第106話 同族の話
それから、同じオオカミである彼女、タイリクオオカミと長い間話をしていた。
同じオオカミだからか、すぐに打ち解けた。
「ここって、昔はどんな施設だったんですか?」
「さぁ、私も深く知らないねぇ」
ただ、昔の事を探ろうとしても、彼女は分からないという。
知れるような気がしてたので、少し残念。
「君って…本当に不思議だね」
彼女は舐めまわすように全身をじっくり見る。
触り心地の良い耳から茶髪、借り物のジャケットの、オーバーにいえば細かい繊維のひとつひとつすら見られている気分だ。
少し気恥しくなってしまう。
「そ、そんなにじっくり見ないでくださいよ」
「…ん、あぁ、すまない。何回見ても彼女らしいからね」
「その彼女って、一体誰なんですか?」
「おや、知らないのかい。同じような感じだったのに」
彼女とやらを感じやら臭いやらで知ってると思ったら大間違いだ。
「ニホンオオカミっていうんだけど」
知らないけど知ってた…
◆
寝台の上で、さっきまでの話を思い返す。
あの後もしばらく、話を続けていた。
「そういえばタイリクオオカミさん…って、何を描いてるんですか?漫画?」
「あぁ、そうだよ。これは漫画さ。
よく分かったね、もしかしてファンだったりするのかい?」
こんなタイリクオオカミさんの私情から、
「でもまぁ、オスの同族が見つかって良かったよ。私たちフレンズってメスだからね。ここに泊まっていけば私が夜な夜な食べに…」
「な、何言ってるんですか!」
「ははは、冗談だよ、冗談。いい顔してたよ」
…と、このようにからかわれたり。
少し目が淡く光ってたのはきっと気のせいなはず…気のせいであってください。
ただ、この体になるまでのことを深く問い詰められた時、話すと長くなりそうだし誤解を招きそうなので話さないことにした。
彼女は少し、残念そうにしていた。
新しく会う同族の、それもきっと昔の記憶があるであろうフレンズの話を聞けなかったのは、確かに残念かもしれない。
もしくは、彼女は漫画の案を聞ける、と期待していたのかもしれない。
「そんなに堅苦しくならなくていいよ。タメ口でも構わない」
「次から使います…」
と、タメ口の許可を得れるまでには仲良くなれた。
その時、ふと窓を見ると完全に夜だった。
話し込んでいたんだろう。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。君はなんて言うフレンズなんだい?」
「ニホンオオカミの、メイです」
「メイ、か。素敵な名前だね。君らしいよ」
それと敬語、まだ使っているよと彼女は付け足す。
俺もうっかりしてて気付かなかった。
「それにしても、ニホンオオカミか。やっぱり勘は当たっていたね。彼女とはまだあったことが無いのかい?」
「まだ…」
「そうかい、それなら会えるといいね…彼女もきっと、仲間を探しているはずだから」
それから、また少しだけ話をして、互いにおやすみなさいと言って部屋に戻ったのだ。
彼女はまだ、カリカリと原稿に書き込んでいた。
「はぁ〜……」
暗い部屋の中、大きくため息をつく。
目覚めてからこの有様は情報量が多すぎる。
これから何をすればいいかわからないのでやる気が起きないのだ。
更に、パーク運営がこの外部からの侵入をそう易々と許すはずがない、という事実がよりやる気を削いでいた。
ふと、さっきの話を思い出す。
このパークのどこかに、同じニホンオオカミがいる。
センでも俺でもない、違うニホンオオカミ…?
これに違和感を覚える。
だって、ニホンオオカミって絶滅したんじゃ…なんで、なんで?
科学者でもなければ、そういう動物に詳しい人でもない。
また、今の状態をよく知らない。
そんな俺には検討もつかない。
◆
翌日、干しておいたコートとジーパンを着用し、このロッジに別れを告げた。
「おや、もう行くのかい」
「色々調べないといけないことがあるんだ」
「ニホンオオカミに会えるといいね…それと、旅路には気を付けるんだよ」
タイリクオオカミはそう言って見送ってくれた。
また余裕があれば話をしてみたい。
昨日貰ったジャパリまんを、あの青いヤツからまた貰い、出発する。
◆
歩いても歩いても、フレンズに会うことは無い。
なぜこんなに会えないのかはよく分からなかった。
でも確かにフレンズはいるはずなのだ。
だってロッジにはいたのだから。
ふと、木々の間を青い塊のような何かが横切ったのが見えた。
触れてはいけない気がしたが、その正体を突き止めない限りは、現状を知ることが出来ない、そう思いその物体をよく見ようと近づいていった。
「でかい…」
それは、ただ丸い無機質な物体。
大きく、そして青く。
昔見たセルリアンというものをそのままでかくしたような、というかこれは…
「セルリアン…っ!」
あまりにも大きすぎる。
その巨大な物体は、これまた巨大な単眼でこちらを見つめる。
気づかれている…!
触手を生やし、素早くこちらにそれを伸ばす。
唐突に始まったそれに、動揺を隠せなかったがために、少し反応が遅れたが紙一重で交わせた。
鳴り響く轟音と揺れ。
体制を崩したところを、その物体は逃すはずもなかった。
やばい…!
焦りながらも、それを叩き落とす。
すると、突如声が響いた。
「バカ!早く逃げろ!」
その声の主は、俺を脇へと突き飛ばした。
高く飛翔し、見覚えのあるような武器を持ち、それを強く叩き付ける。
飛散する破片の中にあったその姿は、かつての友だった、ヒグマそのものであった。
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