第20話 解放
「これから卒業式…か。」
「だな…」
この高校も見納めだ。
そしてクラスメイト、先生、カエデとの別れ。
中学には経験した事のなかった寂しさが俺を襲う。
「どうしたんだよ、寂しそうな顔をして。」
「この高校にももう通わないんだな…ってさ。」
「なんだい、そんな事かい。」
「そんな事って…お前なぁ…」
「俺達の青い春はもう幕を閉じようとしているんだ…いつまでも、引きずってはいられないだろう?だから、最後は笑顔で別れるんだ。すっきり終われる卒業式になるといいな。」
「あぁ…そうだな。」
◆
「次は、卒業生による歌、"ぼくのフレンド"です。卒業生の皆さん、起立してください。」
「あぁ、ついに歌う時が来た…不安だなぁ。」
「これが僕の最後の歌…」
…カエデ?
「お前…それ、どういう意味だ?」
「ん?僕、なんか言った?」
「あ、あぁ、すまん、聞き間違いだ。」
最後の歌だなんて、縁起でもない。
そうだ、ただの空耳だ。
◆
「ついに卒業式が終わった…」
「いよいよ僕達、別れるんだね…」
校門の前でそう話す。
早いような気がするが、桜も咲いている。
今日は快晴、卒業式にはピッタリの日だった。
「なぁ…カエデ。俺達、また会えるよな?二度と会えない訳じゃ、ないよな?」
「あぁ…なんだか、この桜を見てるとそんな気がしてきたよ。」
「"青い春は今幕を閉じ 桜と共に舞散っても"、きっと会える。また、どこかでな。」
「"僕らが立った今 ゴールは別々スタートライン"、人生これからさ。」
「お~い、メイ~!!」
「って、アライさん!?迎えに来てくれたのか…」
「ふふっ、お前ら仲良しだな~。」
「なっ!そんな事無いって!」
「はいはい、ほら、早く彼女さんの所に行ってあげなよ。」
「くっ…そういう関係じゃないと言うのに…」
その時だった。
丁度工事を行っていたのだろうか。
工事現場の上空から鉄筋コンクリートが降ってきた。
その鉄筋コンクリートはアライさんに…
「っ!、危ない!!アライさん!!!」
「ふぇ?」
このままでは救えない…!
人間の脚力じゃどうしても追いつけない!
こんな形で別れを経験するなんて…
救うことが出来ないなんて…
そんなの、そんなの絶対に…
嫌だ!!
そう思った瞬間、なんだか体が軽く感じた。
「これなら…行ける!」
体力を消費し、一気に詰めかける。
まるで人間離れした脚力で。
ガラガラガラ!
「な、なんとか間に合った…」
「メイ、それ…」
「え?」
改めて自分の体を触ってみると、
ん?なんだ?
若干ゃモフモフっとした耳…
そして結構ゃモフモフっとした尻尾…なお茶色。
丁度いい、そこに水たまりがある…
「何だこれはぁ!?」
茶色の髪に茶色の獣耳。
光り輝く目。
まさしくその姿はフレンズそのものだった。
「えぇ!?何これ!ちょっと!どうなってるの!?」
「メイ…なのだ?」
「あ、あぁ、たしかに俺はメイだ…なんで俺がフレンズに…」
「メイ、その姿…」
「あ、カエデ…」
「そっか、お前フレンズに…」
「原因分かんないけどな…」
「いずれ分かるかもしれないね。」
「お前…意外と驚いてないのな。」
「あぁ…不思議なことがありすぎて、そんなに。」
その時、俺の頭の中に情報が入り込んだ。
「俺は…"ニホンオオカミ"?」
「め、メイはニホンオオカミのフレンズだったのだ!?」
「ニホンオオカミ…絶滅したはずなんだけどな…」
「どういうことだ?」
「なぁ、メイ。お前は僕にフレンズを守りたいと何回も言ったよね。その姿ならきっと僕がいなくても…フレンズを守っていけるよ!君の思い描いた"ミライ"へ羽ばたくんだ!」
「カエデ…そうだな、この姿になってもやる事は変わらない、フレンズを守り続けるんだ。」
「そしてメイ。例え姿形変わろうとも、僕達は親友だ。いつまでも、ずっと。」
「あぁ、その通りだ…!だから最後なんて言わない、バイバイなんて言わない、笑顔で…そしてまた会おう!」
「そうだ、僕達は、またどこかで… 」
──また巡り会えるから。
◆
二人の後ろ姿が遠くなっていく。
メイは昔から頼れて、今もそうだ。
僕なんかと違って、ちゃんとした夢を持っている。
「仲良く…いつまでも仲良くやれよ、メイ。」
「悲しませんなよ…?笑顔にしてあげろよ?」
「そして、僕の事も…忘れないでね。」
笑顔で別れたのに。
それなのに涙が出てくるんだ。
泣かないって決めたのに。
それなのに涙が出てくるんだ…
「合縁奇縁…一期一会…」
そう呟きながら、僕は道を歩いていったのだった。
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