第24話 カエデ

「…ここは?」

気付けば俺は、何も無い空間にいた。

本当に何も無い。

真っ白な空間がそこには広がっている。

「…そうか、俺。」

そうだ、俺はあのトラックに轢かれて…

「…メイ。」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。

まさか、そんなはずがない。

だって、彼はあの時…

「なんで…ここにいるんだよ…」

そう言いながら振り返る。

やはりそうだ。

「カエデ…」

「久しぶりだな、メイ。」

彼は気さくにそう言う。

いつもと変わらない、明るい声で。

「なんで、え?どうしてだよ。お前、あの時言ったじゃねぇかよ!人生これからだって…」

「別に僕の人生がこれからって訳じゃないよ?お前の人生だ。」

「…そんなこれからの人生でさえ、俺は生きることが出来なかった。」

「いや…まだ戻れる。方法が一つだけあるんだ。」

「教えてくれ!その方法はなんだ!!」

カエデは少し溜め、こう言った。

「…僕の力をお前に全て渡すんだ。」

「…?それって、どういう意味なんだ…?」

「そのまんまの意味だよ、お前に全ての力を託し、僕の魂は消える。」

「おい!それって!」

「いいか?お前がいなければ、彼女さんは悲しむ…良くわかるだろ?彼女さんには、お前が必要だ。僕の事はどうだっていい。だから、彼女さんの元に帰って…笑顔にしてやるんだ。」

「でも…それじゃ、お前が」

「返事をしろ!!如月 明(キサラギ メイ)!!!」

「…っ!!」

彼の…カエデの覚悟を感じ取った。

「…分かったよ。俺は生きてアライさんの元に帰る…」

「それでこそ…俺の親友だ。今から全ての力を注ぎ込む…」

「あぁ…」





「ほらよ、力を注いでやったぜ、行けるだろ?もう。」

「…カエデ、ありがとう。」

「なぁ、親友。作ってくれよ、誰も悲しまない世界を。誰も苦しまない世界を。くだらない希望かもしれないが…」

「あぁ…絶対に、作るよ、親友。」

「最後に教えてくれ、なぜお前は、俺に何も言わずに…」

「…目撃者が一人いる…俺はもう長くない、だから話せない。」

そう言われて、初めてカエデが消えかかってるのに気づく。

「そっか…」

俺はカエデの希望を叶えてやりたい。

それがどんなに困難で、夢物語だと言われても。

その希望を叶えるために。

俺は一歩一歩歩き出すんだ…!!

「もう行くとするよ…ありがとう、カエデ。」

「元気で…やれよ?」

そう言いながら、彼はいつも通り、ショートヘアーの癖っ毛をかきながら、いつも通りの帽子を被る。

休日に良く見たっけな、この光景…

そして彼はランドセルを背負うように…いつも通りかばんを背負う。

「…またな!親友!」

「…ああ!!」





「…」

俺は目覚めた。

今、カエデの力を得て…

あれほど痛かった痛みも、今はすっかり消え去り、傷…は少しマシになった。

折れていた足、腕も、もう治ったようだった。

「カエデ…」

彼は最後に言ったんだ。

またな…と。

さよならじゃないんだ…

そうだ、またきっと会えるんだ。

また会った時には…見せてやりたいな。

「誰もが幸せになれる世界を…」





「遅くなってごめんね、アライさん。」

「遅いのだ~!メイ!って、ちょっと怪我してるのだ…?また無理したのだ!」

「はは…ごめんごめん。」

アライさんはふくれっ面で怒りながら言う。

「お詫びにさ、今日はレストラン連れてってあげる。」

「ホントか!?嬉しいのだ!!」

アライさんはその言葉を聞いた瞬間、笑顔になった。

そうだ、俺が守りたいのはこの笑顔。

この笑顔が…絶えない世界。





外はもう雨は降っておらず、でも少し曇っていた。

あの日、アライさんと初めてレストランに行った時と同じ空模様…

そしてあの時と同じく寒い。

「アライさん…手、繋ごっか?」

「もちろんなのだ!暖かいのだ!」

今度は俺から繋ぐ。

俺も、アライさんも笑顔になる。

「一緒にいれるって…嬉しいね。」

「アライさんも一緒にいれるのが幸せなのだ!だから…」



「あまり無茶しちゃダメなのだ…アライさんは怪我をしているメイを見たくないのだ…」

そう言われて俺は気付く。

今回は無茶をしたわけじゃない。

しかし、俺は何回も無茶をして、それに怪我をしたことだってあるんだ。

その度にアライさんを不安な顔にするわけには行かない…

「ごめんね、アライさん。無茶はしない…たまにはほどほどに休むよ。」

「それ、前にも聞いたのだ。」

「え?本当?」

そんなやり取りをしながら、俺達はレストランへと向かっていったのであった。

あの日と同じ、レストランへと…







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る