第56話 魂の在処
「…何回こんな展開になるのやら。」
何も無い空間にただ一人、という
展開が何度もあったせいなのか、
驚きもしない。
こんな状況、前までなら
どうしたら戻れるか?などと
考えていたものなのだが、
もう戻る気もない。自分が嫌になっていた。
何故"メイ"という存在がこの世に誕生して
しまったのか、俺には不可解で仕方が無い。
思えば、卒業してから濃い人生を
歩んできたものだ。
ギネス狙えるんじゃないかな。
誰かの後ろ姿が、見えたような気がした。
珍しいな、今までなら声とかだけだったのに、今度は姿まで見えてるよ。
きっと幻覚だよ、そうに違いない。
自分に言い聞かせても、その後ろ姿は、
どこか懐かしいような感じがして…
思わず追いかけてしまった。
その背中が、段々迫ってくる。
その人はどこへ行くのだろう。
「ね、ねぇ!君!」
「う、うわぁぁぁぁあ!?」
「君と俺、どこかで、会ったことが…?」
その人は、少し幼い少女だった。
◆
「メイ…メイッ!目を覚ますのだ…!
アライさんが悪かったのだぁ…うぇっ、
ヒッグ……」
「メイちゃん…なんで、どうして…」
意識もなく横たわるメイ。
状況は一刻を争う事態となった。
何処からか取り出したかも分からない
ナイフで、メイの全身はボロボロであった。
このままでは、やがて彼の命は…
「…私達にも、きっとなにか出来ることがあるはずです!最善を尽くしましょう!」
「しかし奇妙なナイフだな…
切れ味が鋭いし、更にこんなにも頑丈なのに軽くて振りやすい…
どこから、このナイフを持ってきたのか、
研究する必要がありそうだ…」
「カコさん!今はそれどころじゃないですよ!」
「わわわ!我々はとりあえずなんでも
持ってくるのです!包帯!薬を
持ってくるのです〜!」
「急ぐのです博士!手遅れにならない前に!」
「メイ…どうしてお前はいつも勝手に…!
勝手に自殺しようとしてんじゃねぇよ!
少しは、私に相談ぐらいしてくれたって
いいじゃないか…」
荒れる現場、目を閉じ微動だにしない
彼の横顔に、ただ涙を流すしか出来なかった。
◆
「ごめんなさい、僕は何も覚えていないんです。なんでここにいるのかも…」
自分の名前もわからない彼女は、
ここがどこか、どこへ向かうのかも
分からないようだった。
さて、どうしたものか…
「とりあえず、俺はメイ。
訳あってここにいるんだが…
あ〜…どう説明しようか…」
『メイ!どうしてお前はいつも勝手に…!』
何処からか声がする。
あれはヒグマの声だろう。
きっと亡骸を見て泣いてる頃だろうか?
ごめんね、悲しませて…
「…メイさんを呼ぶ声がしますが…
これは、どこから…」
「…説明するよ。俺は多分だけど、死んでる。
多分君も、どこかで死んだのかもしれない…暗い話になってごめんね。」
「え、えぇ!?僕、死んで!?」
慌てふためく彼女を落ち着けたいところだが、生憎アイデアを持ち合わせていない。
ふむ、どうしたものか…
魂だけの存在…か。
「あ、あそこを見てください!光が…!」
「光…?こんな所に光なんてあるのかな。
…あ、本当だ。」
「向かってみましょう!」
◆
ガランっ!
「ハァ…ハァ…みんな、どうしてここに
いるのさ…?」
「どうしてもこうしてもないのだぁ…
メイが、メイが…」
突然のアライさん泣き顔に、
フェネックも困惑を隠し切れない。
アライさんが言うには、メイさんが
どうとかこうとか…
しかし、その困惑の表情は、
彼の姿を見た時、一瞬で悲しみへと変わる。
「え…嘘、なんで…私の…せ、せい…かな?いや、嘘だよね…ねぇ、嘘って言ってよ…
メイさん…」
フェネックはその場に崩れ落ちる。
やはりそうなんだ。
私がいるから、皆不幸になったんだ。
私のせい…
私のせいで、メイさんは…
◆
「ここ…かな?」
そこには一つの扉があった。
扉からは微かな光が漏れ出しているが、
向こう側には何があるかもわからない。
扉で俺は思い出す。
"輪廻転生"
一度死んだ魂は、また別のものとなって、
記憶も何もかもを失って生まれ変わる。
ひょっとしたら、この扉は…
「開けてみよう。」
「え、大丈夫…なんですか?
危険かもしれません…」
「案ずるより産むが易し!ってね!」
「…?どういう意味ですか…?」
ドアノブを掴む。
この扉の向こう側には、どんな世界があるのだろうか。
ガチャリ、とドアノブを回す。
扉を引き、光が解放される────
「わぁ…!」
彼女は驚き、そして喜んでいた様子だった。
現実では見ることの出来ない、
雄大な自然の景色。
扉の向こう側は、こんなにも綺麗で…
俺も行きたい、のだが…
「…ダメだ、やはり俺はいけない…」
こんな所で心残りができたのか?
優柔不断な男だぜ、メイ。
こんなことなら自分の身をボロボロにするなよ。
馬鹿じゃねぇの?
と自分に言い聞かせるのだが、
先程から聞こえる声…
アライさん達の、悲痛な叫びが。
俺を…引き止めるんだ。
「…なんだか、呼ばれているような気がします…僕は、このまま行ってもいいんでしょうか…」
「…それが君の選んだ選択肢、きっとそこが、新たな君の世界。」
「なんですか、それは…フフッ。」
彼女との別れの時間が来た。
僅かな時間とは言え、
少し親しくなった人でさえも、
別れというのは少し寂しくなるものだ。
「ありがとうございました、メイさん。
なんだか、不思議な気持ちです。
でもきっと──」
『また会えるような気がします。』
その言葉を残し、彼女は
扉の向こう側へと消えていったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます