第6話 昼時

 洗い物中、アライグマでピンと来た俺は、試しに朝ごはんで使った皿を洗わせてみることにした。


「ねぇ、アライさん」


「んー?なんなのだ?」


「これ、洗ってみない?」


 皿を見せると、なにやらうずうずしだした。

 あ、そういう…

 そして、皿を洗剤やスポンジで丁寧に洗い始めた。


 アライグマって実際は洗ってなかったんじゃ、という疑問を全て異世界に置く必要がありそうだ。


「凄い洗うね…」


「洗うのは好きなのだ。ピッカピカにしてやるのだー!」



 ◆



 昼は、特に予定もないので外食に行くことにした。

 ちょうど近くにファミリーレストランがあるので、そこで食べるのだ。


 外は寒い。

 今は冬時だ。

 さすがにあの格好じゃ彼女も寒いだろうから、家にあったコートを着せた。


「んー!これ結構暖かいのだ!」


 彼女も気に入ってくれたようだ。

 やっぱり、寒かったんだろうか?



 ◆



 冬休みの昼時ということもあり、中にはそれなりに人がいた。

 幸い、待ち時間はなかったためすんなり入れた。


 アライさんはハンバーグを選択した。

 俺は適当にパスタを選ぶ。


 料理が来るまで、しばし雑談の時間だ。


「そういえば、メイって…なんでアライさんにここまで優しくしてくれるのだ?」


「え?あぁ…ちょっと心配だからね、ほら、物騒な世の中だしさ」


 そう、心配なのだ。

 別に、アライさんを警察に届けて今までどおり暮らしてもいい。

 が、ベースがベースなのでどんな扱いを受けるかわからない。


 この善が彼女や社会にとってどうなるかは…わからないが。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


 ハンバーグ、そしてパスタ。

 これに舌づつみを打つ。

 彼女はこのハンバーグがたいそう気に入ったようで、「すっごい美味しいのだ!焼きそばよりも好きなのだ!」と言ってくれた。


 地味に心に刺さった。



 ◆



 完食し、そろそろ帰宅しようとしていた時だった。


「メイって、親はいないのか…?」


 突然彼女はそう聞いてきたのだ。


「…なんで?」


「アライさんには親がいたのだ。でも、メイの親はどこを探しても見つからないのだ…離れてるだけなのか?」


「…」


 どう答えたらいいかわからなかった。

 実は、俺の家庭事情は少し複雑だ。


「まぁ、確かに、離れているね。かなり遠くに」


「会えないのか?」


 お見合いじゃないんだから…と、ツッコミたくなる気持ちを抑えた。


「会えないだろうねぇ」


「いつか会ってみたいのだ!メイも会えるといいのだ!」


「…そうだねぇ」


 少し複雑な気持ちになった。

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