夏休み編
第6話 着信
ある夏の日で、そこは辺り一面に広がるひまわり畑であった。
そして、そこに彼女はいた――。
「またか……。」
白いワンピースを着、顔が隠れるくらい大きなつばの白い帽子を被っている。髪は腰の位置までかかるくらいの長さであった。
周りから聞こえて来るのは、風の音と蝉の鳴き声くらいなものだった。
俺は大抵この夢に遭遇したほんの数分は頭が回らずただ呆然と立っているだけであった。
また何も話せずに終わってしまうか……。
そう思った矢先、俺の方を向いていた彼女はいきなり後ろを向き歩き始めた。
「ま、待ってくれ!」
俺はそう言ったと同時に彼女を追いかけた。
彼女が歩くほんの1メートルくらい後ろをついて行った。
辺りを見回したが一面ひまわり畑が広がっていて、まるでこの世界全体がひまわり畑に覆われているかの様だった。
俺はチャンスだと思い彼女に話しかけてみた。
「な……なぁ……。」
「……。」
彼女は一言も話す事無くただひたすら歩くだけであった。
「この前の夢で『しばらくしたらってわかる』ってどうゆう意味なんだ?教えてくれよ。」
「……。」
彼女は何も話さない。
そういえばさっきから太陽が照りつけているのに暑さを感じない。やはり夢だからだろうか。
「まだ……思い出せないの?」
「え?」
彼女が口を開いたが逆に質問が返ってきた。
「まだって……何をだ?」
「じゃあ私とあなたの思い出はその程度のものだったのね。」
冷たい声でそう言ったが、俺は何を言われているのかさっぱりわからなかった。
「思い出って何なんだ?教えてくれ!」
俺は必死になって彼女に言った。
彼女は立ち止まり前を向いたままこう言った。
「そのうちわかる……。」
またその言葉か……。
彼女が「さようなら」といった瞬間俺は夢から覚めた。
勢いおく上半身を起きあげた。
「夢か……。」
俺は大きなため息をついた。
今日で夏休みが始まって5日がたった――。
最近はあの夢を見ていなかったので久しぶりに見て少し寝不足気味になった。
「寝るか……。」
俺はエアコンの温度を下げてまた寝ることにした。
2、3時間寝たあとまた起きた。夢は見なかった。
1階に降りて洗面所で顔を洗いながら、ふと思ったが最近あまり見る夢が少なくなったが見る夢は全部あの夢だということだ。
「にしても暑いな……。」
最近は地球温暖化とかなんかで夏はとにかく暑い。こんな日はクーラーがきいた部屋から一歩も出たくないものだ。
ま、でもあのサウナみたいな夏の体育館よりかはマシか……。
そういえばもう引退してから1年以上経つのか……。そう思いながら俺は右肩に手をあてた。少し心の中にあった何かが消えたような寂しさを感じた。
「とりあえず……朝飯食おう。」
リビングに入りテレビを観ながらソファに座っていた母親に「なんか食うもんない?」
と言った。
「冷蔵庫に入ってるから適当に食べといて。」
「はいよ。」
冷蔵庫に入ってあった白飯とか目玉焼きとかを適当にレンジで温めていると母親が、
「あんた、ずっと家にいるのもあれだからたまには友達とどっか遊んで来なさいよ。ニートになっちゃうわよ。」
「たまになら行くつもりだよ。」
俺は適当に言葉を返した。
「あ、あと。」
「何?」
俺が尋ねると俺の方を向いて「ちゃんと夏休みの宿題やっときなさいよ。一学期成績酷かったんだから。」
俺の心にぐさりと刺さるようなことを言った。
「はいはい……。ちゃんとやっときますよ……。」
面倒くさそうに応えた。
「部活続ければ良かったのに。肩ほぼ治ってるんでしょ?」
母は少しため息をはいた。
「まっ……まあね……。」
少し後ろめたさを感じた。また右肩に手をあてた。
朝食を終え、自分の部屋に戻りスマホを弄った。
「何もやること無いな……。」
やっぱバイトしようかな。
夏休み前澤口がバイトを応募していたのを思い出した。カフェはやらないけど。
そう思っていた時、スマホのバイブと共に着信音が鳴り響いた。
「誰からだろう。澤口あたりかな。」
そう思ってスマホの画面を覗いたら驚愕の二文字しか浮かばないほど予想外の名前があうつしだされていた。
相原美羽という名前の――。
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