第4話 美人アルバイト
期末テストが終わりようやく夏休みに入ると思っていたら、毎日気温が35℃前後になり夏本番となっていた。
テストの結果?そりゃぁもちろん赤点は無かったさ。ま、良い点数では無いけど……。
補習は免れたし、OKということだ。
国影村は8月に入ってから行くらしい。
期待と不安が高なっていた。
期末テスト終了後から終業式の日までは、午前授業という素晴らしい時間割だ。今日は放課後澤口と駅前に出来た新しいカフェに行く予定だ。何故そうなったかというと、朝のHR前に遡る――。
「なぁ北崎、今日暇か?」
「あぁ暇だけど?」
「じゃあ、駅前に新しく出来たカフェ行こうぜ!」
「カフェって……。カップルでもあるまいし。」
「まぁ俺はお前とカップルでもいいけどな……。」
「はぁ!?」
俺は思いっきり立ち上がり椅子が床に倒れた。クラス中が俺に注目していた。
俺は恥ずかしくなり、無言で椅子を戻し座った。
「ハハハ……冗談だよ。」
北澤は満足そうに言った。
「はぁ……やめてくれよ。」
俺は大きなため息をついた。
「だが、目的はカフェのメニューじゃない。もちろんたのむけど。」
「じゃあ何なんだ?」
「1組のやつの情報によると、そのカフェに他校の美人の子がバイトをしているらしい。」
北澤は興奮気味に話した。大丈夫かこいつ?
「で?その子にナンパでもする気か?」
「いやいや。そんなことはしないのだよ北崎くん。」
いきなり口調が変わった。明らかに興奮してるぞこいつ。
「ただの目の保養さ。最近美人という美人を見てないからな……。この学校はハズレかもな……。」
全校の女子生徒を敵に回すような発言は控えていただきたいものだな……。
「ま、家に帰ってもすること無いし行くか……。」
HR後俺と澤口は駅に続いている川のプロムナードを自転車で走り抜けていた。
そういえば、期末テスト前にもここを通ったな。相原と。
駅前の格安の駐輪場に自転車を留め、目的のカフェへと向かった。
店の中に入り、案内された窓際の席に座った。澤口はとても落ち着かない様子で辺りを見回していた。
「そんなに見回さなくても……。その内現れるでしょ……。」
「さすがにここまで来て待てない!」
そう言った瞬間澤口のターゲット、そう、あの美人のバイトが現れた。背が高く脚がモデル並みに長く、ロングヘアの透き通った顔をしていた。こっちに来る。
「やっべー、すっげーかわいい。来て正解だったわ……!」
やや興奮気味の澤口。
そして、その美人は俺たちが座っている席の目の前にやって来た。
「いらっしゃいませ。本日はご来店ありがとうございます。こちらがメニュー表です。」
透き通るような声で丁寧に挨拶した後、メニュー表を俺達に渡した。澤口はただ顔を真っ赤にしてただぼーっと見つめているだけだった。
美女が行った後、少しの間澤口は放心状態だった。
「おーい。澤口生きてるかぁー。」
「俺。もう死んでもいいかも……。」
完全に澤口は壊れていた。大丈夫かなんかこいつ?何かの拍子で手でも触れたら卒倒しそうな感じなのだが……。
とりあえず俺はカフェオレを注文した。
それからというもの、美人のバイトが通っては澤口はただぼーっとアホみたいに眺めていた。
「俺。この日の為に生きて来たのかもな…
…。」
「大袈裟過ぎる。」
冷静に反論する俺。
「よし。決めた!俺ここでバイトする!」
恐れていたような恐れていなかった様なことを澤口は突然宣言しだした。
「せいぜい頑張れよ。」
「お前もバイトするんだよ。」
「はぁあ?」
本日二回目の「はぁ?」が出てしまった。
「さすがに一人じゃぁ心細いからな。」
「俺はやらんぞ。」
「どうせ暇だろ。お前。」
「そりゃあ暇だが、バイトはしないぞ。」
「お前、俺に先越されて良いのか?」
「何がだ?」
「もしも俺とあの人がイイ感じになって付き合ったら……。お前はボッチだぜ。」
人を見下す様な顔で俺を見るな。第一、澤口とその美人がくっつく確率は宝くじの当選確率より低かろう……。ま、そんなこと本人には言えないんだけどな。
「俺は別にそれでもいいぜ。それによ、俺が入ったらまず澤口とその美人がくっつかない様に阻止するかも知れないんだぞ?」
「お前もあの人の事を……!」
「違うって、可能性の話をしているだけだ。」
「そこまで言ってまでしたくないのか?」
「バイトなんか入れたら行けなくなる……。」
「どこにだ?」
小声でしゃべったつもりなのだが澤口は反応した。
「8月に入って直ぐに“国影村”っていうとこに行くんだ。」
「その“くにかげむら”ってのは、あの夢と何か関係があるのか?」
思わずはっとした。
「お前それ適当に言ったのか?」
「図星のようだな。」
「まだ100%そうとは言い切れないが、多分何か関係があるんじゃないかと思うんだ。」
澤口はいつの間にか注文していたカップを飲み「なるほどな。」と言ってひと呼吸おいてこんな事を言った。
「俺はその村に行くべきでは無いと思うな。」
俺は一瞬硬直した。そして頭に思い浮かんだ言葉を言った。
「何故だ?」
「なんとなくだ。だからと言って別に止めはしないかけどな。」
いつもとなく澤口は真剣な眼差しで言った。
それから直ぐして俺と澤口は店を後にした。
駐輪場から自転車を取るとき、澤口は「ただ一つだけ言えることがある。」と言った。
「なんだ?」
「それは……それは俺は帰って速攻あのカフェのバイトに応募するという事だ。」
俺は口を開けたまま固まってしまった。
「なんだそれ。」俺は笑いながらそう言った。
「じゃ、またなー。」と言い残し澤口は帰った。
さっきのは何だったのだろうか……。気まずい空気を打ち消す為に言ったのかそれとも……。
俺も帰るか。
川沿いを自転車を漕いでいると雑木林のほうから蝉の鳴き声が聞こえた。
もうすぐ夏休みか……。
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