第19話 なのだ禁止

卒業まであと少し。

カエデともこれまで上手くやってきた。

だから…最後まで上手くやりたいところだ。

もう会えなくなるかもしれないが…

「いってらっしゃい、なのだ!」

アライさんはよくなのだ、なのだと口調に付けるなぁ…

そうだ、帰ってきたらちょっと仕掛けてみるか。

「いってくるよ。」





「カエデ…卒業まであと少しだな。」

「あぁ…多分二度と会えないと思うぞ。」

「どうしてさ?」

「言ってなかったか?僕は遠くからはるばるこの高校に通ってるんだ。でも、そんな生活もあと少しでおさらばだ…」

「ならさ、俺の家に来るってのはどう?」

「いや、いいよ…僕も決まった時間に帰らないといけないし、何よりさ、君達、仲良くやってるんだろ?」

「気遣いありがと。」

カエデとは小学校からの仲だった。

いつも傍にいて、俺の話し相手にもなってくれるし…

「そういやさ、大学どこ行くの?まだ聞いてないけど。」

「えっ」

「ん?どうした?」

「い、いや、大学ね、大学はな、〇〇大学に行くんだ。」

「お前…俺になにか隠してねぇよな?」

「おいおい、信じてくれよ…昔からの仲だろ?」

「はは、違いねぇ。」





「アライさん、ちょっとこっち来て。」

「どうしたのだ~?」

「アライさんって、結構なのだ、なのだって付けるよね。」

「ぐぬぬ~、アライさんはそんなに付けないのだ!」

「本当~?」

「本当なのだ!」

「よし、今日寝るまでなのだを禁止してみる?」

「お、お易い御用な…だ!」

言いそうになってるけど大丈夫か?





「アライさ~ん、遊びに来たよ~。」

「フェネック!会いに来て嬉しい…よ!」

「今日は何して遊ぶの~?」

「公園に行きたいの…行きたい!」

「アライさ~ん、今日、なんか変だよ~?」

「そ、そんなことない…よ。」

まずいのだ!

なのだ禁止ってすごい難しいのだ!

思わず言っちゃいそうなのだ…

「アライさ~ん、私はフクロウカフェに行きたいな、ダメかな?」

「わかった!早速行くよ!」





「よく来たのです。」

「今日は何の用なのですか?」

「いや~?ただ遊びに来ただけだよ~。」

「いらっしゃいませ、何かお飲みになりますか?」

「私はミルクティーでいいかな~。」

「アライさんはオレンジジュースが飲みたいの…飲みたい!」

「アライグマ、お前何か変なのです。」

「いつもなら"なのだ"を付けるはずなのです。」

「あ、そういえばそうだね~。」

「きょ、今日1日は"なのだ"を使わないようにするんだ…」

「あ、今使った。」

「そ、それは数えない~!」

「アホなのです。」





「ただいま…」

「あ、おかえりアライさん。」

何やら落ち込んでるけど、何かあったのかな?

外で何かあったのか?

「アライさん、何かあったの?」

「"なのだ"が使えないのは辛い~!」

「あぁ、そういう事か。ごめんね、そんなに辛かったんだ。いいよ、もう使って。」

「やったのだ!やっと使えるのだ!これで我慢しなくて済むのだ♪」

「やっぱりアライさんは"なのだ"が無きゃね。」





明日は卒業式だ。

カエデとの別れの日。

出会いと別れを繰り返し、人は成長する。

だけど、やっぱり別れは寂しくて、悲しい。

それでも俺は笑顔で…カエデに心配かけないように、泣かないように。

別れても、俺達の絆は永遠に繋がってるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る