第20話 解放

「これから卒業式…か。」

「だな…」

この高校も見納めだ。

そしてクラスメイト、先生、カエデとの別れ。

中学には経験した事のなかった寂しさが俺を襲う。

「どうしたんだよ、寂しそうな顔をして。」

「この高校にももう通わないんだな…ってさ。」

「なんだい、そんな事かい。」

「そんな事って…お前なぁ…」

「俺達の青い春はもう幕を閉じようとしているんだ…いつまでも、引きずってはいられないだろう?だから、最後は笑顔で別れるんだ。すっきり終われる卒業式になるといいな。」

「あぁ…そうだな。」





「次は、卒業生による歌、"ぼくのフレンド"です。卒業生の皆さん、起立してください。」

「あぁ、ついに歌う時が来た…不安だなぁ。」

「これが僕の最後の歌…」

…カエデ?

「お前…それ、どういう意味だ?」

「ん?僕、なんか言った?」

「あ、あぁ、すまん、聞き間違いだ。」

最後の歌だなんて、縁起でもない。

そうだ、ただの空耳だ。





「ついに卒業式が終わった…」

「いよいよ僕達、別れるんだね…」

校門の前でそう話す。

早いような気がするが、桜も咲いている。

今日は快晴、卒業式にはピッタリの日だった。

「なぁ…カエデ。俺達、また会えるよな?二度と会えない訳じゃ、ないよな?」

「あぁ…なんだか、この桜を見てるとそんな気がしてきたよ。」

「"青い春は今幕を閉じ 桜と共に舞散っても"、きっと会える。また、どこかでな。」

「"僕らが立った今 ゴールは別々スタートライン"、人生これからさ。」

「お~い、メイ~!!」

「って、アライさん!?迎えに来てくれたのか…」

「ふふっ、お前ら仲良しだな~。」

「なっ!そんな事無いって!」

「はいはい、ほら、早く彼女さんの所に行ってあげなよ。」

「くっ…そういう関係じゃないと言うのに…」

その時だった。

丁度工事を行っていたのだろうか。

工事現場の上空から鉄筋コンクリートが降ってきた。

その鉄筋コンクリートはアライさんに…

「っ!、危ない!!アライさん!!!」

「ふぇ?」

このままでは救えない…!

人間の脚力じゃどうしても追いつけない!

こんな形で別れを経験するなんて…

救うことが出来ないなんて…

そんなの、そんなの絶対に…



嫌だ!!



そう思った瞬間、なんだか体が軽く感じた。

「これなら…行ける!」

体力を消費し、一気に詰めかける。

まるで人間離れした脚力で。

ガラガラガラ!

「な、なんとか間に合った…」

「メイ、それ…」

「え?」

改めて自分の体を触ってみると、

ん?なんだ?

若干ゃモフモフっとした耳…

そして結構ゃモフモフっとした尻尾…なお茶色。

丁度いい、そこに水たまりがある…

「何だこれはぁ!?」

茶色の髪に茶色の獣耳。

光り輝く目。

まさしくその姿はフレンズそのものだった。

「えぇ!?何これ!ちょっと!どうなってるの!?」

「メイ…なのだ?」

「あ、あぁ、たしかに俺はメイだ…なんで俺がフレンズに…」

「メイ、その姿…」

「あ、カエデ…」

「そっか、お前フレンズに…」

「原因分かんないけどな…」

「いずれ分かるかもしれないね。」

「お前…意外と驚いてないのな。」

「あぁ…不思議なことがありすぎて、そんなに。」

その時、俺の頭の中に情報が入り込んだ。

「俺は…"ニホンオオカミ"?」

「め、メイはニホンオオカミのフレンズだったのだ!?」

「ニホンオオカミ…絶滅したはずなんだけどな…」

「どういうことだ?」

「なぁ、メイ。お前は僕にフレンズを守りたいと何回も言ったよね。その姿ならきっと僕がいなくても…フレンズを守っていけるよ!君の思い描いた"ミライ"へ羽ばたくんだ!」

「カエデ…そうだな、この姿になってもやる事は変わらない、フレンズを守り続けるんだ。」

「そしてメイ。例え姿形変わろうとも、僕達は親友だ。いつまでも、ずっと。」

「あぁ、その通りだ…!だから最後なんて言わない、バイバイなんて言わない、笑顔で…そしてまた会おう!」

「そうだ、僕達は、またどこかで… 」



──また巡り会えるから。





二人の後ろ姿が遠くなっていく。

メイは昔から頼れて、今もそうだ。

僕なんかと違って、ちゃんとした夢を持っている。

「仲良く…いつまでも仲良くやれよ、メイ。」

「悲しませんなよ…?笑顔にしてあげろよ?」

「そして、僕の事も…忘れないでね。」

笑顔で別れたのに。

それなのに涙が出てくるんだ。

泣かないって決めたのに。

それなのに涙が出てくるんだ…

「合縁奇縁…一期一会…」

そう呟きながら、僕は道を歩いていったのだった。

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