第103話 また会えた

 それは、数分前の出来事だった。


 この鎖は、俺を強く引き締めて離さない。

 意志の強さ、とやらが弱いがためにこんな結果になっているらしい。


 こうなるのは必然だ。

 生きがいや目標を失った時点で、生きる意味もなくなった人が、戻りたいと思うのだろうか。


 放心していると、突然目の前に光が集まっていった。


「よっ…!と。おおっ!成功した!」


 その姿を見て、一瞬で失われていた記憶が全て戻っていった。

 その感覚は明確だった。


「カエデ…?」


「…覚えててくれたか」



 ◆



「おいおいおい、何してんだって、こんな所でさ」


 彼、カエデは、昔から変わらない笑顔で、気さくに話しかけてくれた。

 こんな状況だけど。


「あぁ…ごめん」


「泣くなって〜、お前らしくないぞー?」


 無意識に涙が溢れていた。

 もう二度と見ることが出来ない彼の顔を見れたのだ。


「でもカエデ、なんでここに…?あの時、確かに消えちゃったんじゃ…」


「親友が本当にピンチの時は、駆けつけるもんだぜ?なーに、簡単さ。君に授けた力。それを利用して、時間制限付きでこの身体を具現化させただけさ」


「なんも簡単じゃないよ…」


「…さて」


 カエデは、少し焦ってる様子で話を展開し始めた。


「メイ、君は生きなければならない」


「…無理だ、俺何も生きる意味ないし」


「おいおいおいおい、それ言っちゃおしまいだろ。人間なんてそんなものだよ」


 至極真っ当な正論を言われ、言葉を失う。


「…もう辛いし」


「バーカ、そんな身勝手な理由で勝手に死んでんじゃねぇよ…って、僕もそうだったな!はははは!」


 笑えない冗談で高らかに笑うカエデ。

 これが自虐ネタなのか…


 しかし、彼は笑いを止めて、真剣な面持ちで話を切り出した。


「…でもな、メイ。お前の命は、もうお前だけのものじゃねぇんだ」


「どういう事だ?」


「詳しいことは言えねぇ。まぁ、いいニュースと悪いニュースがひとつずつ、って言ったところかな?」


 同じ場所で、前にも誰かが言った気がする。

 これがデジャブか…


「でもな、僕から言えることは一つ!」


「君は…最後には幸せになれる。守るべきものが見つかる。できる。また会える…」


 直後、彼の体が淡く光り始めた。


「おっと…時間切れが近いや」


「もう行くのか…?」


 彼は軽々しく、「まぁそうだな」と受け答えをした。

 あまり重大には見ていないようだ。


「軽々しく見えるだろう。これはな、君を信頼してるからさ。君なら、この次に提示する選択の内、僕が望む方を選んでくれるだろう!

 さて、選択だ…」


 彼の体が、消え始める。

 まだ話していたい。

 カエデと、話していたい。


 そう思っても、現実というのはいつも非情なのである。


「生きる?それとも…永遠にここで、光を見ずに体を受け渡す?」


 丁度それを言い終えると、彼の体は光の粒子となって消えた。



 ◆



 人生はギャンブルだ。

 俺はほとんどそのギャンブルに負け続けてきた。

 心を閉ざしていた。


 だけど、俺は…


「…信じるぞ、カエデ」


 親友の言葉を信じて、ギャンブルに出た。


 ハッピーエンドか、バッドエンドか…!



 ◆



「さぁ、セン…返してもらおうか、俺の体を」


 彼は口を拭いながら、悔しそうな顔をしていた。

 だが、すぐにそれが笑みへと変わった。


「…ハハハハ!!」


「な、何がおかしい!」


「メイ…君は不思議だね。私だったらもうあの状況から立ち上がれないのに…ずっと、私よりも心が弱いはずの君は、立ち直ってこの鎖を壊した…!油断していたとはいえ、私の負けだ…!」


 センは何かを企んでいる。

 直感がそう囁く。


「身体は渡そう…しかし、私はいつでも君を見ている!君が隙を見せれば、いつでも私は現れる…!あぁ、辛くなったら私に身体を受け渡すがいい!その時は、私が存分に使ってやろう!」


「そんなこと…絶対に、絶対に有り得ない!」


 苦し紛れながらも、必死に反論する。

 その様子を見て、彼はさらに笑う。


「あぁ、そう思ってるといい…君の怒りと恨み、絶望は私のパワーになる…さぁ、行くがいい!次に戻ってきた時、君はもう再起不能だろうな?」


 口が開かない。

 段々と意識が遠のいていく。

 言い逃げされたようで、怒りが湧き上がってくる。


「おっと?もう怒ってるのかい?ハハハ、先が思いやられるねぇ」


 …絶対に、負けるものか。

 親友にも、生きろと言われた。

 だから、絶対に負けずに生きる。


 そう決めて、俺は目を覚ます──

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