第75話 仮装祭前日

パークに来てから時間は流れていった。

あっという間にハロウィンのイベント前日となった。

仮装したフレンズ達が見られる他、ちょっとしたパレードもあったり、お菓子も買えたり、スタンプラリーも出来たりするらしい。


仮装はもう決まっている。

アライさんは魔女に決めたようだ。一度着込んで見せてくれた。


全体的にカボチャカラーのローブ、小さな体に丁度合うように作られた。

大きめに作られたそのとんがり帽子は、同じくカボチャカラーなのだが紫も入っている。

深くかぶればアライさんの顔が全部隠れてしまいそうだ。

後はカボチャのステッキ。正にハロウィンを物語っている仮装である。


んで、問題は俺なのだが…


「…なんだいこれ?」


実は、今度やる予定の劇の主役の仮装をやることになってしまった。

えぇい!俺で実験すな!


「ぱーくをまもるためにきょうもたたかうひーろー…?らしいのだ」


「いやいや、これヒーローじゃないでしょ…」


どうやら初期段階らしく、とりあえず作ってみました的な感じらしい。

それにしたってこれは違う。

まず仮面。正に怪盗が付けそうなその仮面を俺がつけなければならない。

なんだこれはたまげたなぁ、こんなヒーローがいるのかぁ…


次に帽子。いやマジシャンかなにかですか?

鳩が出てきそうだよ…

そんでお次に杖…杖?

お揃いのカボチャステッキなのだが、ヒーローじゃなくて魔導師なんじゃないの…?


そんでスーツ…スーツ!?

絶対ヒーロー意識してない、というかこれ…


「…まんま怪盗だよな」


カボチャカラーの怪盗である。

闇夜に紛れお宝を盗む怪盗なのだが、これ紛れられないから!エレクリカルパレードみたいになってるから!

ロイヤルストレートフラッシュを必殺技に使いそうな見た目やん…


「仮面フレンズというらしいのですが…」


「これはどう考えてもカボチャ怪盗なのです。」


「多分カボチャカラーはハロウィン用だと思うんだけどね…ほかの仮装は何があるの?」


「ホワイトライオンの仮装ならあるでござるが…」


アカギさんはそう言いながらつけ耳、つけ尻尾と鬣を持ってきたのだが…うーん、耳に更につけ耳って結構カオス…!

どっちかって言ったら、うーん…ホワイトライオン?でも仮装祭だしここは派手に…


「仮面怪盗にするよ…」


「仮面フレンズの名を全否定したのです」


「ぶっ壊しなのです。ブレイカーなのです」


「なんだそりゃ…」


アライさんもさっき着たところだし、俺もいっちょやってみますか…!





「仮面怪盗!メイ、ここに参上…?」


「何故疑問形なのですか?」


「怪盗の掛け声ってなんだろ…」


いまいちノリが分からない…けど、ちょっとテンション上がってきたかも?

なんだかワクワクするなぁ…仮装なんて今日が初めてだし…


「さぁ、この運命のトランプを引け!盗むか盗まれぬかの運命の分かれ道だ!」


「それやってたらまずメイ殿がお宝とお別れになるでござるよ」


「怪盗ってなんだっけ…」


どっちにしたってきっと明日しか着ない衣装だろう。どうせデザインの大幅な変更とか有り得るし。

だったらメイ式の怪盗を存分に楽しもうじゃないか…!


