第68話 妙な夢

 その後はしばらく談笑などしていた。

 アライさんに会えて嬉しそうなフェネックであったが、なんだかソワソワしているようで、さらに落ち込んでるようにも見えた。


 ただ、その時に一番印象に残った出来事はこれだ。


「トランプやりましょう!」とレナさんが取り出したのはUNO…UNO!?


「レナさん、それUNOだねー」


「はわぁ!?ぼ、僕としたことが…」


 ちょっとおっちょこちょいなのかな?

 なんて思いつつ笑っていた。


 実は、フェネックの事を内心心配していた。というのも、彼女は数年前から不幸な目にばかり遭ってきたのだ。別れる時も、しっかりした飼育員に見てもらえるかなって…


 でも、その心配はなさそうだ。

 ちょーっとおっちょこちょいだけどね?それでも楽しそうなフェネックだ、きっと大丈夫なはずだよ。


 その後、夜も近くなってきたもので帰宅した。かなり家を開けた上に、パークの人達と触れ合えてなかったので大丈夫かな?と不安になりながらも帰宅したが、アカギさんは


「それで良いのでござるよ。人間が動物の暮らしを見るように、ここではフレンズのありのままの暮らしを見ることが出来るでござるから…」


 と言ってくれた。しかし、その後にアカギさんの口から『デート』の三文字が出た瞬間顔が真っ赤である。

 どこで知ったんですか…それ…



 ◆



 気が付くと、俺はあの空間にいた。

 あの空間というのは、時々見る奇怪な夢、そう、あの謎の声が語りかけてくる空間である。ここ数年は見ていなかったこの夢、今頃出てきて何を伝えるというんだい?


「…久しぶりだねぇ…何か用かな?」


「……るな」


「?」


「人間に対しての恨みを忘れるなぁ!!!」


 突然であった。

 その声は今までとは違う、怒り、恨み、そして少々の焦りが混じったような声だ。

 フゥゥゥゥ、フゥゥゥゥ…!!


 なんということだろうか、唸るような声まで聞こえてくるのだ。

 一体、何をそんなに…?


「落ち着いて、落ち着いてくれ…どうした、一体何があったんだ?」


「何故お前は忘れた…!!お前はニホンオオカミのフレンズ、ニホンオオカミ、人間の手によって滅ぼされた種のフレンズ…!決して忘れるな…!人間を恨め…」


「おい、ちょっとそれは違うんじゃ…うわっ!?」


 突然、床に穴が開き奈落へと真っ逆さま…




 そこで目が覚めた。



 ◆



 それから一週間後のことだろうか。

 夢の内容を心に留めておくも、あまり気にせず相変わらず呑気に過ごしていた頃だった。

 プルルルル…プルルルル…


 一本の電話が俺の元へやって来た。


「もしもし、メイさんですか?」


 その声の主はミライさんであった。


「はい、そうですが…何か用ですかね?」


「それが、重大な事実が判明したんです!パークセントラルに来て頂けますか?」


「分かりました、今向かいます」


 ツー…ツー…


 電話越しに彼女はかなり興奮していたようだった。それほど彼女を興奮させる事実とはなんだろう?


 正直、俺自身も気になっている。


「アライさん、ちょっと出かけてくるね?」


「あ…分かったのだ…」


 …?なんでこんなに落ち込んでるのかな…



 ◆



「聞いて驚いてください、メイさん!!!」


 凄まじい声量で迫ってくるミライさん。

 もうこの時点で驚いているのだが、そこまで驚くべき事実が分かったのだろうか?


「実はだな…」


 その光景を呆れ顔で見ていた──カコ博士が口を開く。

 病院にお世話になった時、使ったナイフを研究させてほしいと頼んできた人物だ。

 どうやらミライさんを迎えに来た時のあのヘリの運転手だったらしい。


 あまり対面することはないが、これまでの研究、特に俺の先祖に関わるものに対し研究してくれたので、先祖に関して調べられるのは技量的に多分この人だけ、多分ね?


 その顔はかなりやつれており、研究のしすぎは良くないですよと言いたくなった。


「…サンドスターは実は昔に一度観測されていた…しかし、今の成分とはかなり異なるようでな、本当に奇妙だな?メイ、君のように男でありながらフレンズである存在があったのさ…」


 ゴクリ、と唾を飲み込む。


 実は先日の夢でかなり気になっていたことがあった。

 何故あの声の主はあそこまで人間を恨むのか…ニホンオオカミである俺が、恨みを忘れてはいけないと言われる…


 つまりそれは、人間の手によって滅ぼされたニホンオオカミの願い…


「カコ博士、それって…明治時代あたり、ですか?」


「察しがいいな、メイ…私の研究結果が合っているのであれば、大体その時期だ」


 俺は昔から、ちまちま自分を構成する要素の一つとなったニホンオオカミについて調べていた。

 ニホンオオカミは明治辺りだろうか、西洋犬の輸入や、開発の影響…人間による駆除によって数を減らしていった…


 そして絶滅に至る。


「カコ博士、それってやはり…」


「勘の良い君も察しているだろう──」


 あぁ、そうだ。

 明治辺りに絶滅してしまった動物、人間によって駆除され、きっと人間に対する恨みは持っているであろう動物…





「──ニホンオオカミのフレンズ、アニマルボーイがいたのさ、昔にね…」


やはりそうだった。

あの声の主は昔のニホンオオカミのフレンズだ、きっとそうに違いない。

勘違いだったらあれだけどね。


「俺の祖先…かもしれないと?」


「あぁ…その可能性が高いな」


「早朝に突然呼び出してすまなかった」と詫びるカコ博士。でもカコ博士が謝るより、むしろ俺が感謝したいぐらいだ。

なぜなら俺の先祖や何故俺がフレンズになったかなどの秘密に近づくことが出来るから…


それにしたって不思議だ。

一度観測されたはずのサンドスター、それなのに歴史の教科書にも科学の教科書にも出てきてないんだ。


これほど不思議な話があるだろうか?





「ただいまー…ぁ!?」


家の扉を開けてみると、苦しそうに、そして絶え間なく息をするアライさんの姿、そしてそれを看病するアカギさんの姿があった。


これ…は、どういうことだ!?


「アライさん!!」


すぐ傍に駆け寄る。

額に手を当ててみるとすごい熱だ、なんだこれは、風邪でもこんなに熱は出ない。


「ダメでござる…拙者の忍術でも治せないのでござるよ、救急車は呼んだが、少し来るのが遅くなると…!拙者がいながら何故なにゆえ…!!」


「アカギさんは悪くないよ…!!」


アライさん…!しっかりしてくれ…!!

負けるな、頑張れ…いつもの元気で、その無邪気さで熱なんて吹き飛ばしてしまえ…!


そしていつも通り笑ってくれよ…!


「ハァハァ…メ…イ…」


「アライさん…!!」


「アライさんは…もうダメかもしれないのだ…」


その時発した言葉、まさかこの先またアライさんが二度と発するだなんて夢にも思わなかった…

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