第123話 俺の人生は間違っていなかった!
避難が終わった頃。
かばんとフクロウ達は、巨人を駆け登っていったメイを見つめていた。
「…あの人は…パークに来たばかりですか?」
かばんが問う。
「えぇ、そうです。来たというか、産まれたというか。
なんとなく、来たという感じはします。
この地では観測できない形のフレンズでしたので」
聞くと、かばんは俯いた。
「…なぜあの人は、まだそこまで馴染んでない、このジャパリパークを救おうとしてるんでしょうか…それも、ひとりで」
「かばん、かつてのあなたでもきっとそうしていましたよ」
「…」
いや、きっと出来なかっただろう。
僕は非力だった。
それは今も昔も変わらない。
だから、あの時。
必死に鍛錬した。でも、失ってからじゃ遅い…
失ったら、戻ってこないんだ。
一生戻ってこないんだ…
なのに、僕は、ずっと失わないだろうと過信しすぎていた。
だから…
「かばん、深く考えすぎるのがあなたの悪い癖ですよ…昔、どこかの誰かも、同じような癖を持っていましたが」
「…すいません」
◆
戦いのゴングは、心の中で密かに鳴った。
先手必勝と言わんばかりに、この爪を掲げ飛びかかる。
しかし、勢いのついた飛翔は軽々と避けられた。
センは横に飛び、反撃とばかりに乱打した。
一回、二回、三回…
目の前で振られる爪をギリギリで避ける。
それは凄まじいスピード、しかし威力も伴ってるであろうものであった。
まるでバットを振った時のような重々しい音も聞こえてくる。
「避けてばっかじゃなんも進まねぇぞ!ほら、どうした!」
「言われんでも…!」
咄嗟に腕を掴む。
蹴りが腹に直撃する…と思ったが、後ろに跳ばれ回避。
「メイ、お前は弱い…私の思っていたよりも弱い!お前の実力はそんなものではない、さぁ、来い!」
躊躇っているのか。
なかなか上手く攻撃ができない。
中途半端になってしまう…
それでも、やらなければいけない時はあるんだ。
「オラァァァァ!」
真正面から突っ込む。
一回、二回、三回。
重く鈍く、爪を振るうがやはりこれも避けられる。
「甘い!」
脇腹に鈍い感覚が走った。
「グゥ…!?」
直後、身体は吹き飛ぶ。
バウンドを二、三回ほど挟み、体勢を建て直す。
「そんなに本気を出したくないか…?」
「…本当に、この道しかないのか?本当に…?」
悩むと、彼はすぐに怒号を飛ばした。
「お前は甘いな。甘すぎる。その甘さが時として命取りとなる!
周りに流され、いや、自分から流れていったんだ。
だからこそ君は虐められていたんだ。
君は自分の主張ができなかった!
主張ができないからこそ、他人の意見を尊重した。
母も、いじめっ子もな…
そして、甘さが時に大切な人をも危険へと陥れる結果となった!
ツバキはお前の甘さから、お前をいじめ…時を越え、大切な人をも傷付けようとした!
大切な人の様子がおかしい、それなのに声をかけなかった。
きっとまだ大丈夫という過信から来る甘さもそうだ!
早くから知っていれば、もっといい人生を送れたものを…
他にももっとある。
この数年間、ずっと見てきたからな…
だから今、こう言わせてもらおう!」
「お前は…お前の周りの人と不釣り合いなんだ!まるで不幸を生み出すカラクリ人形さ…どうだ、今までの人生を振り返ってみろ!
お前の人生は間違ってないと言えるか?
お前に出会わなければ不幸にならなかったものもいるだろう!」
ドキッと心臓が跳ね上がった。
…あぁ、確かに。
俺の人生はダメだったかもしれない。
俺がいなければ、死ななくて済んだ人もいたんだ。
確かに甘かった。
何もかもが甘かった…
でも。
…大切な人の笑顔。親友や戦友の笑顔。
俺がいなければ、なかったかもしれない笑顔。
それを作り出せたのなら…
「俺はこの人生に満足している!!
傷ついてしまった人もいるかもしれない、それでも…
俺にしか作れなかった笑顔がある!
大切な人も、俺が一番幸せにできた…
ふふっ、俺は今自信を持って言えるね!
俺は間違っていなかった!
傷ついた人も、傷を乗り越えてより良い友となった!
俺に殺された人も、俺の求める笑顔を奪おうとしたものだから仕方なかったのさ!
甘い?うるせぇ、これが俺さ…!
俺の取り柄でもあるのさ…!
それに、敵と決めたものには甘さは捨てる…
さっきまでは戸惑っていた、しかしそれもおしまいだ。
不幸を生み出す?
はっ、不幸じゃあんな笑顔は出来ねぇな。
俺は今、全てを振り返った。
これは総評さ…
それでもこれが間違っているというのなら、悪だというなら…
俺はこのまま悪に染まろう!」
まるで、電撃に貫かれたような衝撃に貫かれた。
来た…来た!
力の高まりを感じる。
全身が軽い。こんな気持ちは初めてだ。
「ふん、お前は間違っている。
お前が何を言おうとな。
お前は高みを目指していない…
お前如きが大切な人を幸せにした?
そんなの普通以下の幸せだろう?
調子に乗るのも程々にしろ、小僧が」
ピキッ、と血管が浮かぶような。
そんな感覚に陥った。
「言ってくれるじゃあねぇか…もう容赦はしねぇ、セン、俺はお前を殺す」
言葉にすることで、力が更に湧き出る感覚を覚えた。
これは、ツバキに衝撃を受けた時に浮かび上がったような感情…そこから成る力。
それに、とても似ていた。
「やってみろ、さぁ、来い」
本当の戦いが、今始まる。
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