「フハハハハ!幻夜にようこそ…!」


「悪役なのだ!」


「パークの危機は俺が守る!怪盗、メイ!」


「平和を盗みそうでござる」


「こんなん仮面フレンズじゃないでしょうがぁ!」





パーク内はハロウィンのために大忙しである。それはきっと都市部でもそうなのだろう。しかし、疑問が一つ。


「そういえば不思議なんだけど、大分を切り離したんだよね…?イベントの準備とか大変だと思ってたんだけど、なんか結構狭いような…」


「不思議なことでござるが、サンドスターの副作用かなにかで島全体が収縮したと聞いたでござるよ」


「…よく分からないのだ」


今、俺達は三人でパークへ繰り出している。

コノハとミミちゃんは先ほど別れた。

仮装を見せてほしいと言ったけど、「明日を待つのです」「せっかちは良くないのですよ」と言われお預けをくらった。

そりゃそうだ、そのための仮装祭なんだから。


不安なこともあるけど、なんだかんだ言って楽しみである。

まぁ年中仮装みたいな人が側にいるんですけどね?明日はカボチャカラーの忍者かな…?忍法・カボチャの雨ってか、痛そう。


「明日は天気予報によれば晴れらしいから、心配ないね?」


「カボチャの雨でも…なんて、ちょっとした冗談でござるよ」


読心術者かな?

それよりも…あぁ、なんだか楽しみだ。

仮装ってこんなにワクワクするものなのかな?みんなの仮装はどうなるのかな?

今夜は遠足前の幼児のように眠れなさそう…!


ブー、ブー…

不意にアカギさんの懐の携帯が鳴る。

アカギさんは懐から携帯…結構古いタイプのものだが、それを取り出し耳に当てる。


「もしもし…了解致した、今向かうでござる」


「どうしたんですか?」


「明日の準備を手伝って欲しいとのことでござる。ということで拙者はこれにてドロンでござる。2人でトロンな時間を過ごすでござるよ」ニヤニヤ


「あ、ちょっと!?なにそれ!?韻踏めてるけど!」


ボンッ!

と煙爆弾を炸裂させどこかに行ってしまった。なんつーこったい!

携帯が矢文だったら更に面白かった…

が、流石にそれは被害を被りそうなのでやめていただきたい。


一方隣にいる彼女、アライさんは満更でもなさそう…俺はからかわれてるようでちょっとあれだけどね、うん。


「さて…と、これからどうしようかなぁ…」


「明日が楽しみなのだ!早く明日が来ないかな…♪」


「俺も楽しみなんだけどねぇ、こういう時に限って時間が遅く感じるんだよねぇ…」


なんて言いながらベンチに腰掛ける。

大丈夫、ペンキ塗りたてとかそんな悲惨な事は起こっていない。


ところで、さっきまでウキウキしていたアライさんだが、なんだか寂しそうな、それでいて悲しそうな表情をしている…

これは…そうだ、前にカコ博士に呼び出された時、家を出る前の表情。

何かあったのかな?最近はこんな表情をよく見るから…


「…アライさん?」


「…」


「どうしたの?」


「…あ!何でもないのだ、心配かけてごめんなのだ!」


どうやら少しぼーっとしてたみたい…なんだけど、どうも気にかかる。

何やら胸騒ぎがする、この胸騒ぎはもしかしたら明日への期待なのかもしれないけど、なんとなく嫌な予感がする。


「メイは…アライさんとの約束、守ってくれるのか?」


それは、あの時交わした約束。


『アライさんは絶対にメイとずっと一緒、だから笑ってほしいのだ…

暗い事考えているともっと暗くなるだけ!明るい事を考えて、辛いことがあったらアライさんに相談するのだ!


約束…してくれるか?』


俺は約束を守る男だ。いや、守れてないのかもしれないけど、守る努力は前向きにしている。ずっと一緒、約束しなくたってそうに決まっている。


「もちろんだよ…アライさん?」


「ふふ…良かったのだ」


「…本当にどうかしたの?」


「別に何でもないのだ…」


彼女はやがて、「さぁて!」という声と共に立ち上がり、こちらを向く。

そして、マンガだったらビシッ!という効果音がつきそうなほど、勢い良く指を指して…


「明日はハロウィン、今までで最高のハロウィンにするのだ!」


…なんて、明日への意気込みをアライさんは語る。

アライさんらしいや、そう思った。

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