第97話 役に、立てない
そうして、また数日が過ぎていった。
アライさんは少しずつ、状態が悪化していった。
何も出来ないのが辛い。
サンドスターを受け渡すというのは、相手のサンドスターがほとんどない、または空っぽでないと出来ない、そうセンは言っていた。
そうじゃないと、お互いのサンドスターが混じって色々起こる可能性があるとかなんとか…
「アライさん、寝てて。俺が昼飯作るから」
今日も、彼女は少ししんどそうな、ダルそうな感じだった。
無理して元気を出しているというか、そんな感じだ。
だから、こういう時こそ、助けてあげないと…と、思ったのだ。
「え、別に大丈夫なのだ。アライさんがやるのだ」
「良いって、寝てて。色々あってしんどいでしょ?」
「…分かったのだ」
最近はこうして、アライさんを支えている。
◆
ふと、夜中に目が覚めた。
隣ではいつもの通り、アライさんが寝ている…訳ではなかった。
いなかった、いつの間にか抜け出していた。
不安に駆られ、リビングに飛び出る。
「ん、メイ殿。どうしたでござるか?」
「アライさんを…アライさんを見ませんでしたか?」
「見てないでござるよ。さっきまで寝ていたからでござるから…」
「ファ〜」と、言葉に続けて欠伸をする。
もう、なんで知らないのさ…!
「アカギさん、俺探してきます!」
たまらなくなってその場を去った。
このまま何も言わないで、お別れになる可能性だったあるんだ。
そんなのは嫌だ、それに俺が救うんだ…!
「え、あ、ちょっと!」と、戸惑うアカギさんの声が僅かながら聞こえた。
「…結局、私は役に立ってないね、何も…」
取り残されたアカギは、眠気覚まし程度に水を少し飲んだ。
◆
私は全くの役立たずだった。
第六感があるというのに、なんにも出来ない。
何も出来ないで、目の前で誰かが死んだり、または報せを聞いたりして、一人落胆していたんだ。
妻が死んだ。
今度は親友が死んだ。
そして親が死んだ。
私には、何が残っているのかわからなかった。
そうして、何年も過ぎた。
何も出来ないまま、過ぎていった。
最近は自然が増えたので、社畜の私にとっての安らぎの場が増えて嬉しい。
その場で、月を眺めていた。
「綺麗な月だな」
「うわっ!?」
物思いに耽っているも、突然隣に、一人の女性がいた。
本当にいつの間にか、そこにいたのだ。
特徴的な髪のグラデーションを持つ、白衣を着た女性。
「あなたは…?」
「私はカコだ。ここに来るなんて珍しいな。秘境的な場所なのに、よく見つけられた」
「私はアカギです、こんばんは!」
コミュニケーションが下手な私は、とりあえず挨拶を交わす事しか出来ない。
とりあえず不器用なんだ、私は。
すると、彼女は表情ひとつ変えずにこう言った。
「似ているな、彼に。こんな星降る夜に導かれる所も、不器用なところも、不器用だけれども、自分の気持ちを精一杯伝えようとしているところも」
私は彼女の言っていることがわからなかった。
当然だ、私のようなちょっと第六感が優れている一般人が、こんないかにも研究者な感じの言ってることなんて分かるわけない。
「導かれた…?彼に似ている?何を言ってるんですか、どういうこと、ですか…?彼って、誰ですか…?」
彼女は相変わらず、表情を変えない。
「そのままの意味だ。君は彼に似ているし、彼と同じで星降る夜に導かれた。この夜に君が空を見にここに来たのは偶然ではない、必然だ。運命だ。彼もその運命に…星降る夜に、導かれた」
豊富な情報量に、頭がパンクしそうになる。
そもそも、星なんて降ってないのだ。
そんな私を置いていくように月は光り輝いている。
「…分からないです、彼って、誰なんですか…?それに、あなたは何者なんですか…?」
すると、ひとつ。
夜空に星が流れた。
またひとつ、またひとつと星が流れた。
それは、言葉に表せないほど、綺麗で──
「君には守りたいものがあるが守れない。そんな運命、残酷じゃないか?いいや、君の運命はそんなものじゃあない。君は変わるんだ。そう、彼と同じように、この星降る夜に、ね」
なんで、なんであなたは…私の事を?
そんな疑問が頭に浮かんで止まないけど、CPU使用率100パーセントの私の頭は、考えるだけで精一杯で、発言するということすらできなくなっていた。
「役に、立ちたいんだろう?」
ゆっくり、ゆっくりと頷いた。
「ジャパリパークに来るといい。そしてそこで飼育員として働け。そこできっと、君の運命を左右する出来事が起こるだろう。そして、君は守らなければ守らない彼を守る時が来る。彼を、全力で守るんだ」
月明かりが彼女を照らし、夜風がその白衣をたなびかせた。
「息子を、全力で守れ」
そう、宣告された。
◆
「…今度こそ、絶対に役に立たないといけない」
夜は危険だ。
それも、今は深夜…
最近は物騒だ、フレンズの誘拐事件も度々起こる。
もしかしたら、アライグマがいなくなったのは誘拐なのかもしれない。
メイが二次被害者になる訳にはいかない、私が守らなければならない。
そう、今度こそ、役に立つために…
私は急いで家を飛び出し、メイのあとをつけていった。
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