第52話 作戦…?

「はぁ…無事でよかったよ…」

「ふふ、私なら大丈夫だ。何故なら日本一の獣、サイキョーの獣だぞ?」

「とか言ってさ…本当は痛むんじゃないの?無理しないでよ…」


なんとか出血は収まったようだ。

良かった…本当に良かった…

いや…本来はこんなにのんびり

してはいられないのだが。

そもそもフェネックがどこへ連れ去られたのか…分からずにいた。


「フェネックぅ…ションボリ」


何よりも心配なのはフェネック自身だ。

銃を扱うような奴らに連れ去られたのだ。

一刻も早く救わなければ危険だ。

それに…アライさんもこんなに心配して…


「クソッ!一体どこに…」

「私に任せろ。なにせ私の嗅覚は犬の何倍もあると言われているのだぞ。」

「すいませんね、嗅覚鈍くて…」


ヒグマの嗅覚が良いおかげで、今すぐにでも

助けに行けそうだ。

一刻も早く助けに行かなければ!





時は遡り──


私は黒い車に乗せられ、男達に監視をされる。

ここがどこかも分からないし、

やけに頑丈な鎖のおかげで抵抗もできない。

もし抵抗したとしても、即射殺は

免れないであろう。


「ははっ!ボスもよく考えるよな!フレンズを売って金にするとはな!」

「しかもこいつ、動物の頃には高額で

取引されていたんだってよ!

これは期待ですわ!」


…そういえば聞いたことがある。

フレンズを誘拐し、他人や他組織に

売りつける、裏社会で活躍している組織があると。

…私、どーなっちゃうのかな。

このまんま何処かに飛ばされて…

アライさんやメイさん、みんなに会えなく

なっちゃうのかな…

…いっそこれから酷い目にあうんだったら…





「今すぐ突撃だ!手下なんて放ってまずはフェネックを」

「待て、メイ。」


すぐにでも助けに行きたいメイを、ヒグマが

止める。

早く行かなければいけないのに、どうして!

クソッ、こんなことしてる間にも

フェネックが…


「お前は自身の力に少し溺れてるんじゃ

ないのか?」

「そんな事は無い!俺はただフェネックを

救いたいだけで──」

「そうか?私には、"自ら戦いを挑んで敵を切り裂くだけ"の戦闘狂バーサーカーにしか見えないぞ?きっとお前に心当たりがあるはずだ。」

「それは…」


そうか、俺はただ戦いたいだけだった…

思えば、人であった頃だって喧嘩を買ってしまっていた。

ただ自分の力に慢心していただけの愚か者

であった。

その後の展開がどうなろうと関係なく。


「いいか、メイ。考えて動くんだ。奴らは銃を持ったような敵ばかり。正面突破で行こうとすれば、たちまち蜂の巣だ。そこでだ。奴らが1番いない時間帯を狙え。」

「そんな事言ったって…分かるのかよ?」

「私達が襲撃されたのは昼間だ。

夜はアジトの警備をし、昼はフレンズを

さらってる可能性がある。」

「つまり昼に行けということだな!

…今は夜か。」


今すぐ助けに行けないことがもどかしいが、

死んでしまっては元も子もない。


「メイ…ま、また危険なことするつもりなのか?」


気が付くと、アライさんが不安げな表情を

浮かべ、傍に寄っていた。

彼女には不安な気持ちを抱いて欲しく

ないのだが…

いや、これもフェネックを救うためなのだ。


「アライさん、俺はフェネックを救いに行く。明日の昼だ。大丈夫、必ず戻る。」

「アライさんもつれていくのだ!

あの時からアライさんは格段に強く

なったのだ!自慢のアライさんパンチで

敵をバッサバッサと薙ぎ倒して、

それからフェネックを──」

「ダメだ。」

「え…?」


俺は彼女を危険な目に合わせたくない。

もちろん、自己防衛はさせるべきだ。

しかし、自ら危険に身を投じるような事を、

彼女自身が率先してやっては

いけないと思う。


「だ、ダメなのだ!いつもメイはそう言って、無茶なことをするのだ!

今だって、無茶なことをしようとしてる…

もしメイがいなくなったら、アライさんは…アライさんは…」

「アライさん…言ったでしょ?

俺は…必ず戻るって。

フェネックを救って…無事に…ね?

だから安心して。」

「う、うぅ…」


こう宣言したからには、必ず戻ってこなければ。

アライさんのためにも──





私は冷たい牢獄の中、ただ買い手がつくまで

ひたすら待つのみ。

月の明かりだけが、私を照らしてくれる。

今夜は満月…なんて、そんなこと

どうでもいいのだけれど…

このまんま売り飛ばされるなんて、

私嫌だな…


少女は灰色の壁にもたれかかり、

ただその時を待っていた。

その顔は、一言で言うなら"絶望"そのもの。

虚ろな瞳は、美麗な月をただ見つめる

ばかりであった。


彼女の恋は叶うことなく、どこか遠くへ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る