第57話 絶対って気持ち
また、俺は一人この空間に取り残される。
光も照らさない、この真っ暗な空間で。
俺は、いつまでここにいるのだろうか。
『メイ…メイ…!』
みんなの声が聞こえてくる。
悲痛な声が…
『メイさん…ごめんなさい…私のせいで、こんなことに…お願いだから戻ってきてよぉ…』
フェネック…
君のせいじゃない。
これは俺が自分でしたことだ。
『メイちゃーん!また一緒に遊ぼうよ…
だから目を覚ましてよぉ!』
サーバルちゃんまでいるの…?
でも、俺は…
『戻ってまた我々に美味しい料理をご馳走するのです。』
『…我々は、あなたを待っているのですよ。』
ダメだって、俺が戻ったって、
また迷惑かけちゃうんだよ…
『メイ!お前にはなぁ、まだやる事があるだろう!?こんなに若いのに、先走りやがってよ…!』
ヒグマがこんなことを言ってくれるなんて
思ってもいなかった。
俺…俺は…
『正直、アンタの事はまだ良く知らないけど、こんなことになってるなんて思わなかったわ…目を覚ましたら、また肉まん、奢ってよね?』
『メイ、お前がいなくなったら…
誰がこのアライグマを見てやれるっていうんだい?』
『メイさん!僕はまだメイさんの思っていること、よく分からないけどさ…
でも、こんなことをして悲しむのは
僕達だよ!』
『メイ様…あなたの命、貴方様の物だけではないのです。
私達がこうやって悲しみ、あなたが戻ってこれない…
そんなの、誰が得するのでしょう?』
『失敗ばかりする私だけど…
メイ先輩を見習って、また
頑張ってバイトしたいんです…!』
『メイさん!また元気で私たちの元に
帰ってきてください!
そしてまた…家に、泊めてください…』
みんなの声が聞こえる。
絶対に戻らないって、決めたはずなのに。
俺は…俺は…
戻りたくて…
身勝手だと思われるかもしれないけど…
俺は…!
『メイ、初めて会った時のこと、
覚えている…のだ?』
…アライさん。
もちろん俺は覚えているさ。
『あの時…メイの優しさ、アライさんは 嬉しかったのだ…
動物の頃は、害獣、害獣って言われて。
人間は、金を欲しがってアライさんを
捕まえようとしたけど。
メイは、アライさんを引き取ってくれて…』
アライさんは害獣なんかではない。
もうフレンズじゃないか…
それに、勝手に害獣にしてるのは
人間の方だ。
別に、アライさんはなんも悪いことはしてないんだ。
『メイがいなくなったら、アライさんは…
とても悲しいのだ。
それに、メイがいなきゃアライさんは
きっと、何も出来ないのだ…』
…そんなことないって。
アライさんは俺がいなくたって、
一匹だけでも出来るって。
そうだよ、俺がいなくたって…
『アライさんは、メイのことが
どうしようもないくらい…大好きなのだ…
メイから色んなことを教わって、
教わってる内に…うぇ、メイの事が…ヒッグ』
…アライさん、泣かないで。
慰めてあげたい。
その涙を、俺は拭きたい。
手が届かないところにあるって、
分かっているのだけれど。
俺は…アライさんの所に…
みんなの所に…!!
『だから…ヒッグ、目を覚ますのだぁ…!』
「絶対に戻ってやる!!!!!!」
光が溢れる。
何も無かったその空間に、
花が咲き乱れる。
花びらが舞い、まるで自然は
俺を包み込んでいるかのようだ。
『戻ってやれ』
そう言われているような気がした。
あぁ…言われなくても、俺は戻る…
絶対に…絶対に…!!
◆
──震える声で旅立ちの名を呼べば、
──孤独の部屋をあなたは出て行く…
『悲しませんなよ?
…そして、笑顔にしてやれよ?』
◆
彼の指が、アライさんの頬に触れた。
「…!!メイ!」
彼は瞼を開け、アライさんのその涙を
指で拭う。
「…泣くなって、アライさんには
笑顔が一番似合うからさ…」
彼…メイは、目を覚ましたのだ。
この世に戻ってきたのである。
「メイ…良かった、無事でよかったのだぁ…ふぇぇぇ…」
「泣かないでっていうのに…
もう、アライさんはしょうがないなぁ…」
メイは、アライさんを抱きしめて慰める。
次第に、連られてメイも涙を流す。
喜びの声が、部屋中に鳴り響いた。
「心配したんだぞ!メイが死んだら、
私達…」
「…俺は別に、そんな大層なことはしてないよ。」
別に俺は、物語の主人公などではない。
世界の中心ではないのだ。
しかし、誰かが言っていた。
"誰だって主人公"だって。
俺はこの"
しっかりと歩んでいかなきゃならない。
「ごめんね、みんな…迷惑、かけたでしょ?」
「そんなこと、ないですよ…
メイさんが戻ってきてくれて、
みんな嬉しいんですよ。」
「…そんな大層なこと、してないって
言うのになぁ…ははは…」
生きる希望を、楽しさを。
その心に刻んで──
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