第38話 肉まん

「そこのあなた。」

「はい?」


最近はなんだか「はい?」で返すことが多くなったような気がする。

それだけ知らない人に話しかけられるのか、俺は。

そう思ったが、今回は人じゃなさそう。


「私はキタキツネ。あなたが食べてるそれは何?」

「えぇと…肉まんだけど…」


そう、俺は今バイト帰りに肉まんを食べている。

ほくほくジューシー、尚お手軽価格の肉まん。

とりあえず食べてる分含めて4個買ってある。


「美味しそうな見た目をしているのね…ジュルリ」

「あ…あの、良かったら食べますか」

「もちろん!ありがとう!」


答えるの早いですね!?

まぁあげると言ったからにはあげるしかないよね…


「美味しー♪こんなのが世の中にあっただなんてー♪」

「大袈裟だなぁ…」

「肉まんくれてありがとう。あなたの名前は…」

「ニホンオオカミのメイだよ。」

「メイね、忘れるまで忘れないわ!」


何やねんそれ…





「美味しかったのだー!ほくほくしてて、お肉がジューシーで!」


とりあえずあの子に会った後、すぐ帰りアライさんと肉まんを食す。

というか俺と同じ感想じゃないか…


「あ。」

「どうしたのだ?」

「アライさん、一個残ってるけど、食べていいよ?」

「本当か!?ありがとう、なのだ!キラキラ」


目が輝く、とはこの事を言うのだろう。

別に野生解放してる訳では無いが。

そんなことを考えていたら、突然視界に半分にわけられた肉まんが入ってくる。


「…アライさん?」

「半分こ、なのだ!」

「アライさん…」


二人で食べる肉まんはいつもより美味しい~♪

特に好きな人と分け合って食べるのは…


「そういえばフェネックは?朝からいないけど…」

「なんか"としょかん"?に行ってるらしいのだ!」

「図書館…」


彼女は彼女なりに学問を学ぼうとしているのだろうか?

普段彼女が何をしているか分からないので、こういう意外なところがあったのには驚きを隠せない。

意外というが、よくよく考えてみたら彼女らしいと言える…かもしれない。


「そういやニュース…なんかやってないかな。」


ピッ

『速報です!只今政府が"大分切り分け問題"について判断を下しました!期日は変わりませんが、人が住むエリアが作られるとのことです!そしてフレンズは、政府が特設する施設の元で管理することに決定しました!』

「施設…ねぇ?」

「"しせつ''…ってなんなのだ?」

「レストランとか、カラオケとかそんな感じに目的のある人が使う建物?みたいな?」

「…分かりにくいのだ。」


ごめんなさい。


『広大な土地が自然化する予定で、その自然を生かした施設となります。その施設は…』



──動物園です。


「は?」

「?」


おい、それってどういう事だ?

つまりフレンズが見世物になると?

フレンズは見世物じゃないぞ!

いや、考えてみたら動物園って動物を見世物にしているじゃん…

見る側から見られる側に?

プライバシーとか大丈夫なのか?

いや、それよりもこの家どうなるの?

てか飼育係みたいなのが付くのか?


ぜんぜんわからん!


「アライさん、ちょっと言ってる意味がよくわからないのだ…」

「つまり…どういう事?ごめん、俺もぜんぜんわからん。」


全く予想できない新生活が始まることが、間違いなく起こるだろう…





「メイ、集いのことなんだが…3日後になったぞ。」

「集い、ねぇ…」


やっぱり乗り気にはなれない。

嫌がらせを受けていた毎日。

それも思い出したくないし、何よりもあいつらに会うのが…とても嫌だ。

でも…フレンズになった俺を見て、今と昔は違うんだって、証明してやる!


「んで、場所はどこでやるんだ?」

「あぁ、ここここ、〇〇だよ。」

「了解。」

「それと彼女さんも連れていきなよ、料理も出てくるし丁度いいじゃん?」

「あ、あぁ…」


ツバキにしてはちょっと変な提案だが、大丈夫だろうか?

アライさん連れていった所でアライさんが嫌がらせを受けてしまうのではないか?

…案ずるより産むが易し、かな。


「ところで…そろそろお前時間じゃねぇのか?」

「あ、やべっ!もうそろそろでバイトじゃねぇか!急がなきゃ!」

「遅れんなよ~!」

「なんとか頑張るわ~!」


野生解放でいくぞ!

この野生解放というのはほんと便利だ。

めっちゃ疲れるけど、めっちゃ速く走れる。


「うぉぉぉぉぉおお!」

「あいつ足速いな…ウサイ〇・ボルト越えてんじゃねぇのか?」


けものですもの、大目に見ててね。





「あった…この本だ。」


私は今、図書館にいる。

なぜ図書館にいるか…もちろん調べたいことがあるからだ。

私は今、思いで悩んでいる。

なんだか不思議な気持ちが私を襲うのだ。


「う~んと、どれどれ~?」


ここ数ヶ月で随分文字が読めるようになった。

人というのは模様でメッセージを伝えようとするのだから、凄いと思う。


「…これ分かりにくいな~、読み方が悪いのかな~?…あっ!」


彼女は本を落としてしまった。

その本に書かれた題名…

それは。



『人間の心について』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る