暁ノ伝承龍 -羅刹院封魔、覚醒-

 荒天。

 暗い雲の下、降りしきる雨がコンクリートを叩く。他の音を掻き消すほどの激しい雨音が耳朶を打っている。ここはビルの屋上。分厚い黒雲は真昼の太陽を遮り、ビルを、都市を、世界をモノクロに変えていた。

 飾り気のない屋上に、ふたりの男の影がある。

 傘もささず、濡れるに任せて互いを睨み合っている。一方は、長身痩躯。一方は、筋骨隆々。双方、尋常ならざる気迫を放ち、瞳に殺意を灯していた。

羅刹院らせついん封魔ふうまよ」

 声を発したのは、筋骨隆々の巨漢であった。

「よくぞ決闘に応じた。我は奸計を好まぬ。正々堂々、死合おうぞ」

 巨漢の言葉に長身痩躯はしかし、応えることなく、沈黙を保っている。彼は鋭利な刃のような美しい相貌に表情を浮かべず、静かに相対する巨漢を見つめているのだが、どうしたことか、それだけでも意志が伝わってくるかのようであった。

 すなわち。

 、と。

「私は……」

 痩躯の男が、口を開く。

「卑怯な手を使われようが、真っ向勝負を仕掛けられようが、興味がない。……私は、仇を滅するだけだ。あの日の誓いのために。ゆえに……銅竜寺どうりゅうじ源斬げんざ、おまえのことも、越えていく」

「解せぬ。羅刹院、何故だ。何故、あのような餓鬼の為に」

 巨漢が声を荒げる。思い浮かぶのは、死した無垢なる少女の姿。羅刹院封魔は、その少女と何やら誓いを交わしたのだという。

「冷徹なる戦士であった貴公が、何故――――」

 そこで巨漢の言葉は途切れた。怖気おぞけが走る。痩躯の男の双眸そうぼうに、初めて激情が宿ったからである。視線だけで人を殺す、魔眼を思い起こさせるほどの鋭い瞳。熱された感情はしかし……、

 発せられることはなかった。

「餓鬼、か」

 だが、既に痩躯の男の中では、何かが決定的に変化しているようであった。

「ひとつ教えてやる。その餓鬼がいたからこそ、この羅刹院封魔は、神をもたおせるのだということを」

 そして彼は構えた。

 左手に板を持ち。

 右手にペンを持つ、その構えは。

(……来るッ!)

 大喜利バトル開始の、合図であった。






司会「はい! ということでね、やっていきたいと思います大喜利バトル! 司会はわたくし、突然院とつぜんいんてくるが務めさせていただきます! そしてこちらは回答者の羅刹院封魔さんと銅竜寺源斬さんです!」

羅刹院「よろしくお願いします」

銅竜寺「よろしくお願いします」

司会「皆さん拍手をお願いします! では早速やっていきましょう! お題はこちらですどうぞ!」


  【お題】

   アホアホニュースの最初にキャスターが言ったこととは?


司会「アホっぽいお題ですね。どう見ますか、解説の無知堂むちどう知ったか丸さん」

解説「なかなかいいお題だと思いますねえ。や、というか僕ら雨の中ずぶ濡れになりながら大喜利してる中で更に寒いボケをされたらたまったもんじゃないからねえ、良いボケ頼みますよホント」

司会「さあシンキングタイムも終わり、回答者の答えが出ます! 順番にいきましょう、羅刹院さんの回答ですどうぞ!」


  【アホアホニュースの最初にキャスターが言ったこととは?】

   「ではまず今日の犠牲者を発表します」


司会「唐突なデスゲーム」

解説「発表直後に死ぬやつだ」

司会「では次、銅竜寺さんの回答です!」


  【アホアホニュースの最初にキャスターが言ったこととは?】

   「富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男、海賊王・ゴールドロジャー。彼の死に際に放った一言は人々を海へと駆り立てた。『俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! この世の全てをそこに置いてきた!』男達はグランドラインを目指し夢を追いつづける。世はまさに大海賊時代!」


司会「ありったけのー夢をー」

解説「かきあーつーめー」

司会「えー、さて! 審査員の皆様、採点はお済みでしょうか。それではポイントの書かれた板を掲げてください! どうぞ!」


【羅刹院】7点・8点・8点・10点・9点

【銅竜寺】7点・7点・9点・8点・9点


【WINNER 羅刹院封魔】


司会「僅差で勝利したのは長身痩躯の大喜利戦士、羅刹院さんです! 会場の皆様、大きな拍手をお願いいたします!」

解説「さすがは新星といったところですかね」

司会「敗者には罰ゲームが与えられます! その敗者にとって最も苦痛なことをさせるのを罰ゲームとします。ではどうぞ!」






 降りしきる雨の中、銅竜寺は罰として苦手なホラー映画を見せられ泣き喚いた。悲痛なる号哭を背に羅刹院はゆく。それは煉獄への道。神が立ち塞がろうとも、世界を敵に回そうとも、己の愛に死ぬると決めた、益荒男ますらおの征く道である。


――――――暁ノ伝承龍第三章最終節・完

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