第23話 まだここで
『無事に解放したか?』
「あぁ…なんとかな。」
『そうか…しかし、お前はまだ野生を解放し切れていない。』
「それは一体どういうことだ?」
『ニュースを見てみろ…』
「えぇ…」
あなたはテレビと繋がっているんですか…
◆
いつものようにテレビの前に座り、テレビをつける。
なんだか特集を見るのが習慣のようになってしまった。
『えー、次のニュースです。専門家によりますと、フレンズはサンドスターをさらに消費して身体能力を高めることが出来る、ということが分かりました。』
『専門家は「まるで野生を解き放ってるようだ。」と話しており、その発言からか、「野生解放」と名付けられました。』
野生解放…
そういえば、今まで何度か身体能力が高まったことがある。
『目が…光っている?』
そうだ、不良とやり合った時もそう言われた覚えがある。
それに強盗との戦いだって、能力が上がったように感じたし、何故か終わったら倒れてしまった。
サーバルちゃんと初めて会ったときも、フレンズだと思った、と言われたし…
それに何故か怪我直ってたし…
「あの時からもう既にフレンズになっていた?」
いやいや、そんな事は無い。
現にあの時はフレンズとしての姿もなかったし、普通の人間だったではないか。
「どういうことだマジで…」
『もう一つ、ニュースがあります。』
テレビからそんな声が聞こえたので、俺はまたテレビを見る。
なんだい、まだニュースがあったのかい。
『大分エリアの特徴の高い山が連なった地形、そこにロープウェイができました。簡単に山頂に登ることができ、観光客は「いい景色が見れてよかった」という声が多数あがっています。今後、カフェが山頂に建てられる予定だそうです。』
「フレンズ特集じゃなかったやんけ…」
◆
今日は雨が降っている。
そうだ、ヒグマと手合わせがあるんだ。
どこでするか打ち合わせなければ。
「ごめん、アライさん。ちょっと行ってくるよ。」
「フェネックと遊んでるのだ!行ってくるのだ!」
「いってらっしゃ~い。」
「行ってきます!」
さて、またヒグマ探しですか…
◆
傘をさしながら街中を歩く。
思えばここ最近あまり雨は降っていなかった。
久しぶりの雨である。
それにしても。
「ヒグマ…ほんとどこいるんだろ、あの子。」
ヒグマは本当に見つかりにくい。
前回だって見つけるのに30分以上かかった。
「連絡手段用意しとかなきゃな…」
◆
「あ~、疲れた。」
そう言いながら喫茶店の中に入っていく。
結局ヒグマは見つからなかった。
本当に冬眠でもしちゃってるんじゃないですかね…
「すいません、ホットココアを一つお願いします。」
「かしこまりました。」
アライさん…今どうしてるかな?
フェネックがいるから安心だとは思うけどなぁ。
早めに帰って昼ごはん作ってあげなきゃ。
「お待たせしました~」
「あ、どうも。」
ズズズ…
温かい…
こんな雨の日には体が冷えるものだし、ちょうど良かった。
「暖かそうな顔をしてるな。」
「そう…このココア温かい…って、ヒグマ!?」
見つけにくいし神出鬼没じゃないか…
◆
「それで、手合わせの件はどうするんだ?何か考えてあるんだろうな?」
「あぁ、邪魔にならないところでやりたいし、せっかくだし山の中でやるというのはどう?」
「山の中か…嗅覚を辿れば帰れそうだな。丁度いい。」
「嗅覚いいんだね、ヒグマって。」
「お前、オオカミだろう?お前だって嗅覚はいいと思うぞ。」
そう言われてはっと気付いた。
改めて意識してみると、なんとなくだけど何がなんの臭いだか分かった。
「気付かなかったわ…」
「それじゃ、明明後日の午後2時、またここで。」
「あぁ、それと連絡手段用意したいんだけどいいかな?」
「連絡手段…か、また今度な。」
「え?」
それは困りますよヒグマさん…
◆
帰り道。
もうアパートの近くだ。
この道を真っ直ぐいって。
そう、この角を曲がって、少し進めば着くんだ。
角を曲がった、その時だった。
「…え。」
轟音をあげこちらに向かってくるトラック。
そのトラックはスピードが充分付いており、人が轢かれれば間違いなく死ぬ…
…死ぬ!
絶望がやってくる。
希望が満ち溢れた生活、未来へ向かっていける人生。
それを嘲笑うかのように、その絶望はやってくる。
──そして傘は宙に舞った。
◆
「…ウァっ。」
気が付けば俺は、雨の中地面の中に倒れていた。
身体中に激痛が走る、とはこのことを言うのだろうか?
…ダメだ、立つことすら出来ない。
先程のトラックはどこへ行ったのだろう…轢き逃げだろうな。
自分の身体を見ると、至る所から出血している…
腕や足は折れ、頭が働かない。
生身の人間が轢かれてたら死んでいたところだった。
フレンズだったから…まだ死ななかった。
けど…きっと、このままだと死ぬんだろうな。
「ご…めんね。」
目から水がこぼれる。
それは決して雨水ではない、涙だ。
今までの思い出が走馬灯のように蘇る…
──ねぇ、君の名前、何ていうの?
カエデ…今お前はどこで何を…
──ごめんね、メイ。また行かなきゃ。
母さん…何故俺を置いていったの?
──お前が新しいバイトメンバーか!よろしくな!
ツバキ…お前とはもっとやっていけたのに…
──いつでも、相談していいんだよ…
大家さん…生活の支えになってくれた。
──また作り直せばいいよー。
フェネック…いつもアライさんと仲良しだったね…
──早く料理を寄越すのです!
──我々はグルメなので。
コノハ達も…そんなに急いで食べるとまたやけどするよ…?
──あなたは何のフレンズ?
サーバルちゃん…サーバルちゃんは何を隠してたの…?
──お前達、そこで何をしている?
ヒグマ…手合わせ出来なくてごめん。
──メイ…大好きなのだ…
アライさん…大丈夫、あの言葉は聞こえていたから…
まだみんなと会いたい…話したいのに…!
「まだ…ここ…で、こ…んなとこ…ろで…終わ…れな……いのに…!!」
空に伸ばした手は虚しく空を切っていく。
もう…ダメだな…
人生の終わり。
それは突然やってくるものであり、誰にも予測はつかない。
生まれ変わったら…また会いたい…
アライさん…
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