第105話 あの地へとまた

 やがて、あの場所へと上陸した。

 それは雄大な自然。

 力強く、生命の力を感じさせる自然。

 あの時のパークからより進化しているようだった。


「…ここが、あの」


「あぁ」


 テルアは既に、ボートを出す準備をしていた。


「って、行くのか?」


「あぁ。ここから少し囮として時間を稼がせてもらう。てめぇはパークの奥深くにでも行ってカモフラージュするんだな」


「…大丈夫か?」


「問題ねぇよ」


 彼は自信満々であった。

 その自信が、少し羨ましくなる。


「なぁ、俺はどうなるんだ?」


「あっちには戻れねぇんだ、ここで暮らすしかねぇよ。てめぇに残された道はこれしかねぇんだ。心配すんな、ここは素晴らしいものさ。はぐれもんはいねぇよ、少なくともてめぇはフレンズだしな」


「そんなもんなのか?」


「そんなもんだよ」


 じゃあなと言って、彼はボートを走らせた。

 急がないといけないのか、詳しくは説明してくれなかった。


 彼は行く前に、ジャケットとズボンをくれた。

 とりあえずはこれで何とかしろ、という事なのだろうが、身体を洗う場所は自分で探せということらしい。


 ブランクはあれど、ここで暮らすしかないっていうのが現状なのだ。


 追っ手に見つからないように、まずパークに足を踏み入れる。

 まずは服を洗える場所を探そう。

 そこからだ。



 ◆



「…ふぅ」


 それにしても派手にやったものだ。

 コートからズボンまで、それはびっしり付いていた。

 川で洗ってもなかなか落ちなかった。


 とりあえず、これはよく絞っておく。

 そして、彼がくれた布袋に入れる。

 しばらく、この青いジャケットと長ズボンに頼る事になりそうな予感はする。


 断じてワイルドではない。



 ◆



 それから、その森をずっと歩いていた。


 眠っているあいだに、何が起こったのか手がかりが欲しくて、変わったものがある度に詳しく調べてみたが、特にわかったことも無い。


 逆に謎が深まったものといえば、草むらの中から出てきた青いロボットのようなもの。

 饅頭のようなものを乗せてきたので、せっかくだから頂いた。

 美味しいが、どんどん謎になっていく。


 フレンズとは何故か会わなかった。

 昔からの悪運なのか、それとも予期されたものだったのかは知らない。



 ◆



 さて、またしばらく歩いていると、ある建物を見つけた。

 それは木製の建物で、何個か橋が渡されている。なのでとても大きい。


 周りも暗くなってきたためか、いくつかの部屋に灯りが点っていた。

 どうやら、電気が通っている…らしい。

 そして、これを使う人、いや、フレンズ?

 まぁ、どちらかがいる。


「…せっかくだし」


 少し見ていくことに決めた。

 夜間の行動は危ない気がしたのだ。



 ◆



「いらっしゃいませー!」


 入るや否や、見知らぬフレンズがカウンター越しに迎えてきた。


「あの…ここってどういう場所なんですか?」


「ここはロッジアリツカです!昔使われていた施設を用いてロッジとして扱っているんですよー!」


 アリツカゲラと名乗るそのフレンズは、そう紹介してくれたが、昔の事については詳細を知らないようだった。


 せっかくなので、情報収集ついでに泊まっていくことにした。

「みはらし」という部屋で一晩を過ごすのだ。


「それにしても、見た事のないフレンズさんですね。似たようなフレンズさんは見たことがある気がしますが…」


 案内している途中、アリツカゲラは少し不思議そうに聞いてきた。


「へぇ…そうなんですね」


 ただ、これまでの成り立ちを一から説明したって手間なだけなので、適当な返事で返すことにしたが。



 ◆



 久しぶりの寝床ということで、ぐっすりと寝たい気持ちもあったが、とりあえずこの建物を探索することにした。


 しかし、色んな所に行ってみても人は一人もいない。

 フレンズはいるものの、人は全くいないのだ。


「あの」


 現在の状況が理解できなくて、非常に申し訳ないけど、何やら机に向かって作業中のフレンズに声をかける。


「…ん?どうしたんだい、もしかしてこれが読みたいのかい?」


 彼女の指さす先には、漫画と思わしきものがあった。


「いえ、違います…このロッジって、フレンズしか泊まれないんですか?」


 もしかしたら、そうなのかもしれない。

 少し違和感を感じていた。


 人はどこにいる…?


 人がいないはずはない。

 たまたまここに人がいなかっただけ。

 きっとそうなのだ。


「…?変な事を言うんだね、君は。ここはフレンズしかいないじゃないか。フレンズ以外に、なにがいるって言うんだい?」


 何やら会話が成り立っていなくて、俺の頭の上に疑問符が五個ぐらい浮かんだ。


「人です…人は泊まれないんですか?」


「…人?あぁ、かばんのことかい」


「…かばん」


 かばん…?

 全く理解できない。

 これがまさに浦島太郎状態というものなんだろう。


 インフルエンザで学校を休んで、完治して登校したら何も分からないだろう。

 それと同じことが何十年単位かで起こっている。


 もしかしたら、人はいつの間にかかばん…そう、荷物持ちとして扱われ始めたのかもしれない。


「…わかりました、ありがとうございます」


「あ、ちょっと待ってくれ!君!」


 呼び止められ、ブレーキをかける。


「君…私と同じオオカミじゃないかい?

 それも、彼女と似ているけど全く違う…

 まるで、彼女がまるまるオスになったかのようだよ」


「彼女って…誰ですか?」


 そして、何十年かぶりにフレンズと長く話すことになるのだ。

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