第2話 少女

「えと…すいません、ありがとうございます。俺は大丈夫です」


 目の前にいる少女は、大丈夫という言葉を聞いた瞬間、安堵したようだった。


「はぁ、良かったのだ…」


 聞くところによれば、彼女自身もよく覚えていないのだが、俺が倒れているところを発見して必死に呼びかけてくれたそうだ。


 …なんで倒れてたんだっけ?


「もう遅いから帰ります、ありがとうございました」


「本当に、本当に大丈夫なのか?アライさん心配なのだ…」


 その少女はかなり心配そうに、何度も尋ねてくる。

 随分と個性的な一人称だ。いや、他の誰かかもしれないが。


「大丈夫です…ありがとうございます。歩けますし、特に痛いところもないです。

 家に帰ることにします…ありがとうございます」


礼を無駄に二回も言って、その場から立ち去った。



 ◆



「ただいま」


 家に入って気付いた。

 台所の方から、音がする。

 そういえば、窓は開けっ放しだった。

 つい先程まで、ベランダの方で、なんとなく星空を見ていたからだ。

 不用心な俺は、よくそんな事をする。


 台所への扉を、ゆっくり開ける。

 本来なら、ここで警察か何かを呼ぶべきだ。

 窓が開けっ放し、ドアの向こうから音がする。


 どう考えても警察行きなのだが、好奇心は身の安全より、その音の正体…まぁ、人なんだろうけど。

 それを暴くことを選んだのだ。


 音がならないように、ゆっくりとドアを開ける…

 そこに、いたのは。


「…なんで、ここに」


 先程あった少女だった。



 ◆



 話によれば、「なんかいい匂いがしたから入った」そうだ。

 この時点でもうおかしい気がする。

 気がするって言うか、絶対におかしい。


 そういえば、さっき作っておいた焼きそばがあった。

 この匂いにつられてやってきたのだろう。


「アライさん、お腹がぺこぺこで…それで、ご飯を探してたのだ!」


 この少女、やはりアライさんというらしい。

 どこかの誰かのことを指していたわけではなかった。


 …というか、そんなことより外食を取らずに、野生動物のようにご飯を探すのもかなりおかしい気がするが、もうこの際突っ込まないでおこう。


 なぜならこの子、獣耳と尻尾のようなものを付けている。

 真冬の夜、この格好で外にいるようなら、まぁ常識は通用しないのは明らかだ。


「食べる?」


「! もちろんなのだ!」


 彼女はその焼きそばにがっついた。

 箸を渡したのだけれど、かなり雑に扱っている。


 やがて食べ終わると、そのまま寝てしまった。

 いや、ここで寝られると困るけど。

 しかし、寝てしまったものは仕方ないので、布団の上まで運び寝かせた。


 そして俺は、仕方ないので、ソファの上で寝ることにした。

 テレビの音声を、耳に入れながら。


「次のニュースです。流星が各地に落下。不思議なことに被害者は誰もおらず、痕跡もほとんど見つかりませんでした──」

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