第56話 魂の在処

「…何回こんな展開になるのやら。」


何も無い空間にただ一人、という

展開が何度もあったせいなのか、

驚きもしない。

こんな状況、前までなら

どうしたら戻れるか?などと

考えていたものなのだが、

もう戻る気もない。自分が嫌になっていた。


何故"メイ"という存在がこの世に誕生して

しまったのか、俺には不可解で仕方が無い。

思えば、卒業してから濃い人生を

歩んできたものだ。

ギネス狙えるんじゃないかな。


誰かの後ろ姿が、見えたような気がした。

珍しいな、今までなら声とかだけだったのに、今度は姿まで見えてるよ。

きっと幻覚だよ、そうに違いない。

自分に言い聞かせても、その後ろ姿は、

どこか懐かしいような感じがして…

思わず追いかけてしまった。


その背中が、段々迫ってくる。

その人はどこへ行くのだろう。


「ね、ねぇ!君!」

「う、うわぁぁぁぁあ!?」

「君と俺、どこかで、会ったことが…?」


その人は、少し幼い少女だった。





「メイ…メイッ!目を覚ますのだ…!

アライさんが悪かったのだぁ…うぇっ、

ヒッグ……」

「メイちゃん…なんで、どうして…」


意識もなく横たわるメイ。

状況は一刻を争う事態となった。

何処からか取り出したかも分からない

ナイフで、メイの全身はボロボロであった。

このままでは、やがて彼の命は…


「…私達にも、きっとなにか出来ることがあるはずです!最善を尽くしましょう!」

「しかし奇妙なナイフだな…

切れ味が鋭いし、更にこんなにも頑丈なのに軽くて振りやすい…

どこから、このナイフを持ってきたのか、

研究する必要がありそうだ…」


「カコさん!今はそれどころじゃないですよ!」


「わわわ!我々はとりあえずなんでも

持ってくるのです!包帯!薬を

持ってくるのです〜!」

「急ぐのです博士!手遅れにならない前に!」


「メイ…どうしてお前はいつも勝手に…!

勝手に自殺しようとしてんじゃねぇよ!

少しは、私に相談ぐらいしてくれたって

いいじゃないか…」


荒れる現場、目を閉じ微動だにしない

彼の横顔に、ただ涙を流すしか出来なかった。





「ごめんなさい、僕は何も覚えていないんです。なんでここにいるのかも…」


自分の名前もわからない彼女は、

ここがどこか、どこへ向かうのかも

分からないようだった。

さて、どうしたものか…


「とりあえず、俺はメイ。

訳あってここにいるんだが…

あ〜…どう説明しようか…」


『メイ!どうしてお前はいつも勝手に…!』


何処からか声がする。

あれはヒグマの声だろう。

きっと亡骸を見て泣いてる頃だろうか?

ごめんね、悲しませて…


「…メイさんを呼ぶ声がしますが…

これは、どこから…」

「…説明するよ。俺は多分だけど、死んでる。

多分君も、どこかで死んだのかもしれない…暗い話になってごめんね。」

「え、えぇ!?僕、死んで!?」


慌てふためく彼女を落ち着けたいところだが、生憎アイデアを持ち合わせていない。

ふむ、どうしたものか…


魂だけの存在…か。


「あ、あそこを見てください!光が…!」

「光…?こんな所に光なんてあるのかな。

…あ、本当だ。」

「向かってみましょう!」





ガランっ!

「ハァ…ハァ…みんな、どうしてここに

いるのさ…?」

「どうしてもこうしてもないのだぁ…

メイが、メイが…」


突然のアライさん泣き顔に、

フェネックも困惑を隠し切れない。

アライさんが言うには、メイさんが

どうとかこうとか…

しかし、その困惑の表情は、

彼の姿を見た時、一瞬で悲しみへと変わる。


「え…嘘、なんで…私の…せ、せい…かな?いや、嘘だよね…ねぇ、嘘って言ってよ…

メイさん…」


フェネックはその場に崩れ落ちる。

やはりそうなんだ。

私がいるから、皆不幸になったんだ。

私のせい…

私のせいで、メイさんは…





「ここ…かな?」


そこには一つの扉があった。

扉からは微かな光が漏れ出しているが、

向こう側には何があるかもわからない。

扉で俺は思い出す。


"輪廻転生"

一度死んだ魂は、また別のものとなって、

記憶も何もかもを失って生まれ変わる。


ひょっとしたら、この扉は…


「開けてみよう。」

「え、大丈夫…なんですか?

危険かもしれません…」

「案ずるより産むが易し!ってね!」

「…?どういう意味ですか…?」


ドアノブを掴む。

この扉の向こう側には、どんな世界があるのだろうか。

ガチャリ、とドアノブを回す。

扉を引き、光が解放される────











「わぁ…!」


彼女は驚き、そして喜んでいた様子だった。

現実では見ることの出来ない、

雄大な自然の景色。

扉の向こう側は、こんなにも綺麗で…

俺も行きたい、のだが…


「…ダメだ、やはり俺はいけない…」


こんな所で心残りができたのか?

優柔不断な男だぜ、メイ。

こんなことなら自分の身をボロボロにするなよ。

馬鹿じゃねぇの?

と自分に言い聞かせるのだが、

先程から聞こえる声…

アライさん達の、悲痛な叫びが。

俺を…引き止めるんだ。


「…なんだか、呼ばれているような気がします…僕は、このまま行ってもいいんでしょうか…」

「…それが君の選んだ選択肢、きっとそこが、新たな君の世界。」

「なんですか、それは…フフッ。」


彼女との別れの時間が来た。

僅かな時間とは言え、

少し親しくなった人でさえも、

別れというのは少し寂しくなるものだ。


「ありがとうございました、メイさん。

なんだか、不思議な気持ちです。

でもきっと──」





『また会えるような気がします。』


その言葉を残し、彼女は

扉の向こう側へと消えていったのであった。

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