第40話 裏切り

「ふぅ…」


フレンズと人間ではまず身体能力の差がある。

生身の人間がフレンズに勝てるわけがない。

とりあえず勝った。


「はぁ…はぁ…なんだ、よ!中学の時よりも強くなりやがって…はぁ…」

「そりゃあ、フレンズだから。」

「反則かよ…おい…」


とりあえずさっさと店に戻ってみんなに伝えよう。

"あいつは帰った"って。

そして料理食って楽しく集いを…むふ~。


「おい!待てよ!」

「なんだよ…今頃用かよ?」

「いじめて悪かったな…」

「お、おう…」

「気をつけろよ!」

「あ、うん…」


何に気をつけるというのだろうか。

ちょっと意味がわからない。





「ただいま~…」

「大変だったな~、メイ?」

「いや、どうってことないって。フレンズは丈夫だからね!」

「あ、そっかぁ。ところでさ、アライさんとツバキがそっちに行ったと思うけど、見なかった?」

「え?」


言われてから気づいたが、アライさんとツバキがいない。

どこに行ったんだ?


「"メイを迎えにいく"って、ツバキがいってたからさ。それでアライさんも連れてって。…ほんとに見なかったか?」


嫌な予感がする。

心臓の鼓動が早くなるのがわかる。

アライさん…一体どこに。


「俺…探しに行ってくる!」

「あ、ちょ!メイ!?」

「騒がしいやつだな…やれやれ。」

「それ、元ムードメーカーのお前が言うか?」

「そうだな…では1発!」

「待ってました!」

「さんしゃいいいいいいいいいん!!いぃぃぃぃぃぃけ!ざぁぁぁぁ」

「それにしても料理遅いねー。」

「無視すんな!?」





雨が降っていた。

来る時は降っていなかったのに。

土砂降りだった。

俺は土砂降りの中、野生解放で、走る。

街中を駆ける。

店にはいなかったのだから、きっと街にいるんだろう?

アライさん…アライさん!

通行人を避けて走る、走る。

車を飛び越え、走る。


「ハァ…ハァ…!」


ダメだ、見つからん…

どこにいるのかぜんぜんわからん!

もうサンドスターも尽きてきたようだ。

もちろん、俺の家にもいなかった。

バイト先にもいるわけでもない。


「どこに…いるんだ…よ!」


息切れが激しい。

あぁ、もう。

あいつは一体どこに連れていってしまったんだ。

ツバキ…!


「!」


俺の耳が、微かだけど、ほんの微かだけど、アライさんの声を捉えた。

路地裏…にいるようだ。

最近路地裏に関わること多いんじゃないか…?





「メイはどこなのだ?こんなところまで来たのか?」

「…」

「なんか言うのだ!ツバキ!」

「…そ」

「ん?」

「嘘だよ~…ハハハ、こんな簡単に騙されるなんてねぇ!」

「つ、ツバキ…?」


その時。

ツバキはアライさんを押し倒した。

二人の息が交じる。


「馬鹿だよねぇ…?君も…メイも…この俺に騙されちゃってさぁ…?」

「な、何をするつもり…なのだ?」

「フフフフ…ハハ…」


薄気味悪く笑うツバキ。

いつも人付き合いが良い彼の姿からは、とても想像出来なかった。


「な、なんの冗談だか知らないけど、は、早く離すのだ!」

「冗談じゃないよぉ?フフフ…」


そして、ツバキは強引にアライさんの唇を奪う。

気持ちの悪い感触が口の中を這う。

あの時とは違う。

キス…

メイはそう言ってた気がする。

大切な人とする…

いや、これは違う。


「フフ…アライさぁん…」

「い、いや…助けて欲しい…のだ!メイ…ムグゥ!?」

「ちょっと黙っていようね~?」

「んぅーー!」


強引に口に綿を詰められる。

最初からこうするつもりだったんだろうか?

ダメだ、もう無理だ…

ごめんなさい、なのだ…メイ…






「アライさん!」





「チッ、もう来たか…」


目の前に広がる光景は現実、だろうか?

いや、有り得ないよね。

そうだ、幻聴を度々聞くんだ。

幻覚だって見ても不思議ではない。

…現実逃避はやめよう。


「おい、ツバキ…俺の彼女に何してやがんだよ…」

「何って?なんのことかなぁ…?」

「しらばっくれんじゃねぇよ…裏切り者が。」


ツバキはゆっくりと立ち上がり…ポケットから"刃物"を取り出した。


「このナイフで…邪魔者を切り裂いてあげるよぉ…?フフ…」

「サイコパスかよ、おい!」


ツバキは最初からそうするつもりだったんだろうか?

やるしかない。アライさんを裏切り者の手から取り戻すために。


「初めからねぇ…?君を裏切るつもりだったんだァ…ヘヘ♪君がどんな顔をするのかなぁ、ってさ!裏切られた時の顔!大事なものを取られた時の顔をねぇ!」


このタイミングで俺は幻聴を聞いた。

後ろから、懐かしい声が聞こえる。


『あいつら、ほんと許せないよね…二人でよってたかっていじめてさ。メイもなんか言ったらいいのに!』


懐かしい親友の声が聞こえた。

そうだ、必ずしも主犯は1人とは限らないんだ。

思い出した。

主犯はあの大男だけじゃなかったんだ…


『これ以上主犯がこられたら困るからさ。』


この言葉の意味、ようやく理解したよ。


「ツバキ、お前…」






──いじめの主犯の1人、だな?

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