第45話 鋭さ
今日はとても良い天気だ。
こんな日には、遊びに行くアライさんに付いていくのもいいのだが、冷蔵庫が空っぽなもので、買い物に行かなければならない。
誠に残念だ…だが、夜は美味しい食事を作るからな、アライさん!
ウィーン
さて、スーパーに到着だ。
…気のせいだろうか、周りの視線が冷たいような気がする。
いや、多分冷房が効いてるからだろう。
まずは野菜だな。
「お、ラッキー。」
いつもは売り切れている野菜だが、今日は結構残ってる。
特にこの店は、もやしが安いことで有名なのですぐもやしが無くなる。
今日はいいことあるぞ…これからも。
次は肉だ。
肉…ふふ…
肉と聞くと高揚感が生まれるのは肉食動物の本能なのだろう。尻尾までも振ってしまっている。
「あ、あれは!」
なんということでしょう。
いつもは少しお高めのお肉が…今日は半額!!
安い、安いぞ…
しかしラストワン。
「これはもらったァ!」
買い物かごに入れようとした時だった。
「ちょっとあんた!まぁこんなに尻尾を振っちゃって!その肉はあたしが最初に見つけたの!だからあたしのよ!」
「え、いやそう言われても困るんだけど…」
「全くこれだからフレンズってほんと常識がなくて困るのよねぇ。なーにがフレンズですか!クドクド」
「えぇ…」
周りの主婦や親子連れも、俺を見てヒソヒソ話し始める。
おいおい、嘘だろ?
もしかしてこっちのばあさん信じてる?
「いや困るんだけど…」
「返しなさいよ!バッ!」
「あっ!ちょっと!」
あぁ…肉が…
◆
「ありがとーござーっしたー(棒)」
酷い目に遭った…ハァ…
せっかく安く高級肉を手に入れることが出来ると思ったんだけどな…
悲しいなぁ…
ドンッ
「おう、悪いな兄ちゃん。」
「あ、すいません…」
ふと気づくと、ポケットの中に入れておいた財布がない。
あいつ…スリか!
「おい待て!泥棒!」
「チッ、ばれたか!」
当然人間がフレンズから逃げられるはずもなく、スリはあっけなく捕まる。
しかし、抵抗してなかなか取り返すことが出来ない。
「返せよ!」
「やめろよ!おい!」
バッ!
「よっしゃ、取り返せた!」
「チッ、逃げるか…!」
危ない危ない、二連続で酷い目に遭うところだった。
深呼吸して、辺りを見回してみると…あ?
(うわ~、あのフレンズ力ずくで奪い取ったよ?)
(なにこれ、スリってやつ?)
(えーでもさ、これ警察に通報した方がいいんじゃないの?)
(うわっ、睨まれた!)
(どっちがスリだかこれもう分かんねぇな)
(ま、多少はね?)
おい…おい…なんだよその目。
夏の暑さに負けない冷たい目線。
マジかよ…ここまで反フレンズ運動が進んでいたなんて…
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
冷たい目線に恐怖さえも感じ、その場を走って後にした。
◆
「ただいまぁ…」
はぁ…
やっぱダメだな、俺って。
人殺して反フレンズ進めて、何がしたいんだ俺。
反フレンズよ、どうか進まないでくれ。
お願いだ、お願いだ…
…願うほど虚しくなった。
プルルルルル
机の上の電話が鳴った。
普段滅多に電話はかけてくる人はいない。いるとしたら、バイト先の店長か大家さんだ。
「もしもし。」
『あ、メイさんですか?ミライです。すいません、今度そちらに行くと言ったのですが、行けなくなってしまいまして…尻尾、モフモフしたかったぁ…』
「いや、それは勘弁です、マジで。」
『冗談ですよ。』
冗談じゃないよね?
それ絶対冗談じゃないよね?
『カコさんに分析してもらったところ…惹かれた時に頭を打ったのかもしれませんね、それで段々特定の記憶を忘れていってるのかもしれません。幻聴も多分その影響かと思われます。』
「そうですか…」
『まぁ一ヶ月近くしたら治ります。一度消えた記憶は…戻りませんが…』
「…はい」
『ではまた今度!絶対に訪問しますから!耳と尻尾を洗ってまっててください!』
「いや、だからそれは勘弁」
ツー、ツー
一ヶ月、かぁ…
◆
「大家さん、話ってなんですか?」
「あぁ…実はね、ここを畳もうかなぁって思ってねぇ。」
ゆっくりとした口調で話す大谷さん。
先ほどの電話の後、大家さんが訪問してきたのだ。
「え…何故、ですか?」
「実はねぇ、ここも自然化の範囲内…に入ってるみたいなんだよぉ。だからここを取り壊さなくちゃいけないそうでぇ…」
「…そうですか、いつ頃畳むおつもりで?」
「…来週辺りかねぇ?」
「…今までお世話になりました。本当に、感謝してます。」
「改まらなくていいんだよぉ…最後に一つ、お願いがあるんだぁ、聞いてはくれるかい?」
「はい?」
「"おばあちゃん"って…呼んでほしいなぁ、私の孫も、今は遠くにいてね、なかなか呼んでもらえないんじゃ…あんたはぁ、孫そっくりでねぇ…会った時から、助けたいって、思ったんだぁ…」
「…本当に、今まで…ヒグッ、ありがとう…ございました…ヒグッ、おばあちゃん…」
「男の子が泣くもんじゃないよ…それに、あんたには彼女さんが付いてるだろう?頼れる男になるんだよ、メイ。」
「はい…おばあちゃん!」
今までお世話になりました。
俺はこのアパートで、様々なフレンズたちと一緒に時を過ごしてきました。
きっと忘れられない、かけがえのない思い出。
ありがとう、アパート。
ありがとう…おばあちゃん。
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