第48話 分離

『本日、大分が切り離されます。県民の皆様は充分に注意し、地震等が発生した場合には、速やかに避難してください。』

「ついに来たか…」

「ど、どうなっちゃうのだ!?」

「まぁ1面海になるんだろうな~」

「おいおい、随分と呑気じゃないか?」

「じっくりと待つのです…」

「我々は賢いので。」

「なになにー!もっと見せてよー!」

「まぁ肉まんでも食べなさいよ。」

「長年住んできたこの地もついに切り離しかぁ…」

「とりあえずコーヒー一つ!」

「あのさぁ…とりあえずこの店一つしかテレビ無いんだから群がらないでくれないかな?」


今日一番のニュース、出来事に群がるフレンズたち、そして常連客。

そう、今日は大分切り離しの日だ。

こんな日は一生に一度しか訪れないだろうし、そりゃ当然か。

しかし…どうやって切り離すんだ?


「とりあえずみんな落ち着いて、ほら、席についてください。」

「あー、緊張するのだ…」

『ついに切り離しが始まりました!』

「「「早いな!?」」」


予想以上に早い切り離しの訪れに、更に店内はざわつく。


「やばくね?」

「うぉぉぉぉ、緊張してきたー!」


そんな店内に、また2人入店した。


「よぉ、メイ。元気してたか?」

「あの時はほんとヒヤッとしたぜ…」

「お前ら…集いの時の…誰だっけ。」

「「はぁ!?」」


その2人は、先日行われた集いに参加したメンバーだった。

いやー、まさかこんな形で会うことになるとは…

とりあえず集いに関する質問をさせないようにしなければ。


「で、お前ら誰だっけ?」

「酷いなぁ…ムードメーカーのタナカでーす!」

「クールなツッコミのサトウだ。」

「そこ自分で言っちゃいます?」

「ところで…だ。あの後どうなったんd」

「みなさーん!この2人がコントをやるそうですよー!」

「「え」」


突然のコント宣言に、客の目が一斉にこちらを向く。

中学の頃、この2人はいつもコントをして周囲を笑わせていたのだ。

俺もあれぐらいのムードメーカーになれたら良かったなぁ…


「おい、いきなり何言ってんだよ!」

「それよりあの後」

「それでは登場してもらいましょう!漫才コンビ、"豆腐's"のお二人でーす!」

「なになにー!見たい見たい!」

「よし、やろう。」キリッ

「おいおい、もしかしてあの子がいるからやるんじゃないだろうな?」

「面白そうだな、見てやらんこともない。」

「さぁ…始めようか…」


単純な二人で助かったー!


「「コント "お豆腐"」」

「最近ね~、豆腐にハマってるんですよ~」

「ほう…どんな豆腐が好みなんだ?」

「湯豆腐とかね、それもいいんだけどね~、俺は豆腐に醤油かけてネギまぶして食うね。」

「確かにそれも良いな…今度俺も試してみようか」

「あとそれにマヨネーズとマスタード入れちゃうね、たっぷり。」

「いやマヨラーかい!」


シーーーーーン…

あれ、この二人こんなに受けなかったっけ。

あれほどざわついてた店内が、一瞬にしてしらけと化してしまった。

どうする、どうするんだ豆腐's!

グラグラ…


『たった今分離が開始しました!どうやらサンドスターの物理法則を無視する性質を使った、分離作業だそうです!地域住民の皆様、しばらく地震が起きます!気をつけてください!』

「おい、地震だぞ!」

「やべぇよ!これ震度何ぐらいあるんだよ!」

「10ぐらい…ですかねぇ?」

「まずいですよ!」


一瞬で店内が、パニックに陥った。

豆腐'sの危機は救われたが、今度は店の危機なのだー!?


「さよならmy life…oh…yeah…」

「終わったー!?もう終わってしまったー!!」

「お前ら、まだ終わってねぇからとりあえずそこ降りろ!豆腐'sとしては終わったかもだけどな!」

「お客様!一度冷静になってください!とりあえず近くの机の下に」

「メイー!こここ、これ、どうすればいいのだー!?」

「アライさんも落ち着いて!とりあえず机の下に隠れるぞ!」

「早く隠れないと死ぬゾ。」

「じゃけん地震なんて吹き飛ばしましょうね。」

「地震!いいよ!こいよ!」


なんだこいつら…(困惑)

ガシャン!

机の上にあったもの、厨房のものがどんどん落ちていく。

このままだとこの店本格的にやばいんじゃないの?


「はは…こりゃ直すの大変そうだな。」

「店長!しっかりしてください!」


パリーン!

「! 危ないアライさん!」


ガラスが割れ、危うくアライさんに刺さるところだった多くのガラスの破片が、俺の背中に突き刺さった。


「…ッ!」

「め、メイ!だ、大丈夫か?」

「あぁ、問題は無い、丈夫だ。」


むしろ抜く時が一番痛いよこれ…





しばらくして揺れは収まった。

あれほど物の落ちる音で溢れかえった店は、今や物音が一つもしない。

しかし、辺りには壊れたもの、落ちたものが散らばり、ガラスが散っていた。


「いててて…お客様、もう大丈夫です。足元に気をつけながら、ゆっくり立ち上がってください。」

「おいおい…メイ、大丈夫かよそれ。」

「大丈夫…うん。とりあえずあっちで抜いてくるから。」

「俺達帰るわ…」


ほんと、酷い目にあった…


「メイ…本当に、ごめんなさいなのだ。」

「アライさんは悪くないって…悪いのは、こんなことを想定しながらも、防止しようとしなかった国だ。」

「…」

「とりあえずそれ抜いてくれないかな?ハリネズミみたいだし。」

「あ、すいません、店長さん。」

「メイ様、今お抜きいたします。」

「え、ちょ…ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」


今日一番の絶叫が、大分中に響いた。



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