第52話 作戦…?
「はぁ…無事でよかったよ…」
「ふふ、私なら大丈夫だ。何故なら日本一の獣、サイキョーの獣だぞ?」
「とか言ってさ…本当は痛むんじゃないの?無理しないでよ…」
なんとか出血は収まったようだ。
良かった…本当に良かった…
いや…本来はこんなにのんびり
してはいられないのだが。
そもそもフェネックがどこへ連れ去られたのか…分からずにいた。
「フェネックぅ…ションボリ」
何よりも心配なのはフェネック自身だ。
銃を扱うような奴らに連れ去られたのだ。
一刻も早く救わなければ危険だ。
それに…アライさんもこんなに心配して…
「クソッ!一体どこに…」
「私に任せろ。なにせ私の嗅覚は犬の何倍もあると言われているのだぞ。」
「すいませんね、嗅覚鈍くて…」
ヒグマの嗅覚が良いおかげで、今すぐにでも
助けに行けそうだ。
一刻も早く助けに行かなければ!
◆
時は遡り──
私は黒い車に乗せられ、男達に監視をされる。
ここがどこかも分からないし、
やけに頑丈な鎖のおかげで抵抗もできない。
もし抵抗したとしても、即射殺は
免れないであろう。
「ははっ!ボスもよく考えるよな!フレンズを売って金にするとはな!」
「しかもこいつ、動物の頃には高額で
取引されていたんだってよ!
これは期待ですわ!」
…そういえば聞いたことがある。
フレンズを誘拐し、他人や他組織に
売りつける、裏社会で活躍している組織があると。
…私、どーなっちゃうのかな。
このまんま何処かに飛ばされて…
アライさんやメイさん、みんなに会えなく
なっちゃうのかな…
…いっそこれから酷い目にあうんだったら…
◆
「今すぐ突撃だ!手下なんて放ってまずはフェネックを」
「待て、メイ。」
すぐにでも助けに行きたいメイを、ヒグマが
止める。
早く行かなければいけないのに、どうして!
クソッ、こんなことしてる間にも
フェネックが…
「お前は自身の力に少し溺れてるんじゃ
ないのか?」
「そんな事は無い!俺はただフェネックを
救いたいだけで──」
「そうか?私には、"自ら戦いを挑んで敵を切り裂くだけ"の
「それは…」
そうか、俺はただ戦いたいだけだった…
思えば、人であった頃だって喧嘩を買ってしまっていた。
ただ自分の力に慢心していただけの愚か者
であった。
その後の展開がどうなろうと関係なく。
「いいか、メイ。考えて動くんだ。奴らは銃を持ったような敵ばかり。正面突破で行こうとすれば、たちまち蜂の巣だ。そこでだ。奴らが1番いない時間帯を狙え。」
「そんな事言ったって…分かるのかよ?」
「私達が襲撃されたのは昼間だ。
夜はアジトの警備をし、昼はフレンズを
さらってる可能性がある。」
「つまり昼に行けということだな!
…今は夜か。」
今すぐ助けに行けないことがもどかしいが、
死んでしまっては元も子もない。
「メイ…ま、また危険なことするつもりなのか?」
気が付くと、アライさんが不安げな表情を
浮かべ、傍に寄っていた。
彼女には不安な気持ちを抱いて欲しく
ないのだが…
いや、これもフェネックを救うためなのだ。
「アライさん、俺はフェネックを救いに行く。明日の昼だ。大丈夫、必ず戻る。」
「アライさんもつれていくのだ!
あの時からアライさんは格段に強く
なったのだ!自慢のアライさんパンチで
敵をバッサバッサと薙ぎ倒して、
それからフェネックを──」
「ダメだ。」
「え…?」
俺は彼女を危険な目に合わせたくない。
もちろん、自己防衛はさせるべきだ。
しかし、自ら危険に身を投じるような事を、
彼女自身が率先してやっては
いけないと思う。
「だ、ダメなのだ!いつもメイはそう言って、無茶なことをするのだ!
今だって、無茶なことをしようとしてる…
もしメイがいなくなったら、アライさんは…アライさんは…」
「アライさん…言ったでしょ?
俺は…必ず戻るって。
フェネックを救って…無事に…ね?
だから安心して。」
「う、うぅ…」
こう宣言したからには、必ず戻ってこなければ。
アライさんのためにも──
◆
私は冷たい牢獄の中、ただ買い手がつくまで
ひたすら待つのみ。
月の明かりだけが、私を照らしてくれる。
今夜は満月…なんて、そんなこと
どうでもいいのだけれど…
このまんま売り飛ばされるなんて、
私嫌だな…
少女は灰色の壁にもたれかかり、
ただその時を待っていた。
その顔は、一言で言うなら"絶望"そのもの。
虚ろな瞳は、美麗な月をただ見つめる
ばかりであった。
彼女の恋は叶うことなく、どこか遠くへ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます