第10話
7人でまずはポジションから確認することになった。
「普段やってるとこ以外をやりたい人っている?」
ここでも進行役を務めるのは杉本のようだ。
誰も反応を示さないことからそれぞれ自分のポジションには少なからず拘りをもっているようだ。
「ポジションはじゃあ被ってるやつもいないし問題ないな。んじゃフォーメーションどうする?」
本当は3-5-2のダブルボランチがやってみたい。うちの学校は4バックが基本だから顧問に3バックの有用性も示したいところではあるのだがDFに初心者がいるのでサイドの戻りが遅れた場合、速攻のカウンターに対応できるかが怪しい。体力的にも戦術的にもかなり厳しいものがあるだろう。
「3バックやってみたくない?」
俺と同じことを考えていた奴がいるとは思わなかった。それもDFの清水からの提案だった。この機を逃すまいとすかさず補足を加えた。
「俺も3バックは賛成。難しいと思うけどこの機会を逃したらもう3バックってやる機会自体が無さそうだし。サイドハーフはちょっときついかもしれないけどしっかり仕事できればそれだけで杉田先生へのアピールになるしね。俺はサイドハーフの出来が試合の出来に直結するんじゃないかと思ってる。ただポジション的にはスギがやるところだから問題ないとも思ってる。あとは水戸君と瀬戸君がどれだけ組織的に動けるかが鍵なのかと思う。もちろん二人だけじゃなくて3バックなんてほとんどの人がやってこなかっただろうから組織的な攻守の動きは皆で一度確認しないとだけどさ」
あ…語りすぎちゃった…。皆ひいちゃったか。
「あーごめん話長くて」
やっちまったー。変なやつだと思われるなこれ。
「いや、言い出した俺もそこまで考えてなくて…。なんか悪い」
謝られてしまった。もうどうせなら考えてること全部吐いちゃうか。
「い、一応は俺の頭で簡単に考えてること話させてもらうわ。まずは細かいフォーメーションは3-4-3で1トップ2シャドーっていうのかなぁ? んで、アンカーじゃなくてダブルボランチにしたい」
カバンからノートを取り出し図示しながら説明を続けた。
第1案
攻撃時 (3-4-3)
CF
3 ST ST
LSB RSB
4 CMF CMF
3 CB CB CB
GK
守備時(5-2-3)
※攻撃時は3-4-3(ダブルボランチ)
3 ST CF ST
2 CMF CMF
LSB RSB
5 CB CB CB
GK
別案
守備時(5-3-2)
※攻撃時は3-1-4-2(アンカー)
2 CF ST
3 OMF DMF OMF
LSB RSB
5 CB CB CB
GK
「ディフェンス時は5-2-3になる形で相手のサイドバックがボール持ってるときはボールがある方のSTが寄せてCFと逆のSTがボール側にスライドする形でプレスするのがいいのかなと思ってる。状況によって大ちゃんをアンカーに据えて3-1-4-2になってもいいのかとも思ってる。その場合俺は体力ないからOFMやりたいんだけどその辺の話はまた今度するとして、この場合は俺がOMFかSTに入るからビルドアップする人がいなくなるんでロングボールが主体の攻めになるのと、大ちゃんが外に引っ張り出されないようにサイドハーフの戻りが重要になるから試合の展開によって変えていった方がいいかな。あと今サイドハーフって言ったけどウィングバックって呼ぶことの方が多いみたいだから今後そう呼ぶね。カウンターの状況によってサイドバックが戻れてないときは誰が寄せるのかってのを決めとかないと悲惨なことになるから3バックやるならそこをまず決めよう。で、どうしようか?」
もう言いたいことは全部言ってしまった。あとは決めてくれ。
「意外だな」
杉本がつぶやいた。そしてこう続けた。
「お前のこと誤解してたよ。どこか冷めた奴だと思ってたけどたぶんここにいる誰よりもサッカー馬鹿の熱い奴だったんだな。俺嬉しいよ」
なんだこたの恥ずかしいことをさらっと言う男は。
「その言い方はちょっとやめてもらいたいな」
誰がサッカー馬鹿だ。俺は普通だよ。
「3バックいいじゃん! すげー説明も分かりやすかったし。なんかピッチに監督がいるみたいで頼もしいな。早く試合してえよ」
そんな大層なものではないのだが、少しだけ信頼をしてもらえたようでよかった。結局牛嶋のこの発言でシステムは3バックに決定した。
「んじゃ改めてポジションを確認しよう」
そういって杉本はノートの次のページをめくるとポジションごとに名前を書いていった。
瀬戸 牛嶋 2年生
杉本 2年生
橘 佐々木
水戸 清水 2年生
2年生
7人しかいないということでGKからぐるりと右サイドを2年生に任せる形となった。
「さっき少し話してたことだけど試合まで時間がないから頭でしっかり理解して欲しい。当日試合の中で細かい調整・修正をやっていくしかないと思う。まずは注意が必要なのはカウンター時のこと。もしダブルボランチの俺が上がってる(3-4-2-2でボランチが1枚の時)、または大ちゃんがアンカーの位置でプレーしてるとき(3-1-4-2)にカウンターを受けた場合の話。ウィングバックが戻ってディフェンスできればいいけど戻りきれてないサイドを使われたら誰が寄せるべきか。近い方のOMFかサイドのCBかアンカーなのか。誰がいくかを決めてその後その穴をどう埋めるかまで決めておかないとまずやられる。特にCBとWB(ウィングバック)の間のスペースとかアンカーの両脇のスペースを使われやすいから練習中にその都度動きの確認をして隣接してるポジションの人とよく話し合うようにしよう。それと基本的にはアンカーは中央から動かないでもらいたい。特に視野が広いから大ちゃんにはスペース埋めたり全体のバランス取ったりディフェンス面の指示を一任したい。そんで真ん中で状況によってサイドのCBが飛び出したときはそこに入ったり隣接してるポジションのバランスを見て危険な箇所を潰して欲しい。」
「僕にできるかはわかんないけどなんとかやってみるよ」
もっと消極的な言葉が出るかと予想していたがチームの士気が上がっていることを肌で感じ取ったのか頼もしい言葉が聞けた。
それから暫くそれぞれの意見をぶつけ合った。
あとは2年のところに誰が入るかだけどあの二人が入ってくれれば自分のタスクが減ってだいぶ楽になるのだが、今回は死ぬ気で気張るしかないだろう。
周りの熱に当てられてなのか、なにかいつもと違う違和感のようなものがある。そもそも俺はこんなに口数の多い人間ではないのだが、同じ気持ちでいてくれるこいつらには考えていることを伝えずにはいられなかった。やるからには勝つ。そう思うようになってからそのために自分にできる事は全部やると誓った。こんな役回りは今までやったことがないし、戦術のミーティングなんてむしろあまり聞いていなかった方だ。昔は「自分が」という気持ちしかなかったが今は違う。もう一度あの高揚感を味わいたいし何より俺を認めてくれたこの皆と勝利ってやつを全力で取りにいきたいと強く思う。
この日俺は、こいつらは俺にとって初めての【仲間】なのだとようやく理解できた。今感じている違和感の正体はそれに起因しているのだろう。単純に今までの一歩引いた立ち位置ではなく、皆と並んで歩き出したことへの戸惑いだったのだ。
それが分かってしまえば違和感は安心感へと姿を変え、俺を温かく包み込んだ。
早く、ボールが蹴りたいと思った。
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