第23話 まだここで

『無事に解放したか?』

「あぁ…なんとかな。」

『そうか…しかし、お前はまだ野生を解放し切れていない。』

「それは一体どういうことだ?」

『ニュースを見てみろ…』

「えぇ…」

あなたはテレビと繋がっているんですか…





いつものようにテレビの前に座り、テレビをつける。

なんだか特集を見るのが習慣のようになってしまった。

『えー、次のニュースです。専門家によりますと、フレンズはサンドスターをさらに消費して身体能力を高めることが出来る、ということが分かりました。』

『専門家は「まるで野生を解き放ってるようだ。」と話しており、その発言からか、「野生解放」と名付けられました。』

野生解放…

そういえば、今まで何度か身体能力が高まったことがある。

『目が…光っている?』

そうだ、不良とやり合った時もそう言われた覚えがある。

それに強盗との戦いだって、能力が上がったように感じたし、何故か終わったら倒れてしまった。

サーバルちゃんと初めて会ったときも、フレンズだと思った、と言われたし…

それに何故か怪我直ってたし…

「あの時からもう既にフレンズになっていた?」

いやいや、そんな事は無い。

現にあの時はフレンズとしての姿もなかったし、普通の人間だったではないか。

「どういうことだマジで…」

『もう一つ、ニュースがあります。』

テレビからそんな声が聞こえたので、俺はまたテレビを見る。

なんだい、まだニュースがあったのかい。

『大分エリアの特徴の高い山が連なった地形、そこにロープウェイができました。簡単に山頂に登ることができ、観光客は「いい景色が見れてよかった」という声が多数あがっています。今後、カフェが山頂に建てられる予定だそうです。』

「フレンズ特集じゃなかったやんけ…」





今日は雨が降っている。

そうだ、ヒグマと手合わせがあるんだ。

どこでするか打ち合わせなければ。

「ごめん、アライさん。ちょっと行ってくるよ。」

「フェネックと遊んでるのだ!行ってくるのだ!」

「いってらっしゃ~い。」

「行ってきます!」

さて、またヒグマ探しですか…





傘をさしながら街中を歩く。

思えばここ最近あまり雨は降っていなかった。

久しぶりの雨である。

それにしても。

「ヒグマ…ほんとどこいるんだろ、あの子。」

ヒグマは本当に見つかりにくい。

前回だって見つけるのに30分以上かかった。

「連絡手段用意しとかなきゃな…」





「あ~、疲れた。」

そう言いながら喫茶店の中に入っていく。

結局ヒグマは見つからなかった。

本当に冬眠でもしちゃってるんじゃないですかね…

「すいません、ホットココアを一つお願いします。」

「かしこまりました。」

アライさん…今どうしてるかな?

フェネックがいるから安心だとは思うけどなぁ。

早めに帰って昼ごはん作ってあげなきゃ。

「お待たせしました~」

「あ、どうも。」

ズズズ…

温かい…

こんな雨の日には体が冷えるものだし、ちょうど良かった。

「暖かそうな顔をしてるな。」

「そう…このココア温かい…って、ヒグマ!?」

見つけにくいし神出鬼没じゃないか…





「それで、手合わせの件はどうするんだ?何か考えてあるんだろうな?」

「あぁ、邪魔にならないところでやりたいし、せっかくだし山の中でやるというのはどう?」

「山の中か…嗅覚を辿れば帰れそうだな。丁度いい。」

「嗅覚いいんだね、ヒグマって。」

「お前、オオカミだろう?お前だって嗅覚はいいと思うぞ。」

そう言われてはっと気付いた。

改めて意識してみると、なんとなくだけど何がなんの臭いだか分かった。

「気付かなかったわ…」

「それじゃ、明明後日の午後2時、またここで。」

「あぁ、それと連絡手段用意したいんだけどいいかな?」

「連絡手段…か、また今度な。」

「え?」

それは困りますよヒグマさん…





帰り道。

もうアパートの近くだ。

この道を真っ直ぐいって。

そう、この角を曲がって、少し進めば着くんだ。

角を曲がった、その時だった。

「…え。」

轟音をあげこちらに向かってくるトラック。

そのトラックはスピードが充分付いており、人が轢かれれば間違いなく死ぬ…

…死ぬ!

絶望がやってくる。

希望が満ち溢れた生活、未来へ向かっていける人生。

それを嘲笑うかのように、その絶望はやってくる。




──そして傘は宙に舞った。





「…ウァっ。」

気が付けば俺は、雨の中地面の中に倒れていた。

身体中に激痛が走る、とはこのことを言うのだろうか?

…ダメだ、立つことすら出来ない。

先程のトラックはどこへ行ったのだろう…轢き逃げだろうな。

自分の身体を見ると、至る所から出血している…

腕や足は折れ、頭が働かない。

生身の人間が轢かれてたら死んでいたところだった。

フレンズだったから…まだ死ななかった。

けど…きっと、このままだと死ぬんだろうな。

「ご…めんね。」

目から水がこぼれる。

それは決して雨水ではない、涙だ。

今までの思い出が走馬灯のように蘇る…



──ねぇ、君の名前、何ていうの?

カエデ…今お前はどこで何を…

──ごめんね、メイ。また行かなきゃ。

母さん…何故俺を置いていったの?

──お前が新しいバイトメンバーか!よろしくな!

ツバキ…お前とはもっとやっていけたのに…

──いつでも、相談していいんだよ…

大家さん…生活の支えになってくれた。

──また作り直せばいいよー。

フェネック…いつもアライさんと仲良しだったね…

──早く料理を寄越すのです!

──我々はグルメなので。

コノハ達も…そんなに急いで食べるとまたやけどするよ…?

──あなたは何のフレンズ?

サーバルちゃん…サーバルちゃんは何を隠してたの…?

──お前達、そこで何をしている?

ヒグマ…手合わせ出来なくてごめん。

──メイ…大好きなのだ…

アライさん…大丈夫、あの言葉は聞こえていたから…


まだみんなと会いたい…話したいのに…!

「まだ…ここ…で、こ…んなとこ…ろで…終わ…れな……いのに…!!」

空に伸ばした手は虚しく空を切っていく。

もう…ダメだな…

人生の終わり。

それは突然やってくるものであり、誰にも予測はつかない。

生まれ変わったら…また会いたい…





アライさん…



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