第53話 潜入
時は真昼時。
表社会からすれば、どこにあるかも
分からないような場所。
いや、表も裏も関係なく、
その場所は滅多に暴かれることはない。
暴かれたとしても、突入する頃には
姿を消すというその組織。
その場所──アジトに忍び込む影が二つ。
「潜入成功…だな。」
「極力戦闘は避けるように…もし遭遇する
ような事があれば、気絶させろ。
命の危険を感じたならすぐに逃げろ。
逃げれないなら…その時は仕方が無い。」
「あぁ…言われなくても、だ。」
そのアジトは経年劣化が酷く、
触るだけで崩れ落ちそうな部分がチラホラ。
部屋はかなりの数に分けられており、
普通に探すのは時間がかかる…
「フェネックの匂いはこっちだ…ただ、まだ残っているヤツらがいるかもしれない。
注意深く行けよ?」
「…問題は無い。足音は聞こえないぞ。」
慎重に、慎重に足を運ぶ。
静寂の中に、二匹の息遣いの音だけが響く。
心臓の鼓動が早くなっていく…
ガシャン!
「ッ!サッ」
「落ち着け…皿が落ちた音だ。」
「なんだ…驚かせるなぁ。」
「油断するな、メイ。」
このままだと心が持たないぞ…
一刻も早く、救いたいのに…
もどかしい。
少し歩いていると、武器庫のようなものを
発見した。
中には小型から大型までのあらゆる銃が
置かれていた。
「ありゃあ…映画で見たような光景だな。」
「見とれてる場合じゃないだろう?早く
行くぞ。」
しかし凄いな、これ。
隅から隅まで、全ての銃が空きなく置かれているぞ…
裏社会というのは怖いものだ…
ガタンッ
「誰だ!」
「クソッ、見つかったぞ!」
「早く急げ!こっちだ!」
黒ずくめの男達が何人も追いかけてくる。
その手には銃が握りしめられている。
クソ、何故こんなにいるんだ!
「罠にハマったな!」
「…ッ!嘘だろ、おい…」
「これはまずいんじゃないのか…?」
クソ、このまま死にたくはないぞ…!
仲間を救おうとして死ぬなんて、
そんな一生の笑いものにはなりたくないね!
「床を破るぞ!」
「了解した、破ってくれ!」
「オラァ!バキッ」
床に穴が開き、俺達は下へと落ちていった。
「クソッ!逃げられたか!あいつらなにが
目的なんだ!」
「ボスが来ると言ったから待ち構えていたのに…逃げられちゃ意味ねぇぞ!」
「さ、探せぇ!ボスに殺されるぞー!」
男達は散り散りになり、
メイ達を探し始めた…
◆
「…追ってくる気配はないな。」
「ふぅ…安心した…」
「油断はするなと言っただろう。」
「ごめん…」
ここが廃れていて本当に助かった。
もしここが頑丈だったら…
俺達は蜂の巣にされていたのだろうか。
「フェネックの臭いがより一層強くなっているぞ。こっちだ。」
「あぁ。」
二匹はまた、見つからないように静かに
足を運び始めた…
◆
「ここは…?」
「…どうやら地下牢のようだな。」
地下牢の中には、様々なフレンズ達が
捕えられ、収容されている。
助けを求める者もいるが、ここで求めても
意味は無いと悟ったのだろうか。
眠ってしまっている…
「酷すぎる…!こんなことが平気で出来るなんて…あいつら、人間なのかよ!?」
「…先にフェネックを救うぞ。その後、このフレンズたちも救う。」
「…」
◆
ピクッ
「…メイさん?」
確かに聞こえた。
メイさんの特徴的な歩き方、歩いた時の音。
メイさんが、この施設に立ち入っているのだ。
いや…ダメだ。
私は自分自身を"おかしな奴"だと思っている。
そんな"おかしな奴"を売って、金を手に入れるのがこの組織の目的なんだろう。
"おかしな奴"が傍にいたら…
きっと、みんなに迷惑をかけてしまう…
ダメだよ、来ないで…
◆
「この扉の向こうだ。」
「無事でいてくれ…頼む、フェネック…!」
扉を開ける──
単色の部屋に、鉄格子の無機質な部屋に。
その少女…フェネックはいた…
「メイさん…ヒグマさん…なんで…?」
「なんで、じゃないでしょ?俺達は
「こんな所はさっさと抜け出すぞ。
見つからないうちにな。」
「で、でも!私がいたら…みんなに迷惑かけちゃうよ…」
「それなら問題無いよ。」
そう言いながら、俺は何枚かの写真を取り出す。
地下牢の写真…建物の外見…場所…
これを、フレンズ愛護団体に届けるのだ。
きっと、その組織はすぐに告発されるだろう。
組織は壊滅に向かい…フレンズは皆救われるんだ…
「…でも…」
「悩みなら後で聞くよ、今はここを出るべきだ。」
「そうだな…帰りも気付かれないように──ッ!メイ!バッ」
ドンッ
「え?」
バァン!
いつの間にいたのだろう…
黒ずくめの男が、銃を発射した。
ヒグマはメイを庇い…
その腹に、風穴を開けた。
「ヒ………グ…マ……?」
「……カハッ……フフ……メイが無事で……
良かったよ………」
絶望が──降臨した。
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