第60話 風変わり

一風変わったアカギさんだが、

こう見えて心は優しいようだ。

先程、困っている別の飼育員を手伝ったり、

自分から率先して仕事したりと

かなりやり手のようだ。


つまり、人は見た目ではない。


「着いたでござるよ…というか、このござるという口調やめていいでござるか?」


「自分の勝手だと思うんだけど…」


今俺達がいるのは、これからの生活の舞台となる場所、すなわち住処である。

敷地内に建てられたという飼育員とフレンズのための集合住宅…


言うなれば、"ジャパリアパート"というのだろうか。


「一番乗りなのだー!」


「あ、ちょ!アライさん!

こういう時はお邪魔しますって…」


「はは、良いのでござるよ。

これからメイ殿、アライグマ殿もここで

過ごすのであろう?」


「確かにそう、なんだけどなぁ…」


もうちょっと礼儀を教え込んだ方が良かったのかな…

というか、その口調やめないのか…


忍術を趣味でやっているという割には、

家の中はごく普通であり、特に変わったものは無さそうであった。

こう言っちゃ失礼だが、この見た目で

この生活というのは、中々のギャップ…


「のだぁー!?」という声に反応し振り返ってみると、なんということでしょう。

忍者屋敷でよくあるあの反転する壁に、

アライさんが倒れ込んでるではありませんか!

見事に一回転し、無事壁の向こう側へ!


…前言撤回、ここは異質だ。


「気を付けるでござるよ、ここは拙者が改造した部分が多いのでござる」


「先に言ってくださいよ…この先は何があるんです?」


アライさんが吸い込まれていった壁の向こう側へ行くと、そこには一つの部屋が広がっていた。


「わぁ…忍者って感じがするな」


「そこは拙者の忍術道具が揃った部屋でござるよ。例えば…」


アカギはそばにあった袋を持ち、中から

黒い何かを取り出す。

四つの刃がついた投擲型の小さな物体、

"手裏剣"である。


「これ!見たことあるのだー! 」


「へぇ…本当に持ってる人いたんだぁ」


「滅多に投げることは無いでござるがね。

ハハハハハ」


どうやらこの人は本当に忍術が好きなようだ。

まぁ、人それぞれ好きなものも違うし、

こういう人がいても面白い、かな?





「…そろそろ、開園するでござるよ」


ついに始まる。

たくさんの人が、ここを訪れるであろう。

性格も何も、姿形も十人十色な人達が

ここを訪れるんだ。


なんだか緊張してくる。

俺は人前に立つほうじゃなかったんだ…


「いーっぱい遊ぶのだ!」


とアライさんは言う。

そうだ、これから来る人と遊べばいい。

元々ここは、フレンズたちと触れ合える場所として作られたのだ。


何を緊張する必要があったのだ、メイよ。

うん、リラックス!


『あと一分で開園します!

お客様は指導員の指示に従って、列を作ってください。混雑防止のため、ご協力を…』


アナウンスが鳴り響く。

え、何!?もう一分だって!?

あぁ、ヤバイヤバイ…!


『残り三十秒となりました!

当園内では、ゴミはゴミ箱へ…』


あぁ!?

よくよく考えたらなんでこんな女の子しか

いない場所に男が一人混じってんだ!?

異端児すぎるだろ、おい!


『残り十秒です!

フレンズさん達にフラッシュを焚くのは、

動物の時と同じく…』


…性別などどうでもいいんだ。

ただ、交流できて、触れ合えればいい。


『五!』


「メイ、これから頑張るのだ!」


『四!』


「あぁ…俺も、アライさんもこれから、ね?」


『三!』


人間と、フレンズの架け橋になる──


『二!』


きっと、忘れられない思い出になる──


『一!!』


『──ようこそ、ジャパリパークへ!』





「こちらが絶滅種であり、唯一の男の子のフレンズのニホンオオカミさん、メイさんです!」


「あ…メイです、宜しくお願いします」


正直、俺はどのように接したらいいかわからない。

というか、誰だって困惑するでしょうに、

この状況…


「うわぁぁぁぁぁあん!」


ふと、泣き声が聞こえた。

声がした方向を振り返ると、小さな男の子が

一人泣いていた。

迷子かな?近寄って話を聞くことにする。


「えぇーと…もしもーし、僕〜?

どうしたのー?迷子かな?」


「ふぇぇぇん…ママ…パパ…」


やはり迷子らしい。

こういう時はパークセントラルに行った方が

いいのかな…

実行に移さなければ、何も始まらないけど。


「大丈夫だよ、ママとパパはきっと見つかる。まずはパークセントラルに行ってみよう。君のママとパパに呼びかけて、

来てもらうんだ。きっと会えるよ!」


すると、その男の子はピタリと泣くのをやめて、俺の顔に焦点を合わせる。


「会えるの…?」


「あぁ、絶対にね!さ、行こう?」


少年の顔が晴れ、笑顔になる。

正直、俺はどう話していいかもわからなかった。

ほかのフレンズ達に話してるように話せば、

この口調をきっと嫌がる人もいるのだろう。


でも、俺はフレンズとしての俺を見てもらいたい。

上部ばかり飾ってばかりじゃ、ダメだよね。


「…うん、行く!」


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