第55話 精神

「……う、いててて……」


気が付くと私は病院の中にいた。

あれから更に1発、2発と食らって生きているのは、自分でも思うのだが異常だ。

本当に、よく生きてたよな…


「あら、起きましたか?」

「ん、お前は…」

「忘れてしまいましたか?私ですよ。ミライです。」

「いや、覚えているぞ。それよりも、だ…」

「メイさんとフェネックさんがどうなったか、ですね?」

「勘が鋭いな…」

「仲間思い、なんですね?

自分がそんなに怪我しているのに、

他のフレンズを気にかけるなんて…」


仲間思い…?

私はそうだったのだろうか。


「フェネックさんは、愛護団体に保護を

受けました。警察も、どうやら偶然その組織に突入しかけていた時でしたので、迅速に救出ができたのです。

問題はメイさんの方なのですが…」

「…メイが、どうかしたのか?」


ミライはゆっくり息を吸い、言葉を放つ。


「…精神状態が、不安定なようで…

きっとこれまで、色んなことがあって…

今回の件、ヒグマさんが目の前で撃たれて…

それでもう、心はボロボロ…

今は別室にて療養を受けていますが…

なんとも言えず…」

「メイが…」


衝撃の事実であった。

私が撃たれたばっかりに、メイが…

あいつ、今はどうして…


「すぐに向かう…!いててててて…」

「あ!無理しないでください!

ゆっくり休んでください。

無茶すると、怪我を酷くしますよ…」

「…そうさせてもらう。」





「メイ…」

「なんだよ…もう放っておいてくれよ…

どうせ何もできねぇよ…

俺はどうせ…どうせ…」


「…いい加減にするのだ。

メイが大変なのはよく分かるのだ。

それでも…暗い事ばっかり言ってちゃ、

何も楽しくないのだ…」

「わかってる…ううぅゔゥ…

俺は…こんなことが言いたいんじゃ…

ふふふ…あはは…」


「…メイ…うぅ…ヒッグ…」


異様な彼の姿、異常な発言に、アライさんは

涙を流す。

親友の死、裏切り、誘拐、そして、

今まで経験したことがなかった、

目の前でフレンズが撃たれる事…

自分が撃たれるなら、まだ彼は正気を

保っていたのだろうか?


「嫌だ…嫌だ…!みんな不幸になるなんて嫌だ…!!来るな…来るな!」

「…また後でくるのだ……メイ…」


アライさんはその場から去り、

扉が閉まる音を境に、静寂だけが

その場を包み込んだ。


窓から見える空だけを見つめる。

雲は流れ、鳥は羽ばたく。

人間の頃だったら、ここから飛び降りれば

こんな感情、抱くことなく楽になれたのに。

嫌だなぁ…死にたいなぁ…


チャリン

そんな音をあげ、"物体"が落下した。

これは…ナイフ、だろうか。

何故ここにナイフがあるんだろう…

チャッ

とまずは自分の腕で試し斬りする。

爪よりは切れ味が良さそうだな…

丁度いいや、これで死のっかな。


もうどうでもいいや…

バイバイ、みんな。





フレンズ保護団体に保護され、事情を聞かれ

何時間たったのだろうか。

もうくたびれた…

やっと終わったという時、私は聞いたのだ。


「メイさんやヒグマさんはどうなったんですか…?」

「彼らなら病院で治療を受けているが…

…特に酷いのは、メイさん、かなぁ…」


やはり、私のせいであった。

私が、攫われたばっかりにこうなってしまったのだ。

何故私を助けに来たの?

自分のこと、ちゃんと守りなよって。

二人に言ってやりたくて、

私は病院への道を駆け出したのだ。


私は病院へ付き、まずはヒグマさんの様子から見ようと思い、病室の扉を開ける。

しかし、そこにはヒグマさんの姿はない。

なんで…?

それに、看護師が一緒にいたと言っていた

ミライさんもいなくなっている。

別室にももちろんいない。

何か重大な事が起きている。

私はそう察知したのだ。





「ヒグマさんとメイさん、大丈夫ですかね…ズズズズズゾゾゾゾゾー」

「いやいや…こんなに大変な事が起こっているというのに、ミライは呑気すぎるぞ…」


コーヒーを片手に、何故か合唱コンクールの

映像を見るミライ。

それに呆れるのは、彼女の友人…

カコ博士、である。


「こういう時こそ、リラックスなのですよ!

全く、カコさんはそういうことも知らないんですか〜?」

「おかしいだろ…だいたいミライは」


バタンッ!

扉が勢いよく開き、息を切らしたアライさんが現れる。

よっぽど急いでいたのだろうか。

それにしても、何をそんなに急いで…


「ミライさん!カコさん!大変なのだ…

メイが…、メイが…!」

「メイさんが…どうかしたんですか!?」

「とにかく早く来るのだ!」

「わ、分かりました!行きましょう、

カコさん!」

「あ、あぁ…」


あまりにも突然の事で動揺するも、

ミライ達一行はメイのいる病室へと向かった。

テレビの音だけが、その場に残った。


『次は、〇〇高校、3年A組による合唱、

「言葉にすれば」です──』

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