第14話 バレンタイン
アライさんが来て約1ヶ月が経った。
休みの日はアライさんと散歩したり、レストランに行ってみたり、フクロウカフェや色んな場所に行ったりした。
サーバルちゃん(彼女はそう呼んで欲しいと言っていた)とも仲良くなり、生活は順調だ。
今日は学校。
さて、出発するか。
「いってきま~す。」
「いってらっしゃい、なのだ!」
今日も笑顔の見送りをされながら俺は学校へ向かう。
◆
「アライさ~ん、今日は"バレンタイン"っていう日らしいよ~。」
「"ばれんたいん"?」
「大切な人にチョコを渡す日なんだ~。」
「チョコ…どこにあるのだ?」
「そういえばフクロウカフェの前でチョコを配ってたよ~。そのチョコをあげたらどうかな?」
「急ぐのだ~!」
「そんなに急いだら危ないよ~…ここの留守番は私がしてるからね~。」
◆
「メイ~、この間のニュース見たぞ~?」
「え、ニュースって?」
カエデが俺に話しかける。
あなた…俺が何をしたと言うんですか?
「ほら、強盗のニュースだよ。」
あぁ、この間の強盗…。
『強盗撃退!正義のヒーロー、ここにあり!
〇月×日 強盗がビルに現れた。
仕事場は一気に恐怖のどん底に落とされた。
そこへ二人のヒーローがやってきた。
そのうちの一人はこう言う。
「みんなが危なそうだったから助けに行こうと思ったの!でも、私だけじゃ出来なかった。メイちゃんが助けてくれたの!私はメイちゃんを手伝っただけだよ!」
彼女の名は、サーバルキャットのフレンズのサーバル。
彼女が話していたメイとは、サーバルが撃たれそうになった時に咄嗟に庇った男で、学生であるらしい。
メイは素早く強盗を撃退し、その場に倒れたが、彼の友達…これまたフレンズだが、彼をビルの1階まで運んだという。
彼は無傷だったそうだ。』
「この辺でメイという名の、男の子、しかも学生なんてお前しかいないだろ~!こいつめ~!いつの間にそんなに勇気あるやつになったんだ~?」
「い、いや、俺は勇気がある訳では無いよ…助けたかっだけ。」
そう言いながら教科書を机の中から取り出そうとすると大量のチョコが。
「お?お前強盗撃退のヒーローとして有名じゃないか!やるねぇ!」
そっか、今日はバレンタインか。
「嬉しいよ、初めてのチョコなんだ…。」
「ちょっと暗いように見えるけど、気の所為?」
なぜ暗く見えるのだろうか。
俺は至って元気だ。
チョコももらって、ヒーローと言われ、何も不満ではない。
◆
「貰ってきたのだ!」
アライさんの手の中には袋に入ったチョコ。
よくある一口サイズのチョコ。
「それを大切な人に渡すのさ~。」
「はいっ!フェネックにあげるのだ!」
「私に?なんで~?」
「アライさんにとってフェネックは親友なのだ!あげて当然なのだ!」
「アライさ~ん…。ありがとう。」
後一つあるのだ!
あげる相手はもちろん決まっているのだ!
待ち遠しいのだ!!
◆
「ただいま~」
「あ…あの、メイ…」
「ん?どうしたの?アライさん。」
なんなのだ…これ…
胸がドキドキして…
なんだか痛くて…
き、緊張するのだ…
フェネックに渡した時はそんなことなかったのに…
「な、なんでもないのだ!」
「変なアライさんだな~。」
◆
アライさんはその後何度もチョコを渡そうとした。
しかし、何度やろうとも緊張して渡せないのであった。
「アライさん…何か悩みでもあるの?」
「え?ち、違うのだ!」
絶対にあるよ…
俺が悩んでいた時だって、友達に相談出来なかった。
俺と同じ心境を抱えた彼女。
もしかして、外で何かあったんじゃ!?
「アライさん…俺の目をよ~く見て。」
「ふぇ?」
「悩み事があったら絶対に俺に言うんだ。
俺は相談なら絶対に受ける。
だからアライさんは心配しないで俺を信じて、相談してくれ。
緊張するかもしれない。
でも、思い切って言った方が絶対にいいんだ。」
「メイ…分かったのだ!アライさん、今なら言えるのだ!」
やっぱり悩みがあったんだね…
どんな悩みなのかな?
「メイ…今日はバレンタインなのだ!アライさんがチョコをあげるのだ!」
「チョコを?」
彼女の手には小さな一口チョコ。
これってフクロウカフェで配られてたやつじゃ…
…そっか、アライさんはまだチョコが作れないんだ。
多分、コノハかフェネックとかにバレンタインの事、教えてもらったんだね。
チョコが作れなくたって、その気持ちが嬉しかった。
「アライさん…ありがとう!俺、とても嬉しい!」
メイがそう言うと、アライさんの緊張していた顔が、徐々に笑顔になっていく。
「良かったのだ!メイがアライさんのチョコを受け取ってくれたのだ!アライさんもとっても嬉しいのだ~!」
◆
アライさんが寝た頃に、俺はチョコを頬張る。
とろけるような甘さ、そして少し苦味がある。
アライさんはこのチョコを頑張って渡そうとしていたんだ…
そう思うと、このチョコの味を一層美味しく、甘く感じた。
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