第42話 目覚め

「ん…」


 窓から差し込む光に反応し、俺は意識を取り戻す。

 どうやらここは俺の家のリビング…のようだ。

 衣服はどうやらすでに洗われており、染み付いていた血液もすっかり取れていた。


「いてっ…!」


 立ち上がろうとすると、激痛が走る。

 昨日の記憶は途中で途切れているが、どうやら揉み合ってる内に怪我…というか刺されたらしい。

 包帯が巻いてあるのが立派な証拠だ。

 もはや揉み合いじゃねぇなこれ…


「目が覚めたのですか?」

「大馬鹿者なのです…お前は。」


 そんな声がして、声のした方向に顔を傾ける。

 どうやら二人が来ていたようだ。


「あれ…二人とも、なんでいるの?」

「なんでもこうもないのです。」

「助け合ってこそがフレンズなのですよ。」

「ん…ところでさ、アライさんはどこ?」

「はぁ…お前は口を開けばアライグマの事ばかりなのですね?ちょっとは自分の心配をするのです。」


 サンドスターが尽きかけていたからか、再生能力があんま働いてない…

 これじゃあ動けないや。


「とりあえずニュースニュース…」

「お前はテレビを見すぎなのです!」

「知的好奇心が有り余るのは、賢い我々がよく経験することだからわかりますが、ちょっとは休憩を──」

『次のニュースです。』

「お、始まった。」

「「話は最後まで聞くのです!!」」


『昨日、近隣の住民から「なにやら異臭がする」という通報があり、警察が駆けつけたところ、変死体が発見されました。』


 音声とともに写し出されたのは、見覚えのある路地裏。

 そう、昨日来たはずの路地裏。


『遺体には多数の深い引っかき傷と、噛みちぎられた跡があり、側には動物の毛が大量に散乱していたとの情報です。警察は、近くに住む動物の仕業と見て、捜査を進めると共に、近隣の住民に注意を呼びかけています。』


 …ちょっと待て。

 変死体?

 まぁ、まさかあいつな訳が無かろう。

 そう、たまたまだ。

 たまたま、動物かなんかが誰かを、たまたま同じ場所で喰い殺しただけだ。

 そう、偶然だ。

 …いや、俺が殺すはずがない。

 仮に殺したとしても、俺が殺されたかもしれないのだ。

 それなら正当防衛…

 いや、果たしてこれは成り立つのか?

 正当防衛だったとしても…人を殺してしまったんだ。

 …絶対に殺してない!思い出せ、俺ぇぇぇぇぇぇぇえ!!


「ちょっと頭痛くなってきた…横になるわ。」

「とりあえず、我々は戻るのです。」

「さっさと治すのですよ。」





「…」


インターネット上に呟きを投稿できるアプリ、Twatter内では、殺人事件が話題となっていた。


『動物に殺された人、可哀想…』

『本当に動物なの?』

『ワンチャンフレンズの犯行説あるよ。』

『うわ、マジかよ…俺今ので無理になったわ。』

『まぁまぁ、決まったわけじゃないんだし…』

『でも、そんな近くに動物が出たんだったら、もっと早く警報が出たんじゃね?』

『フレンズで決定でしょ!はい!閉廷!』

『勝手に閉廷すんな。』


罪悪感が背中を走る。

やっぱり理性を失った俺は、ツバキをこの手で…爪で、牙で殺めてしまったのではないか?

いや…例えそうだったとしても。

あのままだったらアライさんと俺はどうなってただろうか?

あのサイコパスを…裏切り者を放っといて大丈夫だったのか?

そうだ、大丈夫じゃなかったはず…

なら正解、正解だ…


自分に必死に言い聞かせようとするメイ。

人生…フレンズ生で初めての殺人。

その罪を認めたくないからか、罪の重さに耐えきれないからか。

必死に…必死に自分を正当化しようとする。


はぁ…ダメだ。

俺は殺人を犯した犯罪者のメイです…

反フレンズ運動はこれから加速するんだろうな…

ごめん、ごめんなさい…


やがて彼は、自身の腕をゆっくりと上げ…

爪を腹に突き刺した…


「…ッ!」


痛みと血が広がるのがわかる。

せめてもの罪滅ぼしだ。

こんなので罪滅ぼしになるのか?

そうだ、もっと自分を痛みつけないと…


「馬鹿野郎!俺の…馬鹿野郎!」


爪を腹に刺しながら、自分を罵倒する。

端から見ればそれは単なる精神異常者である。


「メイ!?何してるのだ!?早くやめるのだ!」


どうやら買い出しに行っていたらしいアライさんが、必死に彼の腕を止める。

彼の爪はもう真っ赤に染まっており、その爪は、昨日の路地裏での出来事を思い出させるようだった。


「馬鹿なことはやめるのです!」

「心配して帰ってきたらこんな事を…お前がそんな事をして今更何になるというのですか!?」

「放して!放せよ!!こんな…人を殺した俺なんて…」


僅かな間だが、静寂がその場を包んだ。

アライさんはその頭でじっくり考え、そしてゆっくりと告げる。


「確かに、メイのした事は間違っていたかもしれないのだ…でも、あのままだったらメイだって危なかったのだ!だから…全部間違ってるわけじゃないのだ。」

「そうなのです。あのクズがいけないのです。」

「…ごめん。」

「とりあえず早く止血するのです!」

「このままだと貧血で倒れるのですよ!」

「包帯を持ってくるのだ~!」


馬鹿な事をした後に、また馬鹿な事をしてしまった。

反フレンズ運動を加速させるだけじゃなく、更に周りを心配させるようなことをしてしまった。

ダメだな、俺って…


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