第49話 あのね

店の後片付けはとても手間のかかるものとなった。

無論、アルバイトと俺、店長達じゃあ終わる気配もなかったのだが、アライさん達御一行が「しょうがないから手伝ってやるのだ!」と、後片付けを手伝ってくれた。

激痛がまだ残っているが、やらなければ終わらない…!


「ねぇ、メイ。」

「ん?どうしたの?アライさん。」

「たまには…もっともっと遠くに行ってみたいのだ。」

「そっか…じゃあ海とか行く?ほら、丁度切り離されたところだし、ちょっと遠めだけど、じゃあとりあえずほかのフレンズも」

「二人で。」

「…え?」


突然、アライさんが二人で海に行きたいというものだから、思わず戸惑ってしまった。

前なら、「それならフェネックも誘っていくのだ!」とか、「サーバルを誘ったら、とても面白いことになりそうなのだ!」とか言って、そう、自分から提案してくるはずなのだが。


「ダメ…なのか?」

「い、いやいやいや!もちろん良いよ!よし!いつにしようか、来週?再来週!?」

「明日じゃ…ダメ、なのだ?」


…嘘やろ。

ダメだ、顔が赤くなってしまう…

こんな、突然、まだ心の準備もできてないのに、二人で、海に…

ええい!落ち着け!落ち着くのだ、メイよ!

学校で散々みたじゃないか、女子の水着姿を!

ふふ…よし、完璧だ、これで明日は海に行けるぞ!


『おいおい…メイ、女子に向かってなんて目をしてるんだよ…いくら水泳の授業だからってそんなマジマジと』


駄目でしたぁぁぁぁぁあ!

どうやら俺には水着姿のアライさんを直視することは不可能だったようです…

やっぱり俺には無理です!許してください!何でもしますから!


「そっか…やっぱり、他のフレンズも、連れていった方がいいのだ?」


こんなことを言わせてしまうとは…情けないぞ、メイ!

覚悟を決めろ、漢メイ!


「大丈夫だよ!わかった、明日海に行こう。ちょっと遠いから早めに起きよっか!それで、その…あの…」

「……水着、買いに行くのだ?」

「はい……」

「…」

「…」





あっという間に夜が来てしまった。

あと何時間寝ればもう旅行だ。

思えば、俺がアライさんを…その…

…"好き"?として見てからは、二人でどこかへ行ったりなんて、そんなことはなかった。

いつだって誰か他の人、またはフレンズが、傍にいた。

これは……えーと…初めての…デ…

あぁぁぁぁぁぁ!

眠れねぇよこんなん!

ちょっと一回練習がてら塩水で顔洗ってこようかな。


「あのね、メイ。」

「うわ!?起きてたの?」

「アライさんは…何かおかしくなっちゃったみたいなのだ。」

「え…そんなことないよ!アライさんはいつも通りの、元気で明るい可愛いアライさんだよ! それでいて失敗もたまにしちゃうけど、だけど最後には…いい結果に導いてくれるじゃないか!」


そうだ、なにもおかしくはないはず。

もしかして、なにか病気に…?

大変だ、海とか言ってる場合じゃ


ギュッ

「アライさんは…メイの事がとっっっっっっても好きなのだ!いっぱい、いっぱい好きなんだぞ!さっきからメイの事ばっかり考えてばっかりで…アライさんはもっとおかしくなっちゃいそうで…とても怖いのだ。」


急に抱き締められ、そう言われる。

え…ちょっと…

突然そう言われると、なんだか照れるなぁ…

恥ずかしいや…


「アライさんは、その…メイのこと…別に友達として好きと思ってるわけじゃないのだ。だから、その…ツ!」


ツ?


「ツガ!!」


ツガ!?


「ツガi」

「ちょっとうるさいよ二人共…こっちの身にもなってよ!中学生の朝は早いんだからさ。」

「「はい…」」


レン君…後で体育館裏に来なさい。

しかし…本当、最悪なタイミングだ。

でも…そんな、ツガイだなんて…

いや、違うかもしれない。

もしかしたら、津軽海峡に行きたかったのかもしれない。

それでも、アライさんが俺を好きって気持ちが知れてよかった。

そうだ、告白は俺からだ。今度は俺が、アライさんへ気持ちを伝える番だ…

…まぁ、今やったら間違いなくまたレン君が入ってくるだろうが。


「えぇと…ごめんなのだ、メイ。アライさんはもう寝るのだ…フワァ~」

「お休み、アライさん…明日が楽しみだね!」

「うん…!アライさんはな、泳いで他の国にもいってみたいのだ!」

「ハハハ…泳いでじゃ無理だよー。」

「それならイカダを作って出発するのだ!どんな波にも負けないイカダを作るのだー!」

「はぁ…会話はいいんだけどさ、程々にして寝なよ?二人とも…」





バタン

「はぁ…」


仲が良いカップルだな、あいつら。

リア充…なりてぇなぁ!

クソぅ…やっぱ恵まれないなぁ…

いやまだまだ!

まだ中学生だ!

これからいくらだって出会いはあるんだ!

そう!明るく行こうじゃないか!

ポジティブポジティブ!


「…チラッ」


…うん、寝たな。

これ以上お熱いセリフを言われると、こっちが恥ずかしくなっちゃうよ…

さて、寝るか…


「…チラッ」


おいおい、何やってんだよ、僕。

寝てるじゃないか。起こしたら悪いぞ。

よし、寝よう!


「…チラッ」


あぁぁぁぁあ!

これは気になる!

実は寝た振りじゃないだろうな!?

うぅ…今日は寝れない…

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