第76話 ハロウィン
誰かとただ一緒に笑っていたかった。
支えてくれる誰かが、そばにいてくれればそれで良かった。
◆
この後、飼育員の手伝いをしたりハロウィンの準備をしたりで大忙しだった。
そして夜が明け、ついにハロウィン当日…!
思ったんだけど、これ夜に仮装した方がいいでしょ…怪盗なら尚更。
というかそもそも仮装って夜にするもんじゃないのかな…?初めてだからわっかんないや!
「魔法使いアライさん、なのだ!」
と、先端に小さなカボチャが付いた…と言ってもプラスチック製なのだが、ともかくそのステッキを振るのはアライさん。
仮装は昨日見せてもらったけど、改めて見てすごく合っている…可愛い。
「振り回すと危ないよ〜?」
「メイにも魔法をかけるのだ!チチンプイプイ…のプイ!」
せっかくだからノリに乗ってあげよう…
もちろんちょっとした悪戯だけどね?
「…アァ…!グゥ…フゥ…フゥ…」
と胸を抑え倒れ込んでみる。メイ式迫真(大嘘)の演技だ。
さぁて、どんな反応を…
「め…めい?う…ふぇ…」
あれ…?
「あら…ヒッグ、アライさんのせいで…ふぇぇぇ…ごめん、なさいなのだ…ヒッグ…おねがい、だからぁ…めい…げんきに、うぇ、なって…」
「あぁぁぁぁ!ごめん!本当にごめん!嘘!冗談だから!ほら、メイは元気ですよ!許して!笑って!」
まさかここまで泣くとは思わなかったので、罪悪感を抱きながらも彼女を慰め続ける。
手で顔を覆いながら泣いていた彼女だが、突然パッと顔から手を放し、
「…なぁんて、冗談なのだ!」
と笑顔で言った。
「一本取られちまった…」
随分と泣き真似が上手いや…
まさか嘘泣きだなんて思ってもいなかった。
でも気のせいだろうか?嘘泣きにしては結構涙が出ていたような気が…うぅん、気のせいだ。
昨日怪盗の仮装を試しにしてみて、ちょっと微妙だと思われたのか紫のマントが届いた…
何故紫なのか、そしてこれはもうヒーローにするつもりは無いのだろう。
遊んでるな?絶対遊んでるよな!?
「ようこそ、輝く夜へ!ってか?」
「夜はそんなに輝いていないのだ…?」
「今宵の月により、今夜は一層輝きを放つであろう…!」
「…どうしたのだ?」
ちょっと引かれた。
◆
外に出てみると、まるでアニメの世界のような、賑やかで、そして派手で幻想的な飾りの数々。
別世界にいるようだ、といっても過言ではない…かな?
「わぁ〜…!あっちにもカボチャ、こっちにもカボチャなのだ!うわ!お化け!?」
「これスゴイや…!」
心の中で、アライさんと同じぐらいワクワクしている自分がいる。
前日とは比にならないほどだ。
パークは人で溢れかえり、写真を撮る人、はしゃぐ人、中にはパフォーマンスをする人まで…
「はっはぁ!今日はお祭りだぁぁぁ!」ダダダダ
「あ、メイ!?速すぎるのだ!アライさんを置いていくな〜、なのだ!」
パーク中を子供に返ったかのように走り回る。こんなに純粋に楽しめるのはいつ以来なのだろうか?
見てくれよ、この飾り付けを!そしてこの人々を!
例えるならそうだな、ファンタジーもののアニメで何かお祭りをやってるんだ!
みんな楽しそうに踊ったり、食べ物を食べたり、飲み物飲んだりして、みんなで楽しんでるんだ!それで音楽が流れてるんだ、祭りにピッタリな!
画面越しに感じられる、あのワクワク感!高揚感!自分まで楽しくなってしまうようなあの感じ…!
今、俺はそんな世界に飛び込んでいるんだ…!
「ハァ、ハァ…め、メイ…もう走れないのだ…」バタンキュー
「あ、ごめんアライさん…ちょっとはしゃぎすぎちゃった…」
「でもそんなメイもたまには良いのだ…♪今日はとことん楽しむのだー!」
「野郎共待つのです」「やっと追いついたのです」
上空からやってきたその声の主は…えぇと、あれかな?フック船長かな?
とりあえず小さな海賊の子が二人だ。
「野郎共、出撃なのです」「早く飯を作るのです」
「「お前は飯番なので」」ビシッ
「うぇ、俺!?なんでさ…?」
「飯番は強いのです」「なんでも蹴り技を扱うのです」
「俺は使わないから…」
どこの海賊がそんなことしたかわからんけど、それは置いておこう。
さて、どうやらこのコノハ'sの仮装は海賊。
船長と副船長だろうか?
全体的に青を基調としたコノハと、全体的に赤を基調としたミミのツーコンボである。
うむ、色合い良し!
「なにぃー!?海賊なのだー!?それならこの魔法使いアライさんがチチンプイのプイで倒してやるのだ!」
「やれるものなら」「やってみるのです」バサッ
「あぁ〜、ずるい〜!飛ぶななのだー!」
愉快だなぁ…なんて思ってたら、坂の下からこちらに走ってくる人影が一つ。
「コラー!」と叫んでるのが聞こえる。僅かながらだけどね?
「や、やっと追いついた…コラ!降りてきなさい、このグルメフクロウ!」
「やっと来たのですか」「ノロマなのです」
「え、えぇと…これどういう状況?」
グルメフクロウ!と褒めてるんだか貶してるんだかわからないあだ名をつけているその少女…じゃなかった、飼育員さんは記憶が正しければミネさんである。
この二人に振り回されてかなり苦労してるようだ。
「飛ぶのは禁止ー!スタンプ押す役なんだから降りてきなさーい!」
「すたんぷ…スタンプラリーなのか?」
疑問に思ったアライさんが口を開く。
「あ、えぇと…初めての子ね?詳しく説明してる暇はないけど、とにかくスタンプラリーで最後の一つが押せなかったとかクレームきたらこっちが大変なんだから!そういう事なの!」
「結構大変そうなのだ…」
「悔しかったら私に触れてみるのです。そしたら降りてやるのですよ」
「クゥ〜…!!負けてられるもんですか!」
銀髪のその彼女は、どうにかして触れようとピョンピョンと何度も跳ねるが、残念なことにコノハはそれに合わせ上下するだけなので、全く届かない。
うん、これは無理だ。
「じゃあ頑張って…」
「あなたたちも手伝いなさーい!!」
「こ、怖いのだ〜!」
「戦略的撤退ぃぃ!」
「待てコラァァァ!」
これが鬼の形相である。鬼の仮装かな?
◆
今日、アカギさんは何かのイベントに出場するらしく朝早くから出かけている。
なので事実上ふたりきりな訳だが…
かなり人が多くなってきたようで、すぐにはぐれてしまいそうだ。
「け、結構混んでるね…?」
「人が少ないところに行くのだ!ちょっとそこでアライさんも休憩したいのだ…」
「オッケー…あそこはどうかな?」
指さした先はあまり目立たないような溜まり場、休憩していくには最適だろう。
建物の影に隠れているので、蒸し返して暑い今、そこで休憩するのは一番良い選択肢だ。
「走りすぎちゃったしな…アライさん、付いてきて」ギュッ
「あ…うぇ…?」
戸惑ってるようだが、何にそこまで…?
ただ手を繋いだだけ、なんだけどな…
今更照れてどうするのさ、もう…
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