第79話 同種

 もっと一緒にいたいと願うようになった。



 ◆



 それから数日が経過した。


「メイ!急ぐのだ!急がないと売り切れちゃうのだ〜!」


「アライさん、そんなに急ぐと危ないよ?」


 限定物の食べ物…言ってしまえばハンバーグを食べるため全力疾走するアライさんを静止する。

 いやまぁ静止したって聞かないんだけどさ。

 彼女はもうすぐ曲がり角に差し掛かる。

 あ、なんか人影が…


 ゴツーン!

 という音をあげそうな勢いで二人は激突した。まるで漫画みたいだな。

 すぐさまアライさんの元に駆け寄る。


「大丈夫?アライさん…すいません、アライさんがやらかしてしまったみたいで…あっ!?」


「いててて、ごめ…うわぁ!?」


 目の前にいたのはもう一人のアライさんだった。



 ◆



「ということなんですカコさん」


「どういう事だ」


 冷静なツッコミ一つ入りました〜…

 面白い事に、アライさんが二人同時に存在している。

 ドッペルゲンガーかな?

 でもちょっとだけ違うのが…


「…私の方が身長はでかいな!」


「な、なにを〜!」


 とこのように特有の語尾も一人称もない。身長も本人曰くもう一人のアライさんの方が大きい。姉妹みたいだ。


「ほう…同種のフレンズが確認されることがあったが、この広大なパークで偶然漫画的な演出でかつ見事なぶつかりっぷりで出会うとは興味深いな」


「いやそこなんですか?というか同じ種族のフレンズっていたんですね…」


「同じフレンズが生まれる事もあるからな」


 カコさんはアライさんたちに目をやりながら話す。


「元となる動物が同じでも、個体が違うならフレンズの性格もそれぞれ異なる。誰と相性が良い、良くないも違うものだ…

 君と彼女が出会え、こうやって共に過ごしているのは奇跡といっても過言ではないだろう」


「奇跡、ですか…」


 改めてアライさんを見てみる。もちろん彼女の方だ。

 いつも元気で、明るくて、時には励ましてくれて…辛い時も彼女と一緒に乗り越えてきた。


 例え同種であろうと、やはり俺にはあのアライさんでないといけない。彼女しか愛せないのだ。


「私は信じないが…」とカコさんがこちらに顔を向ける。


「前世…からの縁かなにかだったりしてな?」


「…」


 出会えて良かった。改めてそう感じた。

 そう思った直後、アライさんがこちらへ駆け寄ってきた。


「メイ〜〜っ!!あのアライさんがぁぁぁぁ!ふぇぇぇ〜…!」


 泣きついてきたので内心ドキリとした。

 多分アライさんの事だ、身長は私の方が大きいだのドジ踏んだだの慌てんぼうだのそんな小さな事を何度か言われたのだろう。

 自分にそっくりなフレンズに言われたのだから、相当応えたのだろう。


「アライさんのそういう所、全部ひっくるめて好きだよ?」


 そう言って彼女の頭を撫でる。

 別に身長が小さくたって慌てんぼうだって良いじゃないか。

 それが彼女の個性で、彼女の良い所なんだ。

 そしてその全部が俺は好きだから、こうやって付き合うことを決意した。


「見せつけてくれるじゃないか…」


 その言葉が聞こえた直後、アライさんと俺は赤面した。

 もう一人のアライさんが悪戯に微笑んでいるような気がした。



 ◆



「不思議な話だねぇ〜?」


「そう、とても不思議な話なのだ!でもアライさんはあのアライさんが苦手なのだ…」


 フェネックに会うなりアライさんは早速土産話をする。結局限定物のハンバーグは本日はソールドアウトということで、アライさんもガックリしていた。


 彼女はフェネックに会うととても喜ぶ。親友同士、仲睦まじくてとても微笑ましい限りだ。そしてフェネックの方もかなり嬉しそうである。


「このパークの中にも私と同じフレンズがいるのかな〜?ちょっと会ってみたいような気がするけど〜…」


「う〜ん、故意に会うと紛らわしいことになるからやめた方が良いって言われたけど…」


 …名前つければいいんじゃ?思えば今までアライさんをアライさんと呼んでいた。

 例えば柴犬がいたとして、その柴犬がフレンズになったとしよう。

 そしたらその柴犬をシバイヌと呼ぶのだろうか?


 フェネックだってペットとして飼ってる人もいるだろう。だが、フレンズとなった今ではフェネックと呼ばれている。

 あだ名みたいなのは存在するんだろう。俺がアライさんことアライグマの事をアライさんと呼んでいるように、きっと他にもあだ名を持ってるフレンズはいる。


 だけど何故か誰も名前を付けようとしない、一般的に動物の頃の名前がフレンズの名前として通用している。

 今更それを考えたってしょうがないんだけどね、アライさんの呼び名を今から変えたりできる訳じゃない。

 それをやったら本人が一番困惑する。


 ちょっとした不思議である。



 ◆



 そういえば最近アカギさんは良くカコさんに呼び出される。

 最初はただの会議、と思っていたのだがただの一飼育員があんなに呼び出される訳ないし、もしかしたら二人にただならぬ関係が…!?

 いや、忍者と博士ですよ?そんなことないって絶対…


「アカギさん、最近よくカコさんのところに行ってるみたいだけど、何かあったの?」


「いや、特に何も無いでござるよ」


 と同じような返しだし、表情一つ変えない…というか見えないので、あっちで何が行われているのかがわからない。


 お付き合いをしてるのか、それとも何か実験でもしてるのか、忍術鍛えてるのか、それともいつか来る脅威からパークを守るためのヒーローになるつもりなのか、それとももう仮面フレンズでもやるのか…


 考えられる可能性は無限大である。

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