第11話 ごめんなさい
一言で言えば大問題である。
学校の関係者でもない、生徒でもない。そんなアライさんがここに来るというのはかなりの問題である。
「アライさん!なんで学校に…!」
人気のない所にアライさんを連れて隠し、アライさんを叱りつける(決して深い意味は無い)。
「だ、だって、メイが…危ないような…気がしたのだ…。だ、だから、助けたかったのだ~!」
「それでもやっていいことといけないことはあるんだよ!」
決して俺は怒りたい訳では無い。
分かってほしい、世の中にはやっていいこととやってはいけないこととがあるんだ。
「…ごめんなさい」
…目の前の少女は小さく呟く。
少し涙を流して、それから一気に糸が解けるように、感情が爆発して…
──それは、赤ん坊のように。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!だから許して欲しいのだ!もう二度としないのだ!だから…嫌いにならないで…欲しいのだ…!」
目の前の少女は涙を流す。
さすがにここまで泣くとは思わなんだ。
…ちょっと罪悪感が俺を襲う。
「メイが遠くに行っちゃうようで…ひっぐ、だってあの時のメイ…えっぐ、怖かったのだ…。嫌いにならないでほしいのだ…!アライさんはメイの事が好きなのだ…!」
「嫌いになんてならないよ…」
「うぇ…?」
…なんだろう、この感情。
"遠くに行く"
そんなはずがないから…!
「俺は、絶対に遠くに行ったりなんてしない…!」
絶対に、一人にはさせないから…!
「俺は、アライさんの事が守りたい!」
かつて守られなかった俺が、守らなければならない…
「絶対に…!一人にする訳がないじゃないか…」
「メイ…じゃあ、」
──アライさんのこと、好き…なのか?
「当たり前だ!!!」
自分でそう言って五秒した頃だろうか、自分の言ったことが恥ずかしくなったのだろう。
顔が赤くなってきた。
「メイ…顔が真っ赤なのだ~」
涙でグシャグシャの顔だけど、確かに笑っていた。それは満面の笑顔であった。
ば、馬鹿をいえ!
別にそういう好きじゃないだろ、何を赤面してるんだ俺は…
「べ、別に真っ赤な訳じゃ…ないし…」
「嘘なのだ~。メイにもそんな1面があったなんて、信じられないのだ~」
「っ〜!!もう〜っ!!」
からかいおって…
はぁ、さっきまで怒鳴ってたのが馬鹿みたいだな…普通に教えればよかったじゃんか、こんなに泣かせちゃってさ。
「メイ、一つお願いを聞いてほしいのだ」
「絶対に…無理をしないで、悩みがあったらアライさんに話すのだ。」
悩み……
今の今まで全部悩みだらけだったようなものだけどね…
でも、何でだろうね。
「分かったよ、アライさん…心配かけてごめんね、最近は心配かけてばかりだからさ…」
「じゃあアライさんは笑うのだ!笑って笑って、そしてメイの暗い顔も、ぴかぴかの笑顔にするのだ!!」
なんだか君の前だとそんな悩み、どうでもよくなっちゃうや…
◆
本当は俺の方が駄目で、アライさんほどはっきりと言い切れる自信はなかった。
でも今回の事件…アライさん、そしてフレンズを守りたいという"キモチ"。
それがあったから、俺はまた一歩前進出来た。
また俺はアライさんに救われた。
◆
通りがかりのフェネックにアライさんを任せ、俺は学校に戻る。
心臓の鼓動がよく聞こえる。
まさしく『緊張』の二文字が似合う、というのも仕方ないことである。
なぜなら先ほどあんな騒動を起こしておいて教室を出てるのだから、みんなは…
あぁ、考えたくもねぇ!恥ずかし!
ガラガラガラッ!
戸を若干乱暴に開け、即座に頭を下げる。
「みんな、さっきは熱くなってごめん!!」
場が静かになった。
まるで誰もいなくなった世界にただ1人しかいないようだ。
うぅ…三年の三学期にこの雰囲気とかやってられないよ…
「なんだよ~、びっくりしたじゃねぇかよ~、メイ」
そこには、さっきの出来事などあまり気にしてない様子の親友の姿があった。
「カエデ…」
その声をきっかけとしてからか、同級生達が次々と話しかけてくる。
親しい友人などは少ない。
卒業間近なのにね。
やっと打ち解けた…のか?
「おいおい~、さっきのフレンズ結構可愛いじゃん?」
「俺、フレンズ好きになったかも!」
「あの不良を1発でノックアウト!どうやってやったの!?」
「みんな…本当にすまない」
改めて謝罪の意を示す。
「心配しなくても、みんなメイを受け入れてくれるから、大丈夫だよ」
「…ありがとう!」
それから俺はみんなと色んな話をした。
教室でこれほど充実な日が来るなんて想像することもなかった。
ふと、前にミライさんが言っていた言葉を思い出した。
『けものはいても、のけものはいない』
反フレンズ運動に対して反対する彼女。
反フレンズ運動が起こる前は、そんな言葉が出るほど、フレンズを愛していた。
俺は有り得ないほど非力である。
社会に対してもそうである。さっきだってたまたまだ、たまたまなのだ。
彼女を支持する声もあるだろう。でも、同じ反フレンズ運動に反対する同業者やコメンテーターはいない。
たった一人で、テレビの前に立つんだ。
俺もいつか、フレンズを守りたいという気持ちを、堂々と話せ、そして本当に守れるような人になりたい。
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