第36話 カラオケ

「メイ、"からおけ"ってなんなのだ?」


アライさんの言葉に思わず戸惑う。

アライさんはまだカラオケのことを知らなかったのか。

興味深そうに、目を輝かせて尋ねるアライさん。


「んー…カラオケっていうのはね、歌う所だね。お金かかるけど、その分みんなで歌って楽しめる場所だよ。」

「…わざわざお金を払って歌うのか?ヒトってよく分からないのだ…」

「まぁまぁ…そうだ、今夜行ってみようか?みんなも誘ってさ。近所に安い所あるし。」

「行くのだ!もちろん!」


やっぱり歌いたかったんじゃないか…

アライさんの目は、質問した時よりもずっと輝いていた。





「はい、カラオケです。」

「突然どうしたのだ?」

「ご飯はないのですか?」

「歌って何が楽しいのですか…」

「私はあまり歌が得意じゃないぞ?」

「まーまー、ゆっくりしてこうよー」

「私、歌いたい!」


みんなを誘ってカラオケにやって来た。

まずは俺がお手本を見せないと分からないよな。

とりあえずこのマイクと…なんていうんだ?予約する機械みたいなやつ紹介しなきゃね。


「まずこれはマイクって言うんだ。」

「興味深い形をしてますね…」

「これは何に使うのですか?」

「見てなよ?」


マイクを口の前に持っていく。


「あ(エコー)」

「わぁ!?」


みんな思わず驚いてしまう。

コノハなんて細くなってる…

あれ…フェネックさん?

驚いてませんね?


「すっごーい!なにこれなにこれー!」

「これを使って歌うんだよ。」

「知ってるよー、私前にも来たことあるんだよー?」


もしかして教えたのあなたですか…

じゃあなぜ意味も教えてあげなかったんだ…


「とりあえず、歌うか。この機械を使って、歌いたい歌の名前を打つんだよ。」

「歌…ねぇ、私はあまり歌を知らないが…」

「まぁ、とりあえず見てなよ。」


さて、久しぶりに歌うぜ!

俺の十八番!


♪残酷な天使のテ〇ゼ





82点


「なぁ…メイ、これっていい方なのか?」

「アハハ…イイホウダトオモウヨ」

「棒読みなのだ!?」


久しぶりに歌ったとはいえ、流石にひどすぎる!

こんな…こんな仕打ちってありますか!?


「歌はいいのですが…」

「…お腹が減ったのです。グー」

「そんな時はね…」


メニューを見ながら電話をかけ、注文する。

そう、ここは格安、そしてご飯も食べれる至福のカラオケ…!!


「すぐに届くよ。」

「「本当なのですか!?」」

「ご飯もあるなんて…このカラオケすごいのだ♪」





そこから俺達はいっぱい、いっぱい歌った。

アライさんと一緒に歌ってみたり、サーバルちゃんが自分の声に驚いて思わずマイク落としたり、ヒグマさんが実はめっちゃ歌がうまかったり…


「楽しかったなぁ。」

「またメイと来たいのだ!」


今度は、二人で…


「メイさ~ん?」

「ん…あれ、フェネックじゃん?さっき帰ったんじゃなかった?」

「その事なんだけどね~…」





反フレンズ運動は高まっていくばかりだった。

何故俺達人間が大分を出ていかなきゃダメなんだ!という声も上がり、かなり弾圧されている。

フェネックはそんな中、運動の影響もあり、住まわせてもらってる場所を特定され、毎日郵便物が届いたそうだ…


「…ということで、泊めさせてもらってもいーかなー?」

「…もちろんだよ、そんなことになってたなんて…」

「フェネックが泊まるのだ!?嬉しいのだ!フェネック、帰ったら何をするのだ?」

「う~ん、何しようかなぁ~」


仲良き事はいい事だ。

仲良しの二匹の後ろ姿は、かつての親友と俺を思い出させてくれる。

そう、俺の親友の、カエ…

…?


「メイ?ぼーっとしてないで早く行くのだ!」

「あぁ、ごめんごめん、今行くよー!」

「二人共ー、信号赤になるから気をつけてー。」





同居人が増えた。

新しい同居人が。

アライさんと仲が良い友達だ。

親友、というレベルでも良いだろう。

本当に仲良しだ…

アライさんとフェネックは隣同士で寝ている。

これはまた朝が大変だぞ…

主に食事の準備が。


ノックする音が聞こえた。


「メイ?そこにいるんだろう?」


聞き覚えのある声だった。

その声は最近聞いていなかった声。

別れたはずのあの"人"。

呼吸が早くなるのがわかる。

胸がドキドキするのがわかる。

そうだ、今自分は緊張しているんだな。

ゆっくりと、ドアを開ける。

そこには…




──誰もいなかった。


「…?」


おかしいな、確かに"アイツ"の声だったのに…

疲れてるのかな、もう寝た方が良さそうだ。


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