第81話 近付く聖夜

 クリスマスが近付いてくる。

 それはきっと、主に子供やカップルにとってとても喜ばしいことだ。

「このゲームが欲しい!」とサンタさんに願って一夜過ごせば、枕元には包装された箱。

 興奮した面持ちでビリビリ、ビリビリと少々乱雑に開けてみると、自分の欲しかったゲームがそこにはある。


 …たまに願いが叶わず、中に図鑑が入ってたりして、図鑑だけに足取りが重くなる子もいるけどね…


 そして今年のクリスマスは一味違う。

 俗に言う『ホワイトクリスマス』というものがやって来るのだ。

 一層寒くなりそうだけどそこは我慢我慢…


 さすがにパークはこれを見逃さない。

 なんでもライブ的なものをやるらしく、そこには著名人も参加するとの事で話題になっている。


 そして都市エリアの店舗では、当たり前といえば当たり前なのだがクリスマスケーキの予約が少し前から始まった。

 更には期間限定のスイーツも発売ということである。


 アライさんの事だしライブとか行きたいんじゃないのかな?と思って聞いてみたけれど、


「ううん、たまには家でのんびりしていたいのだ」


 と断られてしまった。

 ただ、クリスマスケーキは予約した。受け取りはイブ辺りにしておいた。

 大きめのホールケーキという事もあり、さすがにアカギさん含め3人で食べれないし、食べれたとしてもそれはそれで食いしん坊なので、当日予定が空いてるフレンズを招く事にした。


 アカギさんも快く承諾。流石に招待しすぎると足りなくなるので調整調整…



 ◆



「「何故我々が行けないのですかァァァァ!?」」


「あんた達が行くと全部食べちゃうでしょ、我慢我慢」


 お誘いを受けた二人はその大きなホールケーキを想像し、大きな期待を抱いていたのだが、その期待と夢と希望は彼女らの飼育員・ミネによって軽々と打ち壊されてしまった。


 打ち壊された期待と夢と希望は粉々に砕け散り、彼女らの心に破片となって突き刺さっているという状態だ。


「あぁぁぁぁぁぁぁ…!!この世の地獄なのですぅぅぅぅ…」


 と文字通り絶望するコノハと。


「覚えてやがるのですミネ!」


 と復讐を心に誓うミミ。

 これは流石にまずい。私がここでケーキを彼女達にあげなかったら私の印象は最悪になるし、普段の生活に支障をきたすだろうし、私の中に罪悪感が残る。


「はい!注目!」


 と、まずは注目を集める。

 そこまで大きな声が出てたのか、コノハに至っては驚きすぎて細くなってしまってる。


「あんた達、そこまでケーキが食べたいの?」


「もちろんなのです!」「ケーキを食わずして何を食うのですか!」


 七面鳥でも食べてなさいよ…と内心思う。


「仕方ないわね…私の奢りよ、ケーキは食べさせてあげるわ」


「本当!?」「なのですか!?」


「ただし」とここで一区切り入れておく。


「食べすぎないよう気をつけること!そしてまずは夕食をしっかり食べてからケーキを食べること!あんた達の栄養管理も私の仕事なん」


 言い終わらない内に二人が飛びついてきた。彼女らはとても軽い、なので飛びつかれてもそこまでバランスを崩すことはない。


「今まで悪かったのですぅぅぅぅ…!!これからはちゃんと言うことを聞くのです…!」


「ありがとう…なのです!我々、ミネにいつも感謝しているのです…!」


「わ、分かったから離れなさいよ!もう!」


 結局食べ物で釣る形になってしまった。でも、彼女達の眩しい笑顔を見る度にこう思う。


 この仕事、やってて良かった…!



 ◆



 ライブはクリスマス当日だというのに、イブに予定が空いてないフレンズはかなりいた。

 なんでそんな大きいケーキを頼んだんだ…!と聞かれそうだが、念には念をという事だ。


 ケーキだけなら3人で食べれるかもしれない、だが忘れてはいないだろうか。

 デザートの前には何かしら食事があるものなのだ。さすがに食べてからホールケーキ食べ切るのはキツイ。生物なので翌日に持ち込めない、食が当たったら大変だ。


 …じゃあなんで俺は大きめのケーキを頼んだんだ…


 なかなか招待できるフレンズがいない中、唯一招待できるフレンズがいた。

 サーバルだ。


 他のフレンズは、明日のために早く寝ておかなくちゃだとか、明日の準備があるだとか、この子達は食べすぎちゃうとかだとかで来れないが、サーバルに至っては飼育員と本人が快く承諾してくれた。


「キタキツネも連れて行っていいかな!?」


 と、予想していなかった名前が出たものだから俺もビックリだ。

 どうやら少し前に知り合って仲良くなったらしい。そのキタキツネ本人がどう思っているかは知らないが…

 きっと彼女の事だからこう言うだろう。


『フライドチキン?同じ肉なら肉まんが欲しいわ!』


 うん、絶対に言う。

 なんなら机を手でバンッ!と叩きつけて立ち上がって言う。

 彼女の肉まん好きは噂ながら耳にしている…


 とにかくこれくらいならケーキも食べ切れるだろうし、一安心…かな?



 ◆



「今年のクリスマスには何をお願いするのだ?」


「うーん、今年も特に無いかなぁ」


 何度も繰り返してきたクリスマスだが、子供の頃から何かを欲するということはなかった。逆にアライさんの方は、クリスマスになるといつも何か欲しがっている。だからその夜は、彼女の欲しいものを枕元に気付かれないように置いたものだ。


「アライさんは何か欲しいものあるの?」


 今年もきっと、何かあるんだろう。

 そう思って、いつものように聞いてみる。


「うーん…秘密!秘密なのだ!」


 予想が外れて少し驚く。

 あれか、俺が枕元に置いてるのがバレたか。

『アライさんが欲しいものを当ててみるのだ!』と言う気なのか!


「今年も楽しみなのだ、メイ…」


「…そうだねぇ、クリスマス…」


 こうやって過ごしてるうちに、クリスマスは徐々に近付いてくる。

 外はすっかり冷え冷えとしていて、マフラーなどがとても嬉しくなる季節。


「ねぇ、メイ…」


 彼女がこちらを向いて、呼びかけてきた。その顔は、いつものアライさんのようにも見えたし、落ち込んでるように見えたし、落ち着いてるようにも見えた…

 とにかく、色んな表情に見えた。


「ん?」


「アライさんといれて、楽しいのか?」


「…もちろん」


「良かったのだぁ…」


 と彼女は安堵する。こうして何気ない会話をしていくうちに、また日が暮れていく。


 もうすぐクリスマス、聖なる夜は近付いてきている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る