第35話 あなたに贈る

「ん……朝か。」


全然眠れなかった…

昨日は更にアライさんを傷つけてしまった。

もう仲直りは出来ないのかな…

悔やんでも悔やみきれない。


「あれ…アライさん?」


嘘だろ?

もしかして俺に嫌気がさして家出を…


「ごめんなさい!アライさん!お願い!戻ってきて!お願い…だから!」


だめだ…家中探してもいない。

アライさん…!行かないって言ったじゃないか…

絶対に見つける。

見つけて仲直りをするんだ…!

いなくならないで、アライさん!

花束を抱え、俺は家を出たのだった。





「静かに入るのだ…」


アライさん一行はサプライズの飾り付けをするために、ゆっくりと家に忍び込む。

メイが起きないように。


「アライさ~ん?」

「静かにするのだ!フェネック!!」

「一番声が出てるのはお前なのです。」

「それにメイは…どうやら出かけたようですよ?」


よかったのだ~。

多分朝の散歩なのだ!

とりあえずバレる心配はなさそうなのだ…


「サーバル、ケーキ食べようとしてるな?」

「し、してないよ~!」

「嘘なのです。今箱に手を伸ばしているのです。」

「それはメイの大事なケーキなのだ!」

「ごめんね!私、つい食べたくなっちゃって…」

「…食べないようにな。」

「食べないよー!」


そんな会話をしてる間に、飾り付けはどんどん進んでいく。

最後はこの幕だけとなった。


"ハッピーバースデー メイ"


アライさんが自分で書いたメッセージ。

好きの気持ちと、一緒にいたいという気持ち、そして祝いの想いがこもったメッセージ。


「あとは待つだけだね~。」

「うみゃ、緊張してくるよ!」

「メイが来たらこの紐を引くのですよ。」

「分かってるのです。」パァン

「もう引いてるじゃないか…代わりのあるからこれ使え。」

「べ、別に今のはちゃんと動くかを確かめただけなのです!」

「ん、足音が聞こえてくるよ~…もう帰ってきたみたい。」

「電気を消すのだ!」





やっぱりアライさんはいなかった。

ごめんね、アライさん。

本当にごめん…

いくら謝ってもアライさんは帰ってこない。

当たり前に決まってる。

俺は玄関を開け、そしてリビングに通じるドアを開ける。

その時だった。


パァン!

という音がしたかと思えば、視界は明るくなり、紙吹雪が舞った。


「「「ハッピーバースデー、メイ!」」」

「え…みんな?アライさん?なんで…」

「今日はメイの誕生日なのだ!だからアライさん達が…サプライズをしたのだ!」

「大変だったんだよ~?ケーキ作ってもらうためにお金を集めたりとか…」

「特にアライグマがうっかり喋らないか心配だったのです。」

「あ、アライさんは喋らなかったのだ!」


そうか、そういう事だったのか。

アライさんはおっちょこちょいな部分がある。

サプライズを隠し通すために彼女が考えたこと。

それは対象から1度遠ざかること。


「アライさん…俺が嫌いになったんじゃ…」

「…嫌いになったりなんかしないのだ。」

「良かった…俺、やっぱりアライさんがいないと、なんかダメで…」

「シリアスなムードはそこまでだぞ、お前ら。あくまでこれはパーティ。ケーキ用意するから待ってろ。」

「私も~!」


こんなに祝われたのは何年ぶり?

いや、そもそもこんなに祝われたことはないかもしれない。

せいぜい"おめでとう"とは言われることはあったけど、こんな、サプライズだなんて…

涙が零れる。

感動の涙が。

涙を見せないように、俺は後ろを向いて涙を拭き、再びみんなの前に顔を見せる。





「さて…ケーキも食べ終わったことだし、ほら、アライさん。あれを。」

「分かったのだ!」


アライさんが持ってきたのは──花。

袋に入れられた花を俺に差し出す。

花の名前は…二輪草、ブルースター、クロユリ…


「花には花言葉っていうのがあって、それを教えてもらったのだ!アライさんがメイに伝えたいこと、花言葉で伝えるのだ。」


二輪草は確か…"ずっと離れない"

ブルースターは…"信じ合う心"

クロユリは…"恋"だ。


「アライさん…」

「あ、あの!受け取ってほしいのだ!アライさんのキモチ…想いを、全部受け止めてほしいのだ…!」

「もちろん…!嬉しい、ありがとう…!アライさん!」


アライさんは少し下の方を向きながら、真っ赤な顔で俺に花束を渡す。

今こそ、俺も花を渡す時だ。


「アライさん、実は俺からもプレゼントがあってね?」

「ふぇ?」

「俺も…花を。」


困惑するアライさんの前に、俺は花を差し出す。

胡蝶蘭…アイリス…センニチコウの花を。


「ありがとう、なのだ!でもこれってどういう意味なのだ…?」

「…秘密//」

「何を照れてるのだ?」

「…なんでもないよ!ありがとう、アライさん!」

「全く、二人でイチャイチャして…」

「まるでプロポーズみたいなのです。」

「「プ、プロポーズ!?」」

「おめでとうー!」


サーバルちゃん!?それは誕生日のお祝いなのかな!?それとも別の意味なのかな!?





本当は分かっていたのだ。

メイが渡した花の意味…

メイのキモチも。

花言葉は…

"あなたを愛しています"

"あなたを大切にします"

──"変わらぬ愛情"

彼女は枕を抱きしめ、頬を赤らめ一夜を過ごすのだった。

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