第54話 主人公

「だ…………大丈…夫…か!?ヒグマ……

今治療するからな!」

「治してる場合じゃ……ガハッ、無いだろ…敵が後ろ…に、いるだろ…?」


目の前で起こっていること。

それはれっきとした現実である。

ヒグマが撃たれ、戦えるのは俺だけ…

後ろには無数の敵。


なんだ、やっぱりそうだ。

俺はただあの時みたいに、英雄ヒーローを気取りたかっただけなんだ。

馬鹿みてぇだよな。

目の前にいるフレンズも救えないで…

何が英雄ヒーローだ。


「おやおや…鼠が忍び込んだと思えば、

新しい資金かな?」

「誰だテメェ!俺達は金なんかじゃねぇ…

俺達フレンズは、人間と共存できる

生き物だ!

何故お前らはこんなことが出来る!!」


「名乗り遅れたね。名前は言えないが…

私がここのボスだ。

君は随分都合の良い事を言うんだね?」

「何が…都合の良い事だ!」


「君が人間だった頃…

動物を飼ったことは無いかね?

人間は、金と動物を交換する。

そして買った動物は人間に世話される。

ほら、同じじゃないか?

君達のような動物けものを、私が

金と交換するだけだ。

君達は、人でも獣でもない、中途半端な存在さ。

人身売買でもないから、法律にも引っかからないだろう。

なぜなら君たちは人ではない。

よって人権は認められないからだ…」


人は平気でこんな事が出来る。

他人を傷付け、殺し合い、憎しみ合い…

同種族でも争いが絶えない、愚かな生き物…

こんな奴がのうのうと生き延びて、

良いやつが真っ先に死んでいく世の中だ…

こんなの、こんなの間違っている…!

生命を冒涜しやがって…!!


「……任せろ…メイ……」

「ヒグマ…?」

「こんな……ケホッ、人外に生きる価値は…

無い…!私が……仕留める。私が……」

「無理するんじゃねぇ!そんな体で

何が出来るって言うんだよ!

待ってろ、今すぐ逃げてその傷治してやる

からな!」

「…逃げる……?バカな事をいう…な…

ヒグマは……最強の…獣……

執着心……も……強くてな…?

特に…ハァハァ、自分の餌に対しては…な!

1発撃たれたぐらいで…なんだ!

私は…決して諦めることはない。」


ヒグマは立ち上がり、その熊手を構える。

野生を解き放つ…

目に光が宿り、ヒグマの表情が

より一層険しい物となる。


「──行くぞっ!!」


その時俺は気付いた。

俺はやはり、英雄ヒーローでは無かった。

そして、こんな特殊なフレンズだからと言って、物語の主人公ではなかったのだ。

真の主人公、そして英雄ヒーローは、今目の前にいる、彼女…


「撃てっ!撃てぇっ!」

「こいつ、化け物かよ!マジでキチガイなんじゃねぇのか!?」

「動物の分際で生意気な野郎がぁぁぁ!!」


多数の銃弾が、ヒグマに襲いかかる。

しかし、ヒグマのその素早い身のこなしで

それは軽々と避けられる。


「お逃げ下さい!ボス!ここは私達が

なんとかしますから!」

「あ、あぁ…!クソッ、まさかこいつが

こんなにも強いとはな…」

「逃がすな!メイ!今すぐ追いかけろ!」

「……あぁ…!」


全力で階段を駆け上がる、ボスと呼ばれた男を追いかけていった。





街の風景が臨む屋上に、人影が一つ。


「はぁ…はぁ…ふぅ、ここまで来ればもう大丈夫だろ。あとはヘリで逃げるだけ…」

「そうはさせないぞ?」

「なっ…!執念深い奴らめ!こっちへ来るんじゃねぇ!撃つぞ!」


彼は銃を構え、威嚇する。

しかし、もう一方──メイは、全く

動じないようだった。

1歩ずつ、静かに歩み寄っていく…


「く、来るなぁ!バァン!」


銃が発せられる。

1発、2発と。

焦っていたのだろうか?

2発程度は命中したものの、ほかは全て

外してしまった。


「く、クソっ!ヘリは…ヘリはまだ来ないのか!」


メイは静かにその男の胸ぐらを掴む。

そのまま、柵の方へと歩いていく。


「グァ……な…にをする!…貴様!」

「何をするかって?……決まってるだろ。」

「お、おい!やめろ!やめてくれぇ!」

「あーあ、テメェも動物だったら良かったな?」

「…?どういうことだ!貴様!」

「テメェが動物じゃなくて…生ゴミだったからこうやって捨てられるんだよ…!」


──断末魔が鳴り響いた。





その後、アライさんが心配して呼んだらしい

警察とフレンズ愛護団体が組織に突入。

しかし、部下とそのトップは全員殺されていたという。

囚われていたフレンズは全て救出された…


「メイはまた無理をして…!

アライさん、とても心配なのだ…」

「…だ」

「…メイ?」

「ダメだ、ダメだ、ダメだ…

やっぱ俺じゃダメだ…

臆病者だ…馬鹿野郎だ…

あははは…ははは…

ダメダメダメダメ…ふふふ…」

「メ…メイ?ど、どうしたのだ…?

なんだかいつもと違うのだ…?」

「そばにいたヒグマも守れないで…

逆に守られて…

俺がいると迷惑だよな…ははははは…

丁度いいや、この怪我悪化させれば

死ねるかな…?

いや、腹に突き刺して死ぬか…?ふふふ…」


メイは爪を振り上げ、その身を──


「ミライさん!!メイが大変なのだ!」

「…メイさんが!?…メイさん!馬鹿なことはやめてください!」


その場にいた人たちによって、

メイはなんとか落ち着いたようだった…?

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