第67話 遠い過去

 …それはフレンズが誕生してから一ヶ月後の話だった。


 いつもと変わらない通学路を歩くのは、

 今は亡き青年"カエデ"であった。

 今日も何も変わらない日々を送り、退屈な時間が過ぎるだけなのかと思っていた。


 …しかし彼は見てしまった。


「静かにしやがれ!ったくよぉ…!」


 黒スーツの男が、何かを車に詰めるのを見た。それは荒々しく、乱暴だった。

 男も男でかなりイラついてるようだ。

 しかし、カエデはすぐに気付いた。


 ──車の後部座席には、拘束されたフレンズがいたことに…



 ◆



「…それから、だな。あの馬鹿兄貴の中で何か変わったんだろ、必死に情報を探ったさ…」


「…それって」


 そうだ、フレンズを誘拐する組織だ。

 数年前に滅びた、あの組織である。


「察しがいいようで助かるぜ…」


 テルアは一言一句漏らさぬように話を続ける…



 ◆



 幾度となく見かけた現場。残念だが僕は非力だ…しかし、証拠さえ捉えられればすぐに檻の中だ。


 もしこれをメイが知ったら怒るだろうな…

 なんて考えながら写真を撮って、撮っての繰り返しである。

 しかし何度警察に提示したって捕まることは無かった。


『フレンズに関しては憲法で人権が確定されてないし、それに関する法律が出てないからなぁ…うちではなんとも…』


 カエデは激怒した。

 結局警察は憲法だ法律だなんだ言って動こうとはしない、自分とは別種の生き物にはまるで興味が無いんだ。

 こうなれば自分で解決するしか方法はない。


 SNSに写真を投稿、拡散希望の文字を添えて。間違いなく捕まれとかそんな声があがると思っていた。



「…ま、その考えが甘かったんだがな〜?」


 なんて言いつつテルアはため息をつく。

 確かにそうだ。フレンズに対しての法律や憲法は制定されてなかった。

 前に組織に突入したのも、銃刀法違反や、その他諸々だとは聞いたけど、フレンズに関してはノーコメントだ。


 つまりはそういうことである。


「…さて、話はここまでにしておくかぁ?

 てめぇのパートナーも随分と待ち焦がれてるみたいだしなぁ?」


「…へ!?あ、いや…その…アライさんは…」


「いいってことよ…退屈だろ?こいつと一緒に遊んでこいよ!」


「気遣いありがとう…話はまた今度、ということでいいかな?」


「そういうこったぁ…」


 またパークに訪れた時、話を受けることにする。この話を聞いて、そして組織に突入したことを聞いて改めて思うのだが…

 日本の警察って、あまり宛にならないのかね…


 それにしたって話が途中で中断したせいで、何のためにここを訪れているかわからない。

 自分の知らない過去を知るためか、それとも別の目的のためか…

 それはお預けだね。


「時間を使わせてすまねぇな…おい、おめぇなんて言ったっけ?」


 自分から呼びかけておいて忘れるのはなんか癪に障るが、ここは自己紹介をしておこう。


「…俺はメイだ、また今度会おう、テルア」


「はっ…覚えてくれててありがてぇよ。

 おい行くぞババァ!」


「はいはい…」


 相変わらず口が悪いが、確かに兄貴思いだ。

 それに気だって遣える。人は見た目、口調だけじゃ決まらないってか…

 口調悪かったらマイナスのイメージがかなり大きくなるけどね…


「メイーッ!早く来るのだー!」


 大きく手を振ってこちらを招くアライさん。

 少しボーッとして考えてしまっていた。

 そうだ、話をしてるうちに少しずつ時間は短くなっていく、この一瞬一秒が大切なのだ。

 貴重な時間だ、早く行かなければ。



 ◆



 目が覚める。しばらく昼寝をしていたと思い込んでいた、しかし実際はただ目が覚めただけだった。

 あまり時間は経っていない、また眠るか…


 ふと、隣を見てみると飼育員の彼女はぐっすりと眠っていた。

 結局睡魔には勝てなかったようだが幸せそうな表情である。

 眠るだけで幸せだなんてね…


 私もそれぐらい幸せな人生送りたいよ…


「!」


 私の大きな耳は確かに捉えた。この声はアライさんの声である。さらにメイまでもいるではないか。

 足音からするとこちらに来ているようだ。

 正直ちょっと気まずいけど…相手はなんとも思ってないだろう、そうだ、今まで通りに接するだけ…


 ユサユサ

 眠る彼女を揺さぶる。客人が来たことを告げるため、それも彼女が初めて会う客人、フレンズ。


 無断であげるのもあれだし、あげたらあげたで友達3人+見知らぬ眠り姫というなかなかカオスな状況になりかねない。


 それにしたって本当に幸せそうである。幸せすぎて自分が今揺さぶられていることもわかっていないようだ。


「おーい…起きて〜?」


 声をかけても起きない、一際大きな寝息の音が耳に響く。


 コンコン

 戸を叩く音がした。どうやら到着したらしい。

 と、そのノックの音と同時に…


「ふわぁあ!?おはようございま…」ゴォン!


 額と額が見事にぶつかる。まるでそれはどこかでみた漫画みたいだ。

 …普通に痛い。


「…っ、いったぁ…」ウルウル


「ご、ごめんね〜?悪気はなかったんだよぉ〜…」


「い、いえ、私が寝てたのが悪いんです!先ほど夢じゃなければノックの音が聞こえたような気がしたんですが…もしかして、誰か来てます?」


「来てるねぇ…それも私の知り合いだよ」


 それを聞いた瞬間玄関へと駆け出す。

 今の瞬発力私よりも凄いんじゃないかな〜?


 ガチャ


「すいませ〜〜ん…!遅くなりました…

 どちら様…でしょうか?」



 ◆



「すいませ〜〜ん…!遅くなりました…

 どちら様…でしょうか?」


 中から出てきたのは黒髪の少女であった。

 何故か息を切らしながら扉を開けたその少女…多分フェネックの飼育員だろう。


 別の飼育員にも聞いた、間違いなくここだ。


「あ、初めまして…多分ここにフェネックいますよ…ね?」


「あ、えぇと、あの…!」


 や、やばい…何故だか凄く緊張する…!

 なんだ、なんだこの感覚…!

 ダイナモ感(ry


「お邪魔するのだ!アライさんはアライさんなのだ!こっちはメイなのだ!

 よく聞くのだ!なんと、メイとアライさんはもう」


「おぉぉぉぉぉっとこれ以上はいけないんじゃないのかぁぁぁい!?」バッ


「ムガムゴムググッ!」


 手で抑えるのもなんだか申し訳なくなってきた。今度はお口で…ごめん変態だ俺。


「あはは…賑やかですね、確か…メイさんとアライさん、ですね?」


 黒髪の少女は困惑しながらも話しかける。

 丁度奥からフェネックがやってきた。

「相変わらずだね〜」と若干のんびりしたような声をしながら。


「自己紹介が遅れました!」


 彼女は被っていた帽子を取り、深く礼をする。そして礼をしたところで…


「ジャパリパーク飼育員フェネック担当の、玲奈レナです!宜しくお願いします!」


 …これ上司にする挨拶みたいになってるけど…

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