第41話 狂気

「アハ、バレちゃった?」


俺の言葉を聞いても動じないツバキ。

それどころか、更に気味の悪さを増している。

まさに狂気…サイコパスと言ったところだろうか。

サンドスターは残り少ない…

さっさと決着をつけなければな。


「返してもらうぜ…」

「いいねぇ、いいねぇその顔!もっといい顔してよぉ…」


けものの目に光が宿った。

一気に距離を詰め、爪で切り裂こうと試みるが、ツバキは人間離れした身体能力でそれを避ける。

そうだ、ツバキは中学の頃から運動神経が良くて、身体能力が常人を越えていた…


「甘いんじゃないのォ!?フレンズってヒトより強いんじゃなかったんじゃなっかったっけなぁ…あれれぇぇぇ?」

「煽りよって…」


ツバキは刃物を振り回す。

人が振り回してるとは思えないほどの早さだ。

斬撃を避けていくのだが、何度か当たってしまい、服が裂ける。

クソ、さっき散々サンドスター使ったからな…


「ちっ、この狂人が!」


爪で体を切り裂く。

ツバキの反応は少し遅れ、傷が残る。

しかし痛みを顔に見せずに、更に気味の悪い笑顔を見せる。


「いいよぉ…その顔!もっと見せてぇ…」

「…ッ!?」


その狂気染みた顔に、少し恐怖を感じる。

なんだこいつは?


「油断してんじゃないよぉ!」

「グァ…!」


恐怖を感じていたからだろうか?

少し反応が遅れ、ナイフが俺の腕に刺さる。

いくら頑丈でも普通に痛い。

…痛いとか言ってる場合じゃない。


「あれれぇ?刺さっちゃったぁ?刺さっちゃったねぇ♪アハハ…」


焦れったい…

さっさと決着をつけよう。


「なぁ…最初からそのつもりだったんだよな?」

「そうだよぉ…?金貸したのもネ、君が俺を信頼するまで待ってたんだよォ…君の裏切られた時の顔といったラ!!もっと君の歪んだ表情を見せてよ…」

「それはお前の方だ…!」


そう言って飛びかかる。

ツバキを押し倒し、動きを封じる。


「君…馬鹿なんじゃないのかナ?」


ツバキはそう言って胸にナイフを突き刺す。

血が滲む。

痛みが広がる。

それでも、こいつを生かしてはおけない。

土砂降りの雨の中。

目に光を宿した獣は

無表情のまま…

ゆっくりと腕を上げ…

その濡れた、光る爪を…







振り下ろした。





ツバキは声にならない声をあげる。

爪は胸に突き刺さっていた。

血が広がる。

更に爪で刺していく。

ツバキの目の光が失われていく。

刺す度に怒りが増していく。

ザク、ザクと音を立てていく度に、血は噴き出していく。

理性を失った獣はその死体に噛み付く。

肉を切り裂き、喰いちぎる。

血が飛散する。

体にかかる。

顔にもかかる。

そんなこともお構い無しに刺して、噛み付いて。


「め、メイ…?」


アライさんが震えている。

かつての優しかった彼の姿はそこにはない。

そこにいるのはメイではない。

フレンズではなく…獣としての…

ニホンオオカミそのものだった。

やがて雨に濡れた彼はゆっくりと立ち上がり…

月に向かって吠える。


「ヒッ…」


その力強い咆哮に、本能が反応する。

今のメイは危険だ、と。

そして彼は目を閉じたかと思うと…

ゆっくり、ゆっくりと倒れ──


「メイ!!」


彼は…意識を失っていた。





「ん…ここは、いつぞやの夢で見た…」

『…メイ、呆れたぞ。サンドスターを消費しすぎて理性を失うとはな。』

「あ、天の声。」

『誰が天の声だ。』


また謎の空間に飛ばされていた。

最近は見ていなかった、天の声が聞こえる夢。

こんな形で久しぶりに見ることになるとはね…


『お前はサンドスターの仕組みを詳しく知らないようだから言うが…サンドスターを消費すると元のけものに戻ってしまうんだぞ…?お前の場合はわからんが…』

「それがどうしたよ…俺はアライさんを守りたかっただけ。あんなどうしようもないクソ野郎なんかに取られたくなかったってだけ。」

『サンドスターが0に近くなる時…どんどん人としての理性を失っていくんだ。今回はお前が意識を失ったからいいものの…そのままだったらそばのアライグマを襲いかねなかったのだぞ。』

「…!それはまずい…」


メイは不味いことをした、と自覚した。

その顔が余裕から、自分が理性を失ったことに対する恐怖に変わった。


『全く…あのお前は狂気そのものだったぞ…?ツバキといい勝負だ。』

「ッ!あんなやつ!」

『…今後は気をつけろ。お前がいなくなったら、アライグマはどうなる?』

「…」

『では…達者でな。』

「待てよ!天の声!」

『誰が天の声だ。』

「お前は…誰だ?父さん…なのか?」

『なわけないだろう。お前の勘は当たるんだか外れるんだか分からんな?』

「そうかい…」


暗い空間に、光が差し込んできた。

そろそろ意識が戻る頃だろう。

まず目覚めたら謝ろう。

自分が理性を失って暴走したことを。

怖がらせてしまったことを。

ツバキがどうなったかは覚えてないけど…

いや、あいつには二度と会いたくないな、思い出したくもない。

かつての親友の声のおかげで、忘れていた過去も思い出すことが出来た。

あとは集いをどうしようか?

あいつらと連絡つかないからな…

難しい事考える前に、さっさと目を覚まそう。





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