第10話 動き

 清々しい朝の時間。高校に行くまでテレビで時間を潰すのが日々の日課となりつつある。

 もちろんニュースである。

 情報収集は大事なのだからな。


『「フレンズ」と呼ばれるに至るほど、日常生活に溶け込んできたアニマルガール達ですが、それに対する運動、反フレンズ運動が各地で展開されている模様です』


 俺はその声を聞き、思わず声を上げる。


「どうしたのだー?」


「い、いや、なんでもない…」


 あ、危ない危ない…

 こんなのアニマルガール…いや、フレンズであるアライさんが聞いたらどう思うか…

 それにしたって不思議な事である。

 何が不満なんだろう…?


『一部の地域ではフレンズは入れない施設が出来ており、フレンズに対する暴力を行った事例もあるようです。』


『このような問題について、ネットで話題になっている動物愛好家のミライさん、どう思いますか?』


 黄緑の髪の女性──ミライは問いに答える。

 ゆっくり息を吸いこんで、静かな怒りを表情に表しながら。


『そんな事あっていいはずはありません.人間はそうやって動物を毛嫌いしますが、動物は決して悪気があって人間に危害を加えている訳では無いのです。


 ましてやフレンズですよ?危害を加える要素も何も無い…彼女達は純粋に、この社会の中で生きています!偏向報道的な関係で詳しくは言えませんが…私には理解できませんね。


 反フレンズ運動を行う方々の考えも是非聞かせてください』


『ミライさん、ありがとうございました。

 これは重要な社会問題になりそうですね、引き続き当番組ではこの話題について…』


 ミライさんは、俺がその運動に対して思うことをすべて言ってくれた。


 人間は自分が生きていくためなら同じ種族の人間ですら蹴落とす。

 騙し合い、憎みあい、殺し合い…


 緑を破壊し、自分が一番だと威張る。この世に善人だと言える人は少ないんじゃないか?


 人間……共存のためには、考えなければいけないこともあるはず…


「メイ…どうしたのだ?」


「あ、いや、なんでもないよ…うん、行ってくるね?」


「今日も学校頑張るのだ〜!いってらっしゃい、なのだ!」



 ◆



 一方の教室では今朝のニュースの話題で持ちきりである。


「あのニュースみたか?」


「ミライ…だっけ?俺ああいうは嫌いなんだよねぇ…」


「俺は動物好きだから、反フレンズ運動には反対だなぁ、あの人の言うことわかるわ~」


「てかフレンズって何?名付け親ダセェんじゃね?」


「「「それなー」」」


 賛否両論とはこの事である。

 自分の気持ちを語っただけで偽善者と呼ばれるようなこの社会である、これほど悲しいことは無いね…


 …それにしたって不思議である。

 見た目は紛うことなき人である。ただ尻尾と獣耳が生えてるか、生えてないかの違いだ。

 それだけで…何故ここまでの問題が生まれるのさ?


 世の中の考えることはよくわからないね…


「難しい顔してるね、メイ」


「あ、楓(カエデ)…」


 目の前の親友、カエデが声をかける。

 こんな名前してるが実は男子…っと、これは失礼だった。


「なぁ、カエデ…お前、"フレンズ"についてどう思うんだ?」


「"フレンズ"、かぁ…ごめんね、僕はそういうの詳しくないんだ。でもね、見る限りだとそこまで悪い事ばかりでもないよね?」


「はぁ〜〜?」


 まさしく喧嘩を売る時のような声を上げながらやって来た人物、制服のボタンを所々外し、歪な髪型、入れられたタトゥー。

 将来が心配になるほどの絵に描いたような不良である。


 その不良、まぁヤンキーは学年の中でも結構な話題になっている。

 そのヤンキーが俺達に何の用だろうか。


「フレンズぅ?はっ!そんなん動物が人になっただけじゃねぇかよ?人様に到底勝てない動物が人の真似をしても所詮は下等生物、家畜なんだよ!」


「…馬鹿じゃない?」


「あ?」


「やめた方がいいよ!メイ!」コショコショ


 カエデが小声で忠告する。


 …が、さすがにこの論に反せずにはいられない。というのも、フレンズという概念そのものを否定し、人間を高く持ち上げるという考え方が俺は一番嫌いだ。


 フレンズでなくても、自然、動物であってもそうだ。


「大体その考え方はなんだ…?お前は普段何を学んできた?フレンズが下等生物?人の真似をした?馬鹿じゃないのかな…?


 多分君よりは賢い考え方もできると思うし、元気だって与えてくれるよ…今、俺の支えになってるのも実際フレンズなんだから…」


「アァ?なんだとォ?」


「ちょっと!2人とも!」


 これ以上はいけない。

 一触即発の状況である。ヤンキーは今にも殴りかかってきそうだ。


 …俺は喧嘩は得意じゃない。

 でもやるしか…


「止めるのだ!」


 戸が開き聞こえたのは、いるはずのないアライさんの声であった。



 ◆



「アライさん…!?」


 なぜ学校にアライさんが…!?

 アライさん…どうして?


「なんであんなところにフレンズが…」


「もしかしてメイの知り合いか?」


「可愛いなぁ~」


 クラスメイトの声がコソコソと聞こえる。

 あぁ…これ結構やばい状況じゃないのかな…


「アァ?てめぇフレンズか?」


 ヤンキーが声をかける。

 不味いな…色々な意味で。


「そ、そうなのだ!何か悪いのだ!?」


「てめぇのような下等生物に止めろなどと言われる筋合いはねぇ!!ちったぁ思い知れ!」


 ヤンキーの拳がアライさんに向かう。

 アライさんは目をつぶって殴られるのを覚悟する。

 なんて奴なのだろうか…平気で手をあげているだなんて。

 狂っていやがる…!


 そんな事を思ってる時間は無い!

 今はアライさんを守らなければ…!

 このヤンキーから…



 汚れた人間から…

 フレンズを守ってあげなければ…



 ◆



 パシッ!

 自分でも信じられなかった。

 最近は不思議なことがよく起こるものだな、などと呑気なことを考えるほど余裕である。


 というのも、自分がどこから湧き出たかもわからない力でヤンキーの拳を抑えてるからである。

 そして逆の腕を振る。


「ガァ!?」


 俺の拳がヤンキーの顔面にクリーンヒットする。

 いや、拳ではない。

 …"爪"だ。

 普段俺はあまり爪を切らないので爪は伸び、鋭くなっている。

 鋭い爪は相手に素早く、そして深いダメージを与える。


 …いや、こんなに伸びてたか?


「メイ…!」


 カエデが俺を見て驚く。


「目が…光ってる?」


 それを聞いた俺自身も驚く…


「…え?」


 ヤンキーは顔に切り傷を残し倒れる。

 顔を抑えながら立ち上がる、それはさながらRPGで出てくる勇者にコテンパンにされる盗賊のようであった。


「…メイ!この野郎!覚えてろ!」


 不良はどこかへ逃げてしまった。

 …なんだろう、この力…

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