第35話 あなたに贈る
「ん……朝か。」
全然眠れなかった…
昨日は更にアライさんを傷つけてしまった。
もう仲直りは出来ないのかな…
悔やんでも悔やみきれない。
「あれ…アライさん?」
嘘だろ?
もしかして俺に嫌気がさして家出を…
「ごめんなさい!アライさん!お願い!戻ってきて!お願い…だから!」
だめだ…家中探してもいない。
アライさん…!行かないって言ったじゃないか…
絶対に見つける。
見つけて仲直りをするんだ…!
いなくならないで、アライさん!
花束を抱え、俺は家を出たのだった。
◆
「静かに入るのだ…」
アライさん一行はサプライズの飾り付けをするために、ゆっくりと家に忍び込む。
メイが起きないように。
「アライさ~ん?」
「静かにするのだ!フェネック!!」
「一番声が出てるのはお前なのです。」
「それにメイは…どうやら出かけたようですよ?」
よかったのだ~。
多分朝の散歩なのだ!
とりあえずバレる心配はなさそうなのだ…
「サーバル、ケーキ食べようとしてるな?」
「し、してないよ~!」
「嘘なのです。今箱に手を伸ばしているのです。」
「それはメイの大事なケーキなのだ!」
「ごめんね!私、つい食べたくなっちゃって…」
「…食べないようにな。」
「食べないよー!」
そんな会話をしてる間に、飾り付けはどんどん進んでいく。
最後はこの幕だけとなった。
"ハッピーバースデー メイ"
アライさんが自分で書いたメッセージ。
好きの気持ちと、一緒にいたいという気持ち、そして祝いの想いがこもったメッセージ。
「あとは待つだけだね~。」
「うみゃ、緊張してくるよ!」
「メイが来たらこの紐を引くのですよ。」
「分かってるのです。」パァン
「もう引いてるじゃないか…代わりのあるからこれ使え。」
「べ、別に今のはちゃんと動くかを確かめただけなのです!」
「ん、足音が聞こえてくるよ~…もう帰ってきたみたい。」
「電気を消すのだ!」
◆
やっぱりアライさんはいなかった。
ごめんね、アライさん。
本当にごめん…
いくら謝ってもアライさんは帰ってこない。
当たり前に決まってる。
俺は玄関を開け、そしてリビングに通じるドアを開ける。
その時だった。
パァン!
という音がしたかと思えば、視界は明るくなり、紙吹雪が舞った。
「「「ハッピーバースデー、メイ!」」」
「え…みんな?アライさん?なんで…」
「今日はメイの誕生日なのだ!だからアライさん達が…サプライズをしたのだ!」
「大変だったんだよ~?ケーキ作ってもらうためにお金を集めたりとか…」
「特にアライグマがうっかり喋らないか心配だったのです。」
「あ、アライさんは喋らなかったのだ!」
そうか、そういう事だったのか。
アライさんはおっちょこちょいな部分がある。
サプライズを隠し通すために彼女が考えたこと。
それは対象から1度遠ざかること。
「アライさん…俺が嫌いになったんじゃ…」
「…嫌いになったりなんかしないのだ。」
「良かった…俺、やっぱりアライさんがいないと、なんかダメで…」
「シリアスなムードはそこまでだぞ、お前ら。あくまでこれはパーティ。ケーキ用意するから待ってろ。」
「私も~!」
こんなに祝われたのは何年ぶり?
いや、そもそもこんなに祝われたことはないかもしれない。
せいぜい"おめでとう"とは言われることはあったけど、こんな、サプライズだなんて…
涙が零れる。
感動の涙が。
涙を見せないように、俺は後ろを向いて涙を拭き、再びみんなの前に顔を見せる。
◆
「さて…ケーキも食べ終わったことだし、ほら、アライさん。あれを。」
「分かったのだ!」
アライさんが持ってきたのは──花。
袋に入れられた花を俺に差し出す。
花の名前は…二輪草、ブルースター、クロユリ…
「花には花言葉っていうのがあって、それを教えてもらったのだ!アライさんがメイに伝えたいこと、花言葉で伝えるのだ。」
二輪草は確か…"ずっと離れない"
ブルースターは…"信じ合う心"
クロユリは…"恋"だ。
「アライさん…」
「あ、あの!受け取ってほしいのだ!アライさんのキモチ…想いを、全部受け止めてほしいのだ…!」
「もちろん…!嬉しい、ありがとう…!アライさん!」
アライさんは少し下の方を向きながら、真っ赤な顔で俺に花束を渡す。
今こそ、俺も花を渡す時だ。
「アライさん、実は俺からもプレゼントがあってね?」
「ふぇ?」
「俺も…花を。」
困惑するアライさんの前に、俺は花を差し出す。
胡蝶蘭…アイリス…センニチコウの花を。
「ありがとう、なのだ!でもこれってどういう意味なのだ…?」
「…秘密//」
「何を照れてるのだ?」
「…なんでもないよ!ありがとう、アライさん!」
「全く、二人でイチャイチャして…」
「まるでプロポーズみたいなのです。」
「「プ、プロポーズ!?」」
「おめでとうー!」
サーバルちゃん!?それは誕生日のお祝いなのかな!?それとも別の意味なのかな!?
◆
本当は分かっていたのだ。
メイが渡した花の意味…
メイのキモチも。
花言葉は…
"あなたを愛しています"
"あなたを大切にします"
──"変わらぬ愛情"
彼女は枕を抱きしめ、頬を赤らめ一夜を過ごすのだった。
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