落とし穴があった。前半、2度のオーバーラップを仕掛けるも攻撃参加はあまりしていなかった相手のSBがサイドハーフの内側を駆け上がりそのままパスを受け、ドリブルでペナルティエリア内まで仕掛ける。慌てふためくこちらの守備陣のマークを振り切ったFWへのラストパスを正確に送り、そのパスはあっという間にゴールへと吸い込まれた。

 劇的だった。人数をかけた完璧な崩し。SBの見事な状況判断なのか、相手の戦術にはめられたのか、どちらにしても相手を賞賛せざるを得ない1点だった。

 後から知ったのだがこのSBの動きはアンダーラップという最近海外で流行っている戦術らしい。偽サイドバックとも言うらしく本来サイドハーフの外側を駆け上がりクロスを上げるという動きではなく、インサイドハーフが外に流れてボールをもらうような位置でボールを受けることで、ゴールにより近くなるため選択肢も増え攻撃に厚みが増すのだという。


 後半は守備陣の健闘もむなしく相手にボールを散らされ体力が無くなりマークが付ききれなくなったところで左サイドからのクロスを押し込まれ追加点を許した。最終的には0-2というスコアに落ち着いた。


 悔しがる先輩を見ながら、正直このとき自分たちの試合も勝てないのではないかという考えが脳裏をよぎっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る