第50話 君へ伝えたい言葉

晴れ渡った青空。

輝かしい太陽。

黄金に光り輝く砂浜。

その地に、ついに足を踏み入れる…


「海だぁぁぁぁあ!」


いやぁ、海なんて実は行ったことなかったから、一度は行ってみたかったなぁ。

海パン1丁、さぁ泳ぐぞ!

…と行きたいところなのだが、今は一緒に来たアライさんの着替えを待っている。


「お待たせなのだ~!」

「あぁ、アライさん、水着に着替えた──」

「この水着、ど、どう…なのだ?」


普段は明るくて、服もちゃんと着てるから気付かなかったけど…

体付きめっちゃいいじゃないですか…

ダメダメダメダメ!

そうだ、やましいことを考えるのではない!

よし、とりあえず海に誘おう。


「うん!とても似合ってるよ!その…可愛い!とりあえず、海で泳ごっか!」

「アライさん、泳いだことないから教えてほしいのだ…」

「あれ、泳いだことないんだ…てっきり洗うついでに泳いでるのかなぁと。」


それにしても…チラッ

胸に視線が…

ダメダメダメダメ!

自分の中の悪魔よ!収まってください!

お願いします!何でもしますから!


「さっきから首振ってどうしたのだ…?」

「な、なんでもないよ!さ、行こ?」





「まずはこの水に浸かってみようか。」

「…ウズウズ」

「ん?どうしたの?」

「洗いたいのだ…なんでもいいから…洗いたいのだぁ…」

「あぁ…」


これはまずいですよ!

せっかく海に来たのに洗って帰ったとか洒落にならないよこれ!

まずい、止めなければ…


「アライさん、後でじっくり洗おう、だから今は泳ぐ練習しよう、ね?」

「わ、わかったのだ…ウズウズ」


とりあえず浮き輪を持たせ、いざ突入!


「あぁ~…夏にこれは最高だよよよ…アライさん、大丈夫?」

「ブクブクブク」

「アライさぁぁぁぁぁぁぁん!?」


なんということでしょう。

まさか浮き輪が大きすぎて浮き輪が役に立たないとは思いもしなかった。

急いでアライさんの体を持ち上げる。


「プハァッ…ハァ、ハァ…ひ、酷い目にあったのだ…」

「ごめんね、今度こそ練習しよっか。」

「せっかく海に来たから、練習より楽しみたいのだ…ボソッ」

「ん?どうしたの?」

「なんでもないのだ…うん、早く練習するのだ!」

「あ、あぁ、大丈夫?じゃあとりあえず支えてあげるから、俺の言う通りにやってみて?」

「お安い御用なのだ!」





そして辺りはすっかり夕暮れ模様になってしまった。

結局アライさんは泳ぐことが出来ずにいた。


「うぅ…泳げなかったのだぁ…」

「大丈夫だって、フレンズによって得意なことは違うんだしさ。」


海水浴に来ていた人、あるいは観光客はもうとっくのとうにいなくなっていた。

つまりは2人きり…である。


「アライさん。話があるんだけど…」

「え、えぇ!?」

(もしかして…もしかして!?まままま、まさかそんなはずはないのだ!)

「俺は…最初アライさんと出会った時、"元気な子だな"とか、"何やってんだろ"とかしか思ってなかったんだ…でもね、いつからだろ…その…」

「う…うん…」


緊張する…

いいか、覚悟を決めろ。

さぁ、息を吸い込め…


「ずっと好きだった!!付き合ってください!!!そして、これからずっと俺と一緒にいてください!!!!」














──「もちろん、なのだ!これからもずっと一緒、なのだ!」


アライさんは快く承諾してくれた。

愛の告白…をする日が来るとは思わなかった。

良かった…本当に良かった…


「…!!ありがとう…本当に!俺はアライさんが大好──」

「………んぅ……ハァ………」


突然、視界がアライさんの顔で埋まった。

思考が停止する。世界の時が止まる。

何事だ?

しばらくして、俺は気づいた。

俺の唇が──目の前の彼女、アライさんに奪われていることに。


「プハァ………ハァ、ハァ……ふふ、びっくりしたか?」

「ん………アライさんったら、もう…」


やっぱり、細かいことを言うのは苦手だな。

アライさんが好きだ。愛している。

言葉などいらない。


そのまま、少し時間が経った頃だ。


「…あ、そろそろ電車の時間だよ。行こ?」

「う、うん…!行くのだ!」


そして、駅まで駆けていった。

楽しいな…嬉しいな…

こんな奇跡って本当にあるのかな。

夢じゃないよね。

頬をつねったが、痛いので現実だろう。





「あのさ、ヒグマさぁん…」

「ん、フェネックじゃないか。どうしたんだ?お前が1人で私に話しかけるなんて珍しいじゃないか。」

「いやぁ、聞きたいことがあってねぇ。」

「あぁ、なんでも聞いてくれ。」


平日の午前。

もう昼に近いだろう時刻に、公園にはフレンズが2匹。

セミの声はするが、行き交う人達はいない。

フェネックは静かに息を吸い…











「──誰かを大好きになったことって、あるかな…」


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