第64話 軽やかなステップ
空から落下してくる雨粒は、やがて地に落ちてくる。
木々の間の葉に落ちる物もあれば、文字通り地面に落ちる物、人工物の上に落ちる物もある。
様々な雨粒の落下音はまるで楽器を奏でているかのようで、それはいつもの青空の下で暮らす時とは違い、一風変わった音楽が流れているようであった。
そんな雨の中、無邪気にはしゃいでいるのは一匹のフレンズ、アライさんである。
念のために傘を持たせておいてよかった、
相合傘なんてしてみたらアライさんはたちまち隣から離脱して真っ先にびしょ濡れになるだろう。
雨の日のアライさんはとても楽しそうだ。
傘をさしながら、そこら水たまりを一つ、二つと飛び越えながら、満面の笑顔でステップを踏む。
それはさながら雨を久しぶりに体験した子供のようである。
「アライさーん、そんなにはしゃぐと傘の意味無いよ〜」
「雨はとても楽しいのだ♪メイも早く来るのだ〜!」
俺も声をかけられるが、こう見えても20代の男である。
もう雨で楽しめるような歳ではない。
悲しいことに…
純粋な心を取り戻したい、という気持ちに幾度か浸ったことがあった。
幼き頃の、初めて体験することが何もかも楽しかったあの頃の心を。
今目の前で雨に少し濡れながらもステップを踏み、踊っているかのようなアライさんのような心を。
いくら願ったって帰っては来ない、その心。
今俺の心は純粋そのものとは言えない。
どこかにいつも憎しみと怒りが隠れている。
何に対してかは分からない、こればかりは
いつになっても止まないのだ。
さすがにこれ以上濡れたら後が困るだろうと思い、アライさんの元まで歩み寄り声をかける。
「そろそろ…行こっか?」
「ご、ごめん!じゃあ行くのだ!」
今日のジャパリパークは雨である。
ジャパリパークのみならず、どうやら
各地で広く雨が降っているご様子で…
ただ、人は昨日に劣るもののかなり来ている。
さすがジャパリパーク、感心だ。
アライさんとのデートということで、せっかくアライさんが提案してきたのでアライさんにプランを組ませてみた。
が、かなり無茶苦茶な部分があったので
そこらはカバーはしておいたつもり…
とはいえエリア巡りが大半を占めている。
もちろん昼食等はどこで取るか考えてはいる、しかし計画通りになるかは分からない…
「こっちの傘は閉じて…これで相合傘なのだ!」
「…雨に濡れないようにね?」
結局は相合傘になるのである。
◆
最初にアライさんが選んだのは都市部である。
一応政府の認識的にはパークの一部に含まれるらしい。
こちらにはコンビニや図書館など昔も日常的に使っていた施設が沢山あって便利である。
ただ、馴染みの喫茶店…
あそこはかなり遠い場所に位置しているため、なかなか行けないものである。
何故アライさんはここを選んだのか?
彼女によると、「また一緒に肉まんが食べたいのだ!」とのこと。
さっき朝食食べたばかりじゃろうに。
でも確かに、最近はコンビニの肉まんは買ってもいない。
やはりカンナさんのおかげ…だな。
傘を閉じて雨粒を払う。
「先に行ってるのだー!」
とアライさんは自動ドアへ駆け出す。
「そんなに走ると危ないよー?」
俺も少し笑いつつも中へと入っていく。
「いらっしゃいませー」
店内はやはり人が少ないようであった。
しかし、見慣れないフレンズもちらほらいた。
コンビニに長くいてもあれなので、肉まんを購入、足早に去ろうと考えていた。
「322円になりまーす」
お代を払い、アライさん待望の肉まんを受け取る。
ただ、どうもさっきから気になるのは店員さんの目線である。
するとその店員さんが口を開く。
「あの…保護者さん、ですか?
そちらのフレンズはどちらで…」
…また間違われてしまった。
俺とアライさんの精神年齢、見た目、幼さの差を考えてみれば当然だが、どうも俺は傍から見たらフレンズを攫うフレンズに見えてしまうらしい。
なので保護者か?それとも飼育員なのか?
などと聞いてくる人が多い。
「いえ、違います。俺はアライさんと、その…交際…関係、に…//」
何を照れてるんだろう、馬鹿みたいだ。
いや、照れた方が自然だろう。
さすがにこれで照れない人はいない。
んで、大抵この後に返ってくる言葉が…
「へ、へぇ〜…意外ですね…」
これである。
絶対にロリコンだとか誘拐犯だとか思ってるんですよね。
あ〜…悲し。
「むむぅ〜!その顔は絶対に疑ってる顔なのだ!メイとアライさんはな!付き合い始めてもう何年なのだ!アライさんはメイが大好きなんだぞ!メイだってアライさんのことを」
「わぁぁぁぁぁ!やめてやめて!
ここ店の中だから!撤収!撤収〜!」
ある意味足早に去った。
◆
俺とアライさんは何年もの交際関係にある。
よく「婚姻を結ばないのか」とか、
「浮気してるんじゃないの?」とか言われるけど決してそんなことではない。
政府が定めた『フレンズ保護法』は確かにフレンズに人権を定めるものであった。
しかし、フレンズは通常アニマルガールしかいないので、婚姻を結ぶなどは想定されていなかった。
同性愛が社会に認められないように、
俺達の婚姻も政府に認められないのである。
…最もの原因は俺に勇気が無いことにあるが。
さて、お次に到着したのは映画館…ベタである。
丁度ネットを使って調べたところ、面白そうな映画…もといアライさんが怖がりそうなホラー映画があったものだから行ってみることにした。
つまり、これは完全に俺の希望だ。
俺には少しイタズラ好きなところがある。
ちょっとしたイタズラでアライさんの反応を見るのも面白い。
だって…その、いちいち可愛いし…
当人のアライさんはもう震えてる模様。
丁度映画のチケットを受け取り、ポップコーンやドリンクを購入したところである。
「メ、メイ〜…これもしや怖い映画じゃないか〜…?」
「ん〜?…お楽しみに…♪」
「メイ〜!?」
さて、どうなることやら…
◆
そして、しばらく映画館にて鑑賞していた。
丁度物語は中盤に差し掛かっている。
段々謎が解けていくも、更に怖くなる。
どこぞのバイオハザードとは違い、
ゾンビなどは出てこないので子供でも安心して怖がれる映画なので、アライさんも安心して見れる。
無論、俺は怖がらない。
何故か…と言ってもそれ以上の体験をしてきたからとしか言いようがなくてだな…
一方のアライさんは実は怖がりである。
普段の態度からしてなかなか想像出来ないであろう性格だ…
「ぴやぁぁぁ〜っ!メイ〜っ!!」ギュッ
アライさんは目を瞑りながら袖を握ってくる。そして今にも泣き出しそうである。
正直やりすぎた感と罪悪感がある。
ごめんよよよ…
「ほら、落ち着いて。メイはここにいるよ」
「うぅ〜…メイがこれを見ようって言ったからなのだ…もう…」
「はは、ごめんって…」
まだデートは始まったばかりだ。
次は昼食でも食べに行こうかな?
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