第5話 夏休み前日
7月20日――。
1学期最後の日であり、夏休み前日である――。
今日は終業式と、悪魔の成績表配布だけでこれが終われば夏休みだ。
俺は暑さと勝負をしながら体育館で教頭の長たらしい話を半分聞いていた。
澤口とはカフェの時以来、“国影村”について話していない。くだらない一高校生の会話をするだけだった。
成績表の配布の時「どうだった?」と声を掛けてきたの相原だった。
「どーもこーも、至って普通……かな……」
「ふーん。じゃあ見せてよ。」
何か悪巧みを考えている小学生の良いな笑みを浮かべて相原は言った。
俺は渋々交換条件を元に量症した。ま、減るものでは無い……。
相原はまたもやあの笑みを浮かべて成績表を渡してきた。
それを見た瞬間、やはり何かがすり減ってしまった。
“5”しか無い成績表を見てしまえばそれも納得がいくであろう。
確かに入学式で相原が新入生代表で何か読んでた気がする。
「お前……。レベル下げて入ってきただろ……。この高校に。」
俺は相原に成績表を返してそう言った。
「ん〜、どーかなー。でも中学の模試で偏差値は70無いくらいだったからなぁー。下げたようなもんかな〜。」
涼し気な顔でそう言った。
こいつ……。俺は無性に悔しくて仕方が無かった。
「でも、なんでそんなに頭が良いのにこんな高校に来たんだ?」
俺の中にあった疑問をそのまま投げつけた。
「ん〜。まぁいろいろ合ったからね。そこはプライバシーに関わるから言えないかな……。」
相原は何かにごす様に言った。
「別にそこまで知りたい訳じゃあ無いから、言えないだったらいいんだけどさ。」
俺は半分申し訳無さそうになった。
相原は何か話題を変えようとおどおどしていた。
「そ、そう言えば、夏休みおばあさんの家に行くんだっけ?」
「あ、ああ……。よく覚えてたね。」
「まぁね。」
少し嬉しそうに言った。
別に……褒めては無いが。
「祖母の家に行くって行っても墓参りなんだけどさ。」
「あ。そうだったの。なんかごめんね。」
「別に構わないよ。」
「おばあさんの家ってどこにあるの?」
「国影村ってとこにあるんだよ。聞いたことあるか?」
「ん〜。聞いたとこないわね……。」
「そっか。」
相原も聞いた事が無いのか……。まぁ俺も調べた限りじゃ怪しくは無さそうだし。第一俺が住んでたんだからな……。
「その村と“夢”って何か関係でもするの?」
「お前……。サイコパスかよ……。」
驚きを通り越して呆れてしまった。
「あ、やっぱり何かあるんだ。」
予測が当たって少し嬉しそうな相原。
「なんとなくだけど、関係がありそうなんだ……。なんとなくだけど。」
「でも何もしないよりはマシじゃない?」
「俺も自分にそう言い聞かせてるよ。あんまり関係ないと思うけど。」
チャイムが鳴ったので俺は「じゃあまた、夏休み明けで。」と言い相原は「うん。じゃあね。」とごく普通の会話を交した。
教室を出る前に澤口と合流し、昇降口まで向かった。
「あ、そういえばあのバイトの件はどうなったんだ?」
この間澤口に美人のバイトさんがいるカフェに連れて行かれ、しかも勢い余ってバイトの応募宣言をした始末。
「もちろんだ!そして今日は面接日なんだ。」
胸を踊らせながら澤口は言った。
「せいぜい落ちないようにな。」
呆れ顔で言った俺だが、澤口は自信満々に「俺は絶対に受かってみせる!何せこの日の為にバイトの面接の練習めっちゃしたから!」
俺はその努力をもう少し別の方向に使え無いかと思いため息をついた。
「じゃ!必ず朗報を送ってやるからな!覚悟しとけ!」
そう言い残して澤口は自転車のスピードを今まで見たことのない速さで学校を後にした。俺からしたら朗報でも訃報でもないんだけどな……。
バイトの面接があってからか結局今日、俺と澤口はあの夢について一切話をしなかった。
まぁあいつから見たら俺の話も関係無いか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